■18 クセがありそうだな / ハルと池の魚たち
広がる乾いた大地を歩き続け、零たちの視界にようやく賑やかな町が浮かび上がってきた。太陽が高く昇り始め、遠くから聞こえる市場のざわめきが、まるで風に乗った音楽のように耳に届く。旅人や冒険者たちが行き交い、屋台や店が所狭しと並んでいるその光景は、まるで異国の祭りのような華やかさを放っていた。
零はその活気に心を奮わせながらも、冷静さを保って仲間に声をかけた。「ここで、これまで討伐してきた魔物の素材を売ろう」彼は、手にした戦利品が詰まった重たい袋を肩にかけ、守田と麻美に目を向けた。
守田もまた、市場を見渡しながら「素材を買い取る店を探そう」と言い、視線を巡らせた。やがて彼の目に留まったのは、赤い布を頭に巻いた派手な商人だった。豪華な服装と自信に満ちた表情は、その男がこの市場で一目置かれている存在であることを物語っていた。
「なんか、あいつはクセがありそうだな」と、守田は軽く眉をひそめたものの、興味を引かれ、その男に向かって歩き出した。
麻美もその様子に苦笑しながら「でも、ああいう人ほど高値で買ってくれるかもね」と、柔らかな笑顔を浮かべた。
零たちがその店に近づくと、商人はすぐに彼らに気づき、にやりと笑いながら近寄ってきた。その動作はまるで舞台上の俳優のように大げさで、手を広げて歓迎の意を示す。
「おお、冒険者の諸君!この素晴らしい朝に私の店を選ぶとは、見る目があるな!」その声は高く、まわりの喧騒を超えて響いた。
「お前たちは、強力な魔物を討伐してきたに違いない。その袋の中には、価値のあるものが入っているはずだ。さあ、見せてくれ!市場で最高の値をつけてやろう!」彼はその言葉と共に、零が持つ袋に興味深そうな視線を注いだ。
零は少し警戒しつつも、袋を差し出した。「ゴブリンやオークの素材、そしてジェネラルオークの角もある。いい値で買い取ってくれるか?」
商人は袋の中身を確認すると、その目が一瞬輝いた。「ほう、ジェネラルオークの角か…これは貴重だな。だが少し傷が多いな…」
守田が少し前に出て問いかけた。「で、いくらで買い取ってくれる?」
商人はわずかに考え込み、ニヤリと笑みを浮かべた。「銀貨150枚…いや、180枚にしておこう。それ以上は勘弁してくれ」
零はしばらく考えたが、最終的に頷いた。「それでいい、取引成立だ」
「話が分かる冒険者よ!」商人は笑みを浮かべながら、銀貨を手渡した。
麻美はその光景を見て、軽く肩をすくめた。「悪くない取引だったわね」と微笑んだが、その瞳の奥には冷静な観察が光っていた。
零たちは市場を歩きながら、次の冒険に備えるための準備に思いを巡らせていた。彼らの手首に輝くブレスレットは、今回の取引で得た資金によってさらなる強化が施される予定だった。ブレスレットにセットされた魔石が、次の戦いに向けて静かに力を宿し始めている。
零は手首のブレスレットをじっと見つめた。その表面に施された細かい彫刻は、まるで古代の呪文が込められているかのようで、魔石の脈動が微かに感じ取れる。「この力で、次の戦いを乗り越えられるはずだ…」そう自分に言い聞かせながら、彼は仲間と共に市場を後にした。
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ハルは零の気配を探しつつ、森の中を軽やかに駆け回りながら新しい遊びも探していた。風が心地よく、木漏れ日の中をぴょんぴょんと跳ねる彼女は、まるで森と一体になったかのように自由だった。
しばらくすると、ハルの目の前に小さな池が現れた。水は澄んでおり、浅瀬では小さな魚たちが悠々と泳いでいる。ハルの好奇心が一気に刺激され、彼女は水辺にそっと近づいて魚たちを観察し始めた。
「おおっ!小さな魚がいっぱい…これ、面白そう!」
ハルは静かに身を伏せ、まるで狩りの時のように慎重に魚に狙いを定めた。前足をじわじわと水面に近づけ、魚に触れる寸前まで待ち構える。しかし、魚は素早く泳ぎ去り、ハルの手から逃げていった。
「にゃっ!逃げられた!」
ハルは驚いた表情を浮かべ、もう一度狙いを定め直した。今度こそ捕まえられると信じて、彼女は再び水面に手を伸ばすが、魚たちはするりと泳ぎ去り、彼女の手には何も残らない。
「うーん、なかなか捕まえられないにゃ…」
それでも、ハルは諦めずに何度も挑戦した。前足を軽く水に突っ込んでみたり、魚の動きをじっと観察したりしながら、遊び感覚で魚を追い続けた。彼女にとっては、魚を捕まえることよりも、その過程が楽しくて仕方がなかった。
魚が泳ぎ去るたびに、ハルは跳びはねて水面に手を伸ばす。そのたびに水しぶきが上がり、彼女の顔や体が少しずつ濡れていったが、気にする様子は全くない。
「ふふっ、これ楽しい!」
ハルは何度も挑戦しては失敗し、そのたびに笑顔で水面を見つめた。やがて、彼女は水に濡れた前足を振り払い、少しだけ疲れた様子を見せたが、それでも心は大満足だった。
「捕まえられなかったけど…まあ、いいか!次はきっと成功するにゃ」
ハルは自分を慰めながら、再び遊びの続きを楽しむために池の周りを跳ね回った。魚たちは彼女の無邪気な追いかけっこに参加しているかのように、池の中を自在に泳ぎ回っていた。
ハルが池で遊んでいると、突然空が暗くなり、遠くから雷の音が聞こえ始めた。彼女は耳をピクリと動かし、空を見上げた。黒い雲が空を覆い始め、やがてぽつぽつと雨粒が降り始めた。
「うわっ、雨が降ってきたにゃ!」
慌てたハルはすぐに池から離れ、雨宿りをするために木の下へと急いだ。木々が彼女を守ってくれる場所を探しながら、彼女は森の中を駆け回る。やがて、小さな洞窟の入り口を見つけると、そこへ素早く飛び込んだ。
洞窟の中はひんやりとしており、雨音が外から響いていたが、ハルは安心して体を丸めた。
「ふぅ…ここなら安心にゃ」
ハルは少しだけ小さな洞窟を探検しながら、その空間の中でリラックスし始めた。雨が止むまでの間、ここでのんびりと過ごすことに決めた彼女は、再びくるんと体を丸めて目を閉じた。
「こんなに遊んで、雨まで降って…今日は盛りだくさんだったにゃ」
雨音を子守唄のように聞きながら、ハルは心地よい眠りに落ちていったにゃ。
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