28話 正体

……僕達は各々が幻覚に対する行動を起こしていた。



僕は僕が出来る事をする。僕に出来ない事は2人がしてくれるから。



そうして、僕が起こした行動は…。



この街にある滅悪教支部に潜入する事だ。



ただ、超能力を使わずに行ける訳がない…だから僕はその言葉を紡いだ。



_______。


「怠惰の力 第一」



…僕が奪ったのは、僕を認識する力。


要するに、認識力だ。今の僕は限りなく影が薄い状態と同じ。




そうして、僕はこの街の滅悪教支部に足を踏み入れた。



建物の中はそこまで怪しい物はない…まぁ当たり前かな。滅悪教の人達もこの状況に混乱してたし…今回の騒動は滅悪教は関係ないかな。


そう思考して、滅悪教支部から出ようとした。



その瞬間…肩を掴まれた。



「え…?」


そう言葉を零してしまったその直後、僕は宙にいた。


建物の天井に激突する。


「ッ…。」



そうして、僕と…その人は向かい合う。


「…お前は、侵入者だな。」


「まさか、バレるなんて…。」


「生憎と目がいいんだ。」


そうして、僕は逃亡を図った。


目の前にいる…研究服を纏っている男を背にして、走った。


_______。


「ッ…!え?」


僕は逃げようとした…だけど、僕は再度男と向かい合った。



「逃げないのか…?」


「ちょっと気になる事があるんだよ。」



そうして、僕は拳を男に向かって放った。


その拳は簡単に受け止められて、僕は再び宙に投げ飛ばされていた。そこから天井に激突するまでの僅かな時間で体制を整えて天井を強く蹴り、男の真上から拳を放った。


その拳は当たった…そう思った、だけどその拳すらも簡単に受け止められていて…僕の手は掴まれ、硬い廊下に叩き付けられた。


「ッッ…!!!」


_______。



「おい!何事だ…!って、研究長…その男は?」


「侵入者だ。」


「も、申し訳ございません!今すぐ奥の牢屋に運びます…!!」


「いや、その必要はない。自分が運ぼう。」


「研究長がですか!?いや、そんな私達に運ばせて下さい!」


「二度は言いたくないんだが…自分が運ぶと言っている。お前達は早く幻覚について解決してこい。」


「…わ、分かりました。その侵入者をお願いします…研究長。」




_______。



「相変わらず、ここは暗いな。……おい、起きろ。」


「……どう言うつもり?」


「さっき、見せてやっただろ?自分達はこんな場所でもなきゃ満足に話す事も出来ない。お互い…大変だな。」


その男は一拍を置いて言った。



「七つの大罪に魅入られた者同士、仲良くしよーぜ。」



そう、研究長…そう呼ばれていたこの男こそ、マモンの器。


何故それが分かったのか…それはこの男の超能力なんだろう。さっき、僕の視界に言葉が浮かんできたんだ。


【自分はマモンの器だ。】


そんな言葉が…だから僕はその言葉を信じる事にして、わざとやられたふりをした。



そう思考した瞬間、目の前の男の姿が変化した…いや、段々と化けの皮が剥がれていく…その表現の方が正しい…。



さっきまでの男はボサボサの黒い髪に眼鏡…いかにも研究長の見た目だった…だけど今は。


グレーの長髪を後ろで束ね、サングラスを掛けている…身長190程の男だった。



「それが本当の姿?」


「どうだろうな。」


「それで、何のよう…?」


「この街が朝に見える幻覚を見せてんのは自分だ。」


「それで…?」


「この街にやばい存在がいる。」


「やばい存在…?」


「お前らなら知ってるだろ?天使だ。その中でも厄介な奴がこの街にいる。」


「…誰?」


「太陽が出ている間は天使の中でも最強、太陽を司る天使…ウリエルだ。」


「ウリ…エル?」


「あんま、長ったらしく説明してる暇はねぇ、簡潔に言うぞ。本当の朝を迎えるまでにウリエルを倒さないと…お前と自分含めた4人は全員、此処で死ぬ。お前らが自分を探しに来た事は分かってた…だからここにいるって証明でこんな分かりやすい幻覚も見せた。滅悪教の中に入ってきてくれる事は正直賭けだったけどな。お前、あれ見えるだろ?裏口だ。さっさとお前の仲間と合流すんぞ。」


そう言って、男は僕を牢屋から出した。


「滅悪教の研究長なのに…僕達に協力していいの?」


「あぁ…。…あそこの牢屋で伸びてる奴いるだろ?あれがほんとの研究長。自分、お前らと一緒で滅悪教に追われてる立場だから。よろ。」


「ははっ…。…ところで名前は?」



如月蓮香きさらぎれんか、これが自分の名前だ!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る