■14 オアシス

遺跡を抜けた瞬間、零たちの目に飛び込んできた風景は、まるで別世界のような幻想的な光景だった。広がる砂漠は無限に続き、目を奪うような黄金色の大地が、遥か彼方まで果てしなく広がっていた。

砂漠の大地は、日中の熱によってかすむように見え、夕暮れ時の太陽がその黄金色を一層際立たせていた。

地平線の向こうには、まるで金粉をまぶしたような輝きが漂い、まさに異世界の美しさを感じさせていた。


乾ききった空気が熱く肌にまとわりつくが、その先にかすかに揺れるオアシスが、まるで蜃気楼のように揺れて見える。青々と茂る木々と澄んだ水面が、一瞬でこの過酷な砂漠の中に存在することが信じられないほど、異質な安らぎを漂わせていた。


「見て、あそこにオアシスみたいなのがある」麻美は驚きの声を漏らし、指を差した。その声には、驚愕と安堵が混じり合っていた。荒涼とした景色の中で、まさに奇跡とも呼べるこの光景に、彼女の心は引き寄せられた。

その瞬間、彼女の心には希望が満ち溢れた。乾いた喉を潤す水、心を癒す緑、そして二人の疲れた身体を優しく包み込んでくれる場所が目の前に広がっているかのようだった。


「本当にオアシスか…」守田は無言で頷き、硬く張り詰めていた空気が少しだけ和らぐのを感じた。「あの荒廃した遺跡のあとに、こんな場所があるなんて…まるで夢を見ている気分だ」


零もまた、目を細めてオアシスを見つめた。「あれが幻じゃないなら、今はそこで休むしかないな…これ以上は体がもたない」


三人はゆっくりとオアシスに向かって歩みを進めた。砂漠の熱気を背に受けながら、彼らの目の前に広がる緑の世界が徐々に近づいてくる。風に揺れる木々、涼やかに流れる水の音、そして鳥たちのさえずりが彼らを包み込み、戦いの疲労が少しずつ和らいでいった。

青々とした木々の間には、花々が色とりどりに咲き乱れ、その甘い香りが空気に漂っていた。小さな水面には、陽の光が反射してきらきらと輝き、まるで宝石が散りばめられたように見えた。


「やっと休めるな…」零は大きな木の根元に腰を下ろし、深い溜息をついた。目の前には、澄んだ水が静かに流れ、光が水面にきらめく様子が心を落ち着かせた。

彼は深い溜息をつくことで、冒険の緊張感が少しずつ解けていくのを感じた。目の前の美しい光景が、心の奥深くに潜む不安を払拭していくかのようだった。


麻美は水辺に近づき、そっと手で水をすくい上げた。「こんなに綺麗な水、信じられないわ…この世界の厳しさを忘れさせてくれるような場所だね」彼女は冷たい水を頬に当て、その冷たさに一瞬心が安らいだ。



「そうだな…まるで神様が俺たちに休息を与えてくれたようだ」守田も安心したように木陰に座り、遠くを見つめて微笑んだ。彼もまた、久々の安らぎに身を委ねていた。


零はふと手にした黄金の魔石に目を落とし、その輝きを見つめた。「ここで休んだら、また進まないとな。次に何が待っているかはわからないけど…この魔石があれば、乗り越えられるはずだ」


麻美も頷きながら、零に優しく微笑みかけた。「ええ、きっと次の戦いでも、この魔石が私たちを助けてくれるわ。でも今は、体も心もリフレッシュしなきゃ。次に備えて…」


風が静かに吹き抜け、木々の葉がささやくように揺れた。その風の音は、まるで自然が彼らに語りかけているかのように感じられた。静かなこの時間が、彼らに新たな力を与えてくれる予感がした。

零は目を閉じ、その風の音に身を委ねながら、心の奥底で決意を固めていく。静かなこの時間が、彼らにとってどれだけ貴重なものかがわかっていた。


「今だけは…この静けさを感じておこう」彼はそう心の中で呟きながら、目を閉じた。だがその背後では、次なる戦いへの準備が静かに進んでいるのを感じていた。


「そういえば、パワーストーンのサファイアって知ってる?」零はふと焚き火の前で問いかけ、麻美を見た。


麻美は顔を上げ、「サファイア?青い宝石よね…どうして急に?」と興味深そうに聞き返した。


零は微笑みながら、火のゆらめきに目を向けて言った。「オヤジから聞いたんだ。サファイアには昔から特別な力があるって言われていた。誠実さや知恵をもたらす石で、『真実の石』って呼ばれてたんだ」


「真実の石…それって、どんな物語なの?」麻美は焚き火の炎を見つめながら、物語の続きを待つように身を乗り出した。


零は懐かしそうに語り始めた。「昔ある王国に、一つのサファイアを持つ賢者がいた。その賢者は、その石の力を信じ、王国を繁栄に導いたんだ。でも、ある日、邪悪な者がその力を奪おうとやって来た。賢者はサファイアの力を借り、その知恵で邪悪な者に立ち向かったんだ」


「賢者はどうなったの?」麻美はさらに興味を引かれ、真剣な眼差しを向けた。


「賢者はサファイアの力を信じ、邪悪な者の嘘や策略を見抜いて真実を暴いたんだ。その真実が王国を救い、その後サファイアは真実を求める者たちの象徴として崇められるようになった」


麻美は微笑みを浮かべ、「素敵な話ね。宝石って、ただの飾り物じゃないのね。持つ者の心と結びついて、真の力を発揮するんだわ」と感慨深く呟いた。


零は頷き、「オヤジも言ってた。石そのものに力があるんじゃなくて、持つ者の誠実さや信念が、その石を特別なものに変えるんだって」


麻美はしばらく黙ったまま考え込んだ後、静かに微笑んだ。「私も、サファイアのように真実を大切にして生きたいな…」


その言葉に零は軽く頷き、彼らの間に静かな感動が広がった。焚き火の暖かい光が彼らを包み込み、星空の下で静かな時間がゆっくりと流れていった。


「次の冒険に進もうか」零はその静寂を破り、決意を新たにしながら立ち上がった。彼の瞳には再び強い決意の炎が宿っていた。


「そうね、まだやるべきことがたくさんある」麻美もまた、力強く頷いて立ち上がった。


風が彼らの背中を押すように吹き、次なる試練への道が静かに開かれ始めた。





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