019. 悠然の街路
陽の光が少し弱まり始めた昼下がり、
人間と獣人の二人組が長い斜面の丘を歩いている。
小走りで先に頂上へ到着したリリナが振り向き、
「ラウル!見て!見て!」
と遠方を指差している。
のしのしと闊歩してくるラウル。
リリナと並んで歩くそれとは違い、歩幅がとても大きい。
先に到着した少女が「早くっ、早くっ。」と弾んでいる。
そして、同じく丘の頂へと到達する。
「……着いたか。」
リリナが指し示していた方角には
石や木造の年季の入った民家が立ち並び、土の道がそこまで延びている。
鮮やかな花畑、少し離れた所には林、小さな畑や家畜の姿も見える。
水路も多少整備されているようだ。
外壁と呼ばれるものはなく、申し訳程度の柵がその町を囲んでいる。
とても
「リリナ。」
両手を眉の辺りに当て、目を細めて町を見ているリリナに声を掛ける。
「ここは風上だ、いまいち町の状況が分からん。
とりあえず毛皮を腰に巻いておけ。」
荷物袋から腰の縄を隠すように毛皮を手渡され、腰に巻いていく。
「それから念のためこれもな。」
そういうと、ラウルが羽織っていた煤竹色の頭巾付き外套をリリナに被せる。
ラウルにとっても大きく、緩やかな造りだったため
リリナはその姿をすっぽりと隠せてしまえる。
「おっきいー!」
頭巾から顔だけ出し、両手を上げたり、クルクルと回ったりしている。
「人間の匂いは特殊だ。
近くまで行けば少しは町の様子も分かるだろう。」
――町の方へ丘を下り、歩を進めていく。
町へ近付くごとにリリナがラウルの近くへと寄っていく。
土の小道を辿り、ついに町の入口らしき場所の手前まで近付いた。
ラウルが鼻をヒクヒクと動かし、匂いを確認する。
「……人間、多いな。」
訝しげに町を眺める。
労働者として使役されているという可能性もある以上、迂闊な判断はできない。
リリナを背に隠れるように促す。
入口付近には壁のない番小屋があり、そこに併設された馬房に馬が一頭繋がれ
番小屋では獣人が壁を背もたれにして椅子に座り、
何やら寝言も言っているようだが、ラウルが遮るように
「もし。もし。」
と声を掛ける。
リリナはラウルの膝裏に引っ付いている。
フガッと豪快な鼻息と共に
「……あ~……?」
ゆったりとした、動きを阻害しない服に身を包んだ獣人が目を覚ます。
おそらくここでの一般的な町人の服なのだろう。
全身は栗毛で乳白色の
長い顔の先には緩んだ口元。耳はピンと立っている。
「休息中のところすまない。少し伺いたいことがあるのだが……。」
丁寧な口調で寝起きの獣人へ声を掛ける。
栗毛の獣人はラウルの様子を確認し、
「……おっ、旅人さんか!」
眠たそうな目がパチッと開き、椅子から立ち上がる。
「あの丘の先から来たんだが。
この町には宿はあるだろうか。」
歩いてきた方角を指差し、質問する。
「あぁ、あるぜ。
あっちってことは崖の上の町から来たのかい?」
慎重に言葉を選んでいる様子で答える獣人。
「いや、あそこは迂回した。
俺は別に
それを聞いた獣人は少し気を良くしたのか
声の調子を上げ、
「それなら良かった。
ここはあの町から流れ着いた人間も多い。仲良くしてやってくれ。」
気さくに身振り手振りを交え、歓迎の意を示してくれている。
「そうか。それならこちらも大助かりだ。」
そういうと足元へ目線をやり
「お馬さん……?」
膝裏付近の服を握り締めているリリナがひょこっと顔を出す。
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