■8 ジェネラルオークの魔石か…

森の奥深く、冷たい風が木々を撫でるたびに、まるで森全体が呼吸しているかのような気配が漂っていた。夕暮れの光が木々の間から差し込み、黄金色の輝きが葉に踊る。しかし、その美しさの裏には不穏な空気が漂い、3人の進む足音は、森の静寂に吸い込まれるように消えていった。


「ここだ…」零が呟いた瞬間、森の静けさを破るように、重々しい息遣いが彼らの耳に届いた。それは徐々に近づき、足元の大地を震わせるかのような感覚を伴っていた。まるで、巨人が目覚めたかのように、巨大な影が森の奥から現れる。


ジェネラルオークだ。


その姿は、一般的なオークに似ているが、威厳と冷徹な知恵を宿した瞳が、ただの巨漢とは一線を画していた。ジェネラルオークは、手下のオークや魔物たちを巧みに操り、戦場を掌握する戦術家であり、彼の周囲には常に緊張感と恐怖が漂っていた。彼が戦場に立つと、無数のオークが一糸乱れぬ統率の下で敵に襲いかかる。その力を軽視する者は、彼の策謀に絡め取られ、破滅へと追い詰められていく。


2メートルを超える巨体、鋭い牙、握りしめた巨大な斧――そのすべてが、異世界の脅威そのものだった。まるで、彼の存在自体が戦場を支配しているかのような威圧感に、彼らの心は一瞬怯む。


「これが…ジェネラルオークか。1匹なら、なんとかなる…んだよな?」零は目の前の圧倒的な存在感に息を飲んだが、心の奥底で燃え上がる闘志が、彼の体を前へと押し出していた。


ジェネラルオークの目が鋭く光り、冷たく静かに彼らを見据えた。そして、その低く響く唸り声が言葉となり、森中に響き渡る。「ニンゲンドモォ…お前たちの力、見せてみろ!」その挑発的な声は、森の空気を一瞬にして張り詰めたものへと変えた。


「俺が相手になる!」守田龍夜は迷いもなく前に出た。彼の姿勢は堂々としており、その眼差しには揺るぎない覚悟が宿っていた。自衛隊で鍛え抜かれた彼の体が瞬時に戦闘態勢に入り、全身に高揚感が広がっていく。それは恐怖ではなく、戦いに向かう闘志そのものだった。


ジェネラルオークの吠え声が再び響き渡ると、森全体に地獄の門が開かれたかのような殺気が広がった。その斧が空を切り裂き、破壊の化身のように迫り来る。踏み出す一歩一歩が大地を揺るがし、巨木すらもその衝撃に耐えかねて揺れ動いた。


零の手に巻かれたブレスレットが激しく光を放ち、彼の中の魔力が目覚める。「炎よ、我が意志に応えよ!…ファイヤーボルト!」炎の玉が彼の手元から放たれ、ジェネラルオークへと向かっていった。しかし、オークはそれを軽々と避け、怒りに燃える目で零を睨みつけた。


「守さん、気をつけて!」麻美の声が鋭く響いた。


「やるぞ!」守田は即座に動き出した。斧の一撃を回避しながら、ジェネラルオークの巨体に隙を見つけて鋭い反撃を仕掛ける。その動きには一切の無駄がなく、彼の全身に刻まれた訓練の成果が滲み出ていた。


ジェネラルオークの斧が空を切り、守田に向かって振り下ろされた。守田は素早く身をかわしたが、衝撃に押され後方へと吹き飛ばされた。


「守さん!」零が叫んだが、守田はすぐに立ち上がり、再びジェネラルオークに立ち向かう。その眼差しには、決して諦めないという強い意志が宿っていた。


ジェネラルオークの巨体が迫り、零は再び炎の力を呼び覚まし、詠唱を開始した。「炎よ、我が意志に応えよ…ファイヤーボルト!」燃え上がる炎の玉がジェネラルオークの胸に直撃し、炎がその巨体を包み込んだ。オークは苦しげに体を震わせ、一瞬動きを鈍らせた。


「今だ!」守田はその隙を見逃さず、再び突進した。全力を込めた一撃がオークの膝を正確に貫き、ジェネラルオークの巨体がついに崩れ落ちた。


ジェネラルオークの体が大地に倒れた瞬間、その胸元から眩しい光が漏れ出した。それは魔石の輝きだった。


「これが…ジェネラルオークの魔石か…」守田は荒い息を整えながら、その輝きを見つめて呟いた。森全体に静寂が戻り、彼らの勝利を祝福するかのように魔石の光が彼らを照らし続けていた。


輝く魔石を手に取ったその瞬間、守田の中に新たな力が芽生えた。それは単なる戦闘能力の強化だけでなく、仲間との絆と自らの成長を象徴するものであった。


「これで、また一歩進めたね」麻美が微笑みながら言った。 彼女の言葉には、次なる冒険への期待と決意が込められていた。

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