第7話 笑顔の裏の顔


授業も始まったけど、まあ初日ってことでほぼ挨拶とか、あとは中学の復習とかばっかで、特に面白いこともないまま時間は流れ放課後へ突入した。


 俺は響に声をかける。


「とりあえず、響、お前、椿芽に謝ってこい……」


「謝るって……俺、別に悪くねーし……」


「いや、まあそれはわかる。でも、もう男の宿命だ……ここは諦めろ……」


「くっそ……」


「アリスは俺がなんとかするから、お前は椿芽連れて、機嫌なおしてこい……」


「わかった……」


 響は椿芽に声をかけ、彼女の不機嫌そうな表情をなんとか切り抜け、二人で教室を出ていった。


 さて、響は椿芽を連れ出したし、俺もアリスをなんとかしないとな。そんなことを考えていたら、ちょうどタイミングよくアリスが教室にやってきた。


「響、いますか?」


アリスは明るい声で教室に入ってくる。


「ああ、響ならもういないよ」


俺はなるべく自然に、そう返しながらアリスに近づく。


「そうですか……響と部活見学行く約束してたんですけどね……」


アリスは少し寂しそうに言う。


「あ、ああ……なんか急用があるって言ってたから、先に帰ったみたいだぞ」


「急用……ですか?響が、私に一言も言わずに?」


アリスの声が微妙にトーンダウンしてる。教室のざわざわした声が遠くに感じられて、何となく背筋がゾワっとする。


「あ、ああ……そうらしいよ?俺にそう伝えたから、代わりに言っといてって……」


なんとかフォローを入れる。


「……そうなんですか」


アリスの笑顔が無表情に近づいてきた。温かさが少しずつなくなって、無意識に背中に汗がにじむのを感じる。


「それにしても、天野さんもいませんね」


アリスがにっこりと笑う。なんか少し怖い。


「あ、そうみたいだな……俺も今気づいたよ、あ、あはは……」


「響と天野さんは一緒に帰ったんですね?」


アリスの微笑みがピタリと止まった。その目が妙に真っ直ぐで、ちょっと息苦しくなってくる。


「さ、さあ……詳しくは知らないけどさ」


なんか無意識に後ずさる俺。その時、アリスの表情がほんの一瞬だけ崩れて、不気味な何かが見えた気がして、心臓がドクンと鳴る。


「……そっか。そういうことなんですね」


アリスはそう呟いて、フッと笑った。


「あ、あはは……じゃあさ、もしよかったらさ、一緒に部活見学でも行かない?響と行く予定だったんだろ?」


アリスはクルッとこっちに向き直り、冷たい視線を向けてきた。


「いえ、大丈夫です!響がいないなら、もう興味ありませんので!」


声色は明るいけど、その瞳はちょっと冷ややかで、内心ビビってる俺。


(ま、待って、ちょっと怖いんですけど!)


アリスは俺の「ちょ、ちょっと待って!」って静止も無視して、そのままツカツカと教室から出ていってしまった。


(すまない響……あの子は俺には荷が重い……完全に無理です……)


 内心で響に謝りながらも、背中には変な汗がじんわり。どんよりした気持ちで教室にひとり取り残された俺は、ただただ響の安否を祈るばかりだった。

 

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