【番外編3】gentle emotion
少しだけ懐かしい話をしよう~前編~
――――少しだけ懐かしい話をしよう ~side KIKUCHI~――――
高校二年になってから、しばらくしての話。
「へ?」
幼なじみの春平の机の傍に人がいた。
しかも女の子。
春平は人見知り。
しかも無表情。
見た目が怖いわけでも、極めて冷酷な人間でもないけど、その顔が人を寄せ付けない空気を作る。
なのに女の子が春平に絡んでいる。
高校入って初めて見る光景。
……彼女は確か、塚本さん?
「ねー!和田くん!!」
「……」
「こんぺいとう、ひとりじめ、よくない!」
「……」
「うー……無視しないで」
「……ごめん」
「あ!そうだ!!『和田くん』じゃあ距離感あるから『春平』って呼んでもいい?」
「……」
「……ご、ごめん……ダメ?」
「……別にいいけど」
その時、春平と目が合った。
無表情の顔が珍しくジーッと俺の顔を凝視する。
思わずプッと笑った。
長年の付き合いでなんとなくわかる。
どうやらさすがに春平も目の前の女の子に戸惑って困っているらしい。
珍しすぎる光景にもう少し見ていたい気持ちだったが、春平を助けてやることにしよう
だから二人の元へ行くことにした。
俺の幼なじみは不思議な力を持っている。
感情を結晶にして、こんぺいとうに変える。
そんな春平と出会ったのは小学校に入学してからだった。
クラスは違ったけど、小学校入学を機にうちの近所に引っ越してきた春平。
そんな春平の両親とうちの両親が何故か仲良くなった。
クラスが違っても、休日に時々家族ぐるみで遊ぶことがあった。
春平の弟とはすぐに仲良くなった。
妹しかいない俺は弟分が出来たみたいで嬉しかったし、ヤンチャなぐらいが俺とは波長が合った。
しかし元気な弟とは引き換え……
「おまえの兄ちゃんは暗いよな」
春平の弟・
「シュンくんは、しっかりものだから!」
微妙に受け答えが外れているけど、でもまぁ…だから大人しいってことが言いたいんだろう。
「あと、」
夏月は嬉しそうに満面の笑みを見せた。
「シュンくんは、やさしい。シュンくんは、すごい!!」
俺は夏月の兄貴とは仲良くなれそうにないと思っているが、そんな夏月は自分の兄貴になついているらしい。
あの暗くてダンマリな男のどこになつく要素があるのか。
だから一年生の間は春平とあまり関わることも少なかった。
ある日の休日、春平の家に家族ごとお呼ばれされた時、春平に近付いてみた。
テーブルでおやつを食べている皆とは少し離れて、じゅうたんに座り一人で本を読んでる春平を見下ろした。
「おい」
俺に呼ばれた春平は顔を上げた。
意外に真っ直ぐと俺の顔を見た。
「おもしろいか?それ」
「……」
春平は黙って頷いた。
ダメだ。
本を読むだけで、ジッとしているのが楽しいの時点で気が合うとは思えなかった。
そこで春平が何か口に放り込むのを見た。
「え?なに?」
「………………なにが?」
「今、なにか食った?」
「……」
春平はおそるおそる手のひらを広げてみせた。
白や緑や黄色の色々なこんぺいとうが春平の手の中にあった。
「うおー!!イイもの持ってるな!」
春平は静かに首を傾げた。
「……いいもの?」
「え?こんぺいとうはイイものじゃねぇのか?うまいじゃん?」
「……いいもの…か」
春平は噛み締めるみたいにそう言った。
そして一粒、俺に差し出した。
「あげる」
俺は嬉しくて、歯を見せて笑った。
「ありがとう!!」
そんな些細なことがキッカケで春平とも打ち解けた。
そこからあっという間に仲良くなった。
やっぱり夏月と違い、同い年で同じ学校だから一緒にいることがグンと増えた。
そうやって一緒にいるうちに無表情なのは相変わらずだが、意外に無愛想とは少し違うことに気付いた。
春平が家で遊ぶのを好むのは本当だけど、俺が外に誘えば割りと付き合いがいい。
俺のムチャすぎる場所への冒険も、他のヤンチャっぽいクラスメイトって案外ちょっとビビったりめんどくさがったりする。
ケガするかもしれないとか、バレたら怒られるかもしれない恐怖が嫌なのだ。
でも春平は表情変えずにいつも「いいよ」と即答した。
大人しいだけでなく、肝が座っている。
しかも春平が作るヒミツキチは最高だった。
人目に触れない良い感じの場所を見つけ、俺には真似できない細かい技術や手作業で、ロープと枝だけとは思えないクオリティーで仕上げていく。
一緒にいて楽しいし、俺には無いところを持っているってのが刺激的だった。
そういうところも含めて俺はますます他の奴よりも春平と仲良くなっていった。
春平も何かと俺のとこに来て、何かあれば俺に一番に報告してくれる。
他の奴より俺に懐いてくれていることがわかった。
…──
公園の一番大きな木に登るために、春平を肩車し、先に登らせる。
春平はそこから更にちょっとだけ登り、上にある丈夫の太い木に器用にしっかりとロープを結んでいく。
そして上から春平がロープを垂らす。
ロープは俺の体重を掛けてもほどけない。
しかもロープに握りやすいような玉結びみたいな取っ掛かりも春平は作ってくれたので、俺は余裕でスルスルと春平がいるところまで登っていった。
「イエーイ!きのぼり大成功!!」
俺がハイタッチのために片手を上げると、春平も応えるように無言で手を上げてくれた。
俺が力いっぱい叩くと、春平はよろめいて木から落ちそうになったのを必死に枝を掴んだ。
可笑しくて俺は笑った。
安定した枝に俺も春平も跨がるように座った。
すると春平は掌を広げた。
「ん」
「おー!サンキュー」
春平はいつもこんぺいとうを持ち歩いている。
俺は春平のこんぺいとうが大好きだった。
ポテトチップスとかも好きだったが、喉が乾くし毎日は飽きる。
でも春平のこんぺいとうをそういう風に思ったことは一度もなかった。
夕日を見ながらこんぺいとうを食べ、春平と二人でいつもより高いところで感じる風は最高だった。
「お前はなんでこんなロープのむすび方とかできるんだ?ボーイスカウトとかやってたんか?」
「……前に本でよんだ」
「へぇー!オレは外であそんでばっかだからわかんねぇや!!お前ってすげぇな!!」
「……オレだって、」
「へ?」
「ホントにやったのは初めて」
「え?そうなのか?」
「うん。こういうあそびしなかったら、たぶん使うことなかった。本でしかよんだことないセカイをお前は知っていて、いつも連れてってくれる」
「へ?オレはそんなつもりなかったけど?」
「うん……だからオレにとっては、お前がスゴいっておもう。……いつも」
俺が春平を凄いって思っているのと同じように俺を凄いと思ってくれてんのか?
春平がいなかったら俺は知らないことだらけだったし、俺が誘わなかったら春平が体験することもなかった。
そう思うと気分が高まった。
だってそれって……
「つまりオレらはサイコーの『あいぼう』ってことだなっ!!」
嬉しくて嬉しくて、声がつい大きくなった。
だけど春平は俺の言葉にも黙ってジーッ俺を見ただけだった。
少し焦った。
「な…なんだよ、おこんなよ。オレと『あいぼう』ってのがそんなにイヤだったか?」
「……え?」
「あ?」
「おこって…ない。どっちかというと……オレもそう思った。だからうれしい」
「……え?うれしい!?それが?」
吹き出して腹を抱えて笑った。
「あははは!ビビったぁ!なんだよ!!それなら少しはお前もうれしそうな顔しろよ」
「うれしい顔?」
「笑うとか?」
春平はすぐに俯いた。
「……ごめん」
「『ごめん』なんて言わなくていいけどー、あれ?」
春平の手にはこんぺいとうが溢れていた。
「おー!お前、どんだけ隠し持ってんだよ!!くれっ!!」
「ダメ」
意外にハッキリとした口調ですぐに拒まれた。
「 やっぱおこったのか?」
「ち……がう」
「……?」
「これはダメ。こんぺいとうはまた今度のあげる」
いつも突然出てくるこんぺいとうを俺は不思議には思っていたけど
「あの、」
木から下りた時、無表情の春平は小さな声で呟いた。
「オレも、お前と遊ぶの……楽しい」
春平がそう言ってくれるから俺は笑った。
笑わない春平とかこんぺいとうの不思議とか、俺にはどうでもいいことだった。
しかし、ある日
俺はこんぺいとうの正体を知ることとなる。
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