笹と松は結婚をすることになった。

 笹はなんで松が自分と結婚をしてくれるのか、よくわからなかったのだけど、もちろんすごく嬉しかった。

 いろいろと大変ではあったけど、二人はお互いの両親や家族と会ったりして、とりあえず、すぐの結婚はちょっとだけ待って、まずは恋人になってみたらどう? という意見を聞いて、まずは恋人になって、それから二年後に(二十歳のことだった)大学生のままで、結婚をした。

 美術大学で絵を勉強しながら、(松の応援もあって)笹は大学を卒業して、プロの画家になることができた。

 それから、松と一緒に暮らしながら、静かなところに買った自分のアトリエでずっと笹は絵を描いていた。

 毎日、毎日。朝も昼も夜も、ずっと絵を描いていた。(すごく楽しかった)

 笹は美術大学の大学生になっても、それからプロの画家になったあとも、ずっと自分の作風を変えなかった。

 自分の感情をありのままに、まっすぐに絵の中に表現していった。それから、よく風景画を描いた。

 花の咲いている絵や、月や星の絵や、柔らかな風の吹いている風景の絵や、紅葉の絵や、雪の降る風景を描いた。(風景画を描いているときは、とても穏やかなきもちになれた)

 静かな時間や、新鮮な空気や、季節の変わっていく風景や、ゆっくりと流れる時間が好きだった。

「ねえ、笹。久しぶりにさ、私の絵を描いてよ」と大学を卒業して、今では笹の絵の手伝いをしてくれている笹の奥さんの松が言った。

 松は真っ白なエプロンをつけていて、今、お昼御飯ができたよ、と笹を呼びにきてくれたところだった。

「別にいいけど、どうしたの、急に?」と笹は言った。

 笹は松の絵をたまに描いていたのだけど、最近ではあまり松の絵を描くことはなくなっていた。

「なにか特別な理由がないとだめ?」と松が言った。

「いや、別にいいよ。描くよ」とにっこりと笑って、背伸びをしながら、笹は言った。

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