王都アークツルス

 世莉架達の周囲では現在、世莉架達の乗っているような馬車や豪華絢爛な馬車、質素な馬車、徒歩で移動している人々が多く行き交い、非常に賑やかになっていた。

 これは王都アークツルスがすぐそこの距離にあるところまで近づいてきた証拠である。

 ルインもかなり大きめの街ではあったが、世莉架にとっては異世界に来て初めての大国の中心に訪れる機会となる。

 フェンシェント王国の国土内ではあるが、アークツルスに入るためには許可を受ける必要がある。そのため、世莉架達の馬車は沢山の審査及び通行許可を得るための列に並び、少しずつ進んでいた。


「外から見ても大きいわね」


 ルインは特に城壁等で囲われてはいなかったが、アークツルスは国の中心地ということで、無骨には見えないようデザインされた強固な城壁に囲われている。

 その城壁を普通に越える高さの建物も既に多く見えており、間違いなく都会であることは疑いようがない。


「面積もルインの数倍はあるはずだよ。しかも、双層そうそう都市だから、見えてない部分も合わせればもっと大きいよ」

「どういうこと?」


 世莉架はこれまで情報収集してきた中にアークツルスについての情報もあったが、双層都市という言葉の意味について改めてハーリアに尋ねることにした。


「アークツルスは都会なところが一番の特徴って訳じゃないんだ。整然とした街並みとか、中心の王城とかも凄いけど、特徴で言うとやっぱり地上と地下、どちらにも都市が広がっていることかな」


 地下にも都市が広がっている。これこそが双層都市と言われる所以であり、誰もが知るアークツルスの一番の特徴である。しかし、それだけではない。


「その地上と地下にはどんな違いがあるの?」

「んーと、軍事的な施設とかは地下に多くあるって言われてる。実は秘密裏に危険な実験が行われてるとか、影の支配者がいるだとか、色々噂されてるね」

「噂ね。ハーリアは地下に行ったことはないの?」

「無いよ。というか普通は行けないから」

「というと?」

 

 地下にも都市が広がっていることが一番の特徴であるのにも関わらず、普通は行けないというのは少し変である。


「地上と地下は行き来するのがとっても難しいの。というか、地下に行けるのは一部の偉い人だけだし、地上に上がってくる地下の人も多分そう。地下へ向かうための道には厳重な検問と騎士団の人達が待ち構えてる。だから実際に地下に行ったことのある人なんて、少なくとも一般人ではほぼいないんじゃないかな」

「だから色々と噂が立つと」


 これで噂が立たない方がおかしいだろう。世莉架としては明らかに怪しすぎるその地下へ向かうことは確定である。

 しかし、ハーリアの話を聞く限りでは地下へ行くのは一筋縄ではいかない。


(地下へ向かうための道は正規ルート以外にもきっとある。裏ルートを探るところから始めましょうか)


 アークツルスは大国の中心地。それ故に栄えているが、栄えているところには必ず表面的には見えない裏の顔が存在しているものだ。

 ただ、いかに世莉架といえど、あらゆる部分で非常に規模の大きいアークツルスを把握し、目的を達成するのは難しいだろう。


「でもまぁ、アークツルスはとても良いところだよ。ご飯は美味しく、観光地にも困らず、騎士団が目を光らせてるから治安も良いしね」

「それなら快適に暮らせそうね。それと、さっきも少し話に出たけど騎士団がいるの?」

「うん、アークツルスにはコスモプレトル騎士団っていう有名な騎士団が街の治安を維持しているの。内外どちらの脅威にも迅速に確実に対処できるエリート集団。アークツルスの守護者だよ」

「なるほど、それで有名になっているのであれば本当に有能な組織なんでしょう」


 そうして話をしている間に世莉架達の番が回ってきた。御者台で馬車を引いているメリアスが対応している。


「二人とも、冒険者カードを見せてくれる?」


 メリアスにそう言われ、二人は冒険者カードを渡す。

 世莉架に至っては正真正銘、一度も依頼を達成したことのない初心者だ。

 冒険者カードはその者の簡易的な身分証明書のように使うことができる。現在の世莉架は冒険者カードのおかげで一応は浮浪者とは言えないような身分となっている。

 少しして、メリアスは審査官との話を終え、冒険者カードを返してもらった。


「二人とも、アークツルスに入るわよ!」


 そうしてメリアスはにこやかに言い、馬車を進めた。

 やがて城壁にある大きな出入り口を通り、アークツルス内に入る。


「壮観ね……」


 地球にある大都市がどんなものか知っている世莉架だが、アークツルスも異世界ということを感じさせつつ都会であり、多くの人が興奮するであろう光景が広がっていた。

 まず大きい出入り口を通ったからということもあるが、長く遠くまで続く大通りを進む。

 入る前から分かることだが、建物の多さや大きさ、それに比例して人の多さが特に目を引く。


(アークツルスの建築様式……。比較的高層の建物は下層が西欧前期のロマネスク風の重厚な要塞のように見えるし、上層は中東にあるような幾何学模様があったりアーチ窓があったりと装飾的になっている。面白い融合ね。ルインと違うところもあるけれど、同じ国内だし建築様式は大体一緒ね)


 世莉架は異世界ならではの興味深い建築様式を見つつ、アークツルス全体に対して重厚でどっしりとした構えを見せながらもデザインなどの見た目も重視している街だという印象を受けていた。

 街の規模、発展具合を見せつけるためか、入り口付近には比較的高層の建物が多かったが、少し進むとほどほどの規模の建物が増えてきた。しかし更に進んでいくとまた高層の建物が増えていくのが分かる。

 

「まずは宿探しよね」


 三人は事前に話していた通り、まずは宿探しを始める。非常に人の多い街だがそれ故に宿も多い。泊まるところがないという状況にはならないだろう。

 しかし、金額や宿泊期間を考慮して宿を選ばないと痛い目を見ることになる可能性がある。


「宿が集中しているエリアがあるから、そこに行こう」


 そうして三人は程よい宿を取ることができた。


「それじゃあ、一応これからのことについて再確認するわよ」

 

 宿で一息ついていたところ、メリアスがそう声をかけて三人は集まる。


「まず、アークツルスには少なくとも一週間は滞在する予定。宿もそう取ったし、そこから更に宿泊日数を増やすこともできるわ。とりあえずは私の蓄えでなんとかするけど、私たちはパーティを組んだ訳だし、冒険者として活動して皆で稼いだり実績を積んでいきましょう。長期間かかるような依頼は私たちでは受けられないだろうから、まずは一日一つ、できれば二つくらいこなしていきたいわね」


 世莉架についてはメリアスがこれまでに稼いだお金のおかげで宿に泊まることができている状態だ。ちなみにハーリアは両親を失ったがその遺産を受け取ることができるため、家を出る前に多少お金を持って出てきていた。


「ついにだね……」


 両親を失い、故郷を離れて冒険者として本格的に活動を始めるタイミングということもあり、ハーリアには少し緊張や不安が見えている。


「ええ、最初は簡単な依頼から始めつつ、せっかくだし観光も楽しんでいきましょう。アークツルスは広いし娯楽も観光も盛んだから色々なものを得ることができると思うわ」

「私も、もっと世間を知らないと」

「セリカは色々知っている風なのに世間のことはあまり知らないのが不思議」


 世莉架が世間をもっとよく知らなければならないのは必須事項である。そうでなければ今後の世莉架個人の指針を立てるのが難しく不明瞭になる。


「さて、それじゃあ街を散策しながら冒険者協会に向かいましょうか」


 そうして世莉架達は外に出て街の散策を始めた。その中でも世莉架はどこに何があるのか、街の構造や道、重要そうなポイントをしっかり覚えていく。

 世莉架達の泊まる宿はアークツルスの中心部と街への出入り口がある端までの間の端側にある。三人はそこからアークツルの中心に大通りから少し外れた中通りくらいの道を通って向かっている。その途中で、世莉架はお目当てのものを見つけた。


「ハーリア、あれって……」

「あ、うん。あれが地下への入るための施設、検問場所だね。騎士団もいるし」


 三人の歩く先にコスモプレトル騎士団の騎士達が立っており、その先には無骨な施設があり、厳重に管理されているようだった。


「あの建物の中に入れば地下へ行ける道があるはず。まぁ、実際中がどうなっているかは知らないんだけど」

「こういう地下へ行くための場所は他にもあるの?」

「うん、沢山って訳じゃないけど、王城の近くとか、これから向かう冒険者協会の近くにもあるし、騎士団本部の近くにもあるね。大体そういう大きな施設の近くにあるけど、それ以外にも少しだけあって、そのうちの一つがここだね」


 重要施設の周囲に地下への入り口が用意されているのは簡単に想定できるが、それ以外にも大通りでもない場所にあるというのは潜入を考える際の有力候補として数えることができるだろう。


「それにしても、やっぱりちょっと気になるというか怪しいというか……。フェンシェント王国という大国の王都であり、双層都市としても有名なのに、その双層の部分を実際に見ることはできないなんて、名前だけ大層に感じてしまうわ」

「全くもってその通りね」


 メリアスの意見に対し、世莉架も同意する。

 有名な部分は確実に存在しているはずなのに、その部分は騎士団によって厳重に守られていて一般人は見ることができない。できることは地下に広がる壮大であろう都市を想像することだけである。これでは色々な噂が立つのは必然であり、内部を探ろうとする者が出てくるのも必然である。


「そもそもどうして一般人は入れないの?」

「地下都市といっても、国を運営するための重要な機関だったり、外部からの脅威から守るための重要な施設があるからって説明はされてる。例え国民であっても見せられない国家の機密情報とか秘匿事項は当然沢山あるだろうし、そういったものが外に出ることがないよう厳しく管理しているんだと思う」

「国家運営における重要機関って、それならあの立派な王城は何のためにあるの? フェンシェントは色々と先進的な試みを進めているとはいえ、まだ王政でしょう?」


 メリアスの指摘にハーリアは少し考える素振りを見せた。


「まぁ、正直飾り物の王城って言われている節はちょっとあるかな。けど今の国王様は評判は悪くないし、国家運営をするにあたって王城だけでは難しかったり、より良い国にするために必要だったのかも。実際、フェンシェントは大国としてしっかり地位を築いているから、王城や国王様が何もやっていない訳ではないよ」

「そう。大国であることに疑いようはないけど、見ることはできない、しかし確かに存在する有名な地下都市の存在が色々と怪しく見せてしまっているだけかもしれないわね。でも、大国であるということは多くの権力者や影響力を持つ人達の思惑が交錯しているでしょうし、関わっている組織や機関の規模も大きい。一般人に知られてはいけない不都合な真実があったとしても何ら不思議ではないわね」


 腕を組んで少し複雑そうな表情を浮かべるメリアスを横目に、世莉架は一つ気になったことをハーリアに尋ねる。


「今までに地下へ行こうと建物に侵入する人とかいたの?」

「それは勿論。前もいたし、今だって普通にいると思う。けど、建物に入れるところまで行けた人はほとんどいないと思う」

「騎士団がいるから?」

「うん。あの厳重な警備を潜り抜けるのは現実的じゃないでしょ」

「まぁ、そうよね」


 それから三人はその場所を後にし、目的である冒険者協会に向かった。

 世莉架が歩きながら少し振り向くと、そこには相変わらず厳重に警部している騎士団の面々がいるだけだったが、その奥には決して明るくはない何かを感じさせた。

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