第21話 あらかじめ


 倉野さんと水上くんの事情を聞いて、僕らはやる気に満ちている。


 だからと言って、簡単に謎が解けるとは限らなかった。




 ひとひらの 影舞い踊る あの躍動




 躍動と言う部分と、コアラの折り紙。間違いなく、オーストラリア大陸に位置する体育館だ。そう考えるまでは良かった。


「あった?」


「全然、見つからない……」


 僕らは毎日のように足を運んだ。しかし、まったく見つかる気配がなかった。

しかも入れ替わりで、どこかの運動部が部活をしている。昼休みも、運動している人たちが大勢いた。


 ウロウロしている僕らは、明らかに邪魔者だ。


 体育館は広い。とはいえ、ほとんどが板張りのフロアだ。穴を掘ることも出来ないから、絵画か次の謎かを隠すにしても場所は限られている。


 フロアにはもちろん何もない。そうなると体育館倉庫か、舞台か、舞台裏か。


 しかし、いくら探しても見つからない。体育館内をさまようことを、一週間ほど続けていた。


「……やっぱり。あらかじめ、謎を解かないとダメみたいだね」


 僕らは温室に集まって、テーブルを囲む。


 川柳が書かれた紙と折り紙だ。金の靴、ガチョウ、コアラの三つだ。


 金の靴を開いてみたら、日付が書かれていたように、ガチョウとコアラにも日付が書いていた。どれも過去のものだ。


 僕は広げたコアラだった色紙の日付を見る。



 201×・8・26



「やっぱり、この日付って意味がないわけないよね」


 津川先輩も頷いた。


「そうだね。ただ、わざわざ三つとも書いているのだから、謎解きに全くの無関係ではないと思うよ」


 一つだけならメモ書きの可能性もある。だけど、三つとも書いてあるとなると、意味がないとは考えられない。


 どの日付を調べてみても、事件とも学園にも関係のある記事は出てこなかった。


 みんなで頭を悩ませていると、倉野さんが口を開く。


「とりあえず、川柳で場所を特定する。これまでも、それで何とかなった。日付は後回しでいい」


「倉野さんにしては、珍しく建設的な意見だね」


「深志! いいこと言ったのに文句あるの!?」


「別に文句はないって!」


 倉野さんと水上くんは、毎日のように言い争っているものの、お互いに許容しあっている雰囲気に見える。仲のいいお笑いコンビがじゃれているようにさえ見えた。


「で、本題だけど」


 僕は話題を謎解きに戻す。


「最初のひとひらのって、やっぱり一枚のって意味だろうね」


「そうだね。一枚の、それもひらひらとしたもの。カーテンや暗幕をすぐに思いついたわけだ」


「だけど、どれだけ探しても何もない」


 もちろん天井近くの場所は探せなかった。それでも脚立を持ってこなくても、何もないことは明らかだ。


「これまでみたいに、箱の中に入っているのかな。それとも、もうゴールで絵画が体育館の中に隠されていたりして」


「だったら、すごくいい」


 体育館に倉野さんのおじいさんがすごく見たがっている絵画が隠されているかもしれない。そう思うと、謎を解くのにも真剣になる。


 水上くんがジェスチャーを交えながら、推理を始めた。


「世界の宝と言うくらいだからさ。こう、隠し扉みたいなものがあって、カーテンの奥に大事にしまわれているとか。舞台の奥には幕があるよね。あと、舞台袖とか。もしかしたら、探したら体育館倉庫にも隠し扉があるかも」


 だけど、これには津川先輩が首をひねる。


「そんなに手の込んだことをするだろうか。隠し扉は穴を掘って埋めるのとは、訳が違うと思うよ」


 確かにと、僕も頷く。会ったこともない理事長だけど、何となくやることが学生のノリのように思えた。それこそトレジャーハンター部がやっていてもおかしくないぐらいの、頑張れば解けるような謎だ。


 また、うんうんと僕らが唸り出すと、津川先輩が微笑んで言う。


「ひとひらのは置いておいて、次の影舞い踊るの部分を考えてみようか」


「影舞い踊る。普通に、というか最初に考え付いたのは、スクリーンだよね」


 みんなで軽く頷き合った。体育館には全校生徒が教材の映像を見られるよう、巨大なスクリーンがある。入学式のときにも、山奥だからと熊が出たときの対処法の映像を見せられたばかりだ。いつもは巻き取ってあって、天井近くに吊ってあった。

ところが、最初に見に行ったが何も見当たらない。そもそも、下ろしてもいないのだが、もし何かあるのならばとっくの昔に見つかっているだろう。


「一度、向井に頼んでみる?」


 倉野さんは向井さんでさえ、呼び捨てだ。あの人は一応理事長代理なのに。



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