第1話有能スキル
『──この度はスキル【ガイド】をお使い下さりありがとうございます!』
『ふぁっ!?』
おっと…ヤバいヤバい。突然聞こえた声に思わず俺の声が漏れそうだった。王様のお話を遮る訳にはいかないからな。
今の声は俺だけにしか聞こえてないよな?何か体の内側から聞こえたというか脳に響いたというか…とにかくスキルを使ったのは俺だろうし…いや、ジョブが同じ者がいたら…どうなるんだ…?
『──問いにお答えします。ガイドを所持しているのは…すいません。その前にマスターとお呼びしても宜しいでしょうか?それとも他の呼称でお呼びした方が宜しいでしょうか?』
『えっ…と…呼び方は何でもいいよ』
『──では無難に…マスターとお呼びします。先程の問いですが現在ガイドのジョブを所持しているのはマスターだけです。当然ながらマスターにしかこの声は聞こえません。もっと正確に言うのならマスターの脳だけに直接語りかけております』
『…なるほどね……。あっ…ところで俺は君を何と呼べばいい?』
『──お好きに呼んで頂いて構いませんよ』
脳に語りかけてくる声は同年代の女性っぽいな。好きに呼んでいいとは言われたもののガイドって呼ぶのもなんだしな…。ガイ…?いや、ガイって男みたいだしな…。ええと…ええと………
『…サチ…でもいい?』
『──了承しました。今日から私はサチです』
『…これから宜しく…サチ…』
『──宜しくお願いします。マイマスター』
サチと心の中で会話しているうちに王様の話が終わったようだ。ヤバいな…話聞いてなかったわ…。
『──ご心配にはお呼びません、マスター。グレンガルド王の話は私が全て把握しております。重要なのは身の振り方についてですね。この王城でも面倒をみてくれますし、城を出て好きにしてもいいし、面倒をみると名乗りをあげた者達に面倒をみてもらうのもいいしと言った感じです』
物凄く重大な事だったわ!?危うくクラスメイトの誰かに何て話だったのかを聞かないといけなくなるところだったわ。スキルが有能なお陰で助かったな…。
『──光栄です』
『ホントありがとうな?さて…身の振り方か…。王城に残るのは…なしかな…。窮屈そうだし…何かあったら駆り出されそうだしな』
『──マスターの思われる通りかと…』
『だよな?城を出て好きにしてもいいとは言われても…お金もないしな…その辺りはいくらかお金を持たせてくれるのか?』
『──この世界で約一ヶ月間、不自由ない生活ができるくらいのお金は城を出るならいただけます。また、お金が底をつく度にこの城にくれば再度最低限のお金はいただけもします。推奨はしませんが…。いずれはギルドに入るなり、地球での知識を活かしたりなんなりして自分で稼ぐ事にはなるとは思われます』
異世界だからといって、お金が無くなる度にこの城に来て、お金の打診に来るのはちょっとな…。寄生虫とか色々陰で言われそうだしな…。でも…何人かはクラスメイトでそんな
『──マスターのおっしゃる通り…3名程はそうなりそうな気配が…いえ、なるでしょうね。何かにかこつけて何もしないのが一人、娼館にハマってしまうのが二人です…』
『サチは未来も分かるのか?』
『──あくまで予想の範囲ですが…マスターの記憶から人物像などを読み取り、計算した限り…そうなる者がいるのは間違いないでしょう…』
そっかぁ…流石に未来は分からないか。そりゃあそうか…。
まあ、こんな風に突然異世界に来てしまったわけだから引きこもりみたいになるのも仕方ないとは思う。
それにしても…娼館かぁ…。思春期真っ只中と言えば真っ只中だし…そういう事はやっぱり考えてしまうし、興味あるし…仕方ないわな…。
『──マスターの思われる通りかと…。娼館にはこの世界ならではの色々な種族がいますからね。マスターの元いた世界のアニメや物語でも有名なエルフや
エルフ!?獣人族っ!?
『──その食いつき…マスターもやはり男なのですね…』
ばっ!?馬鹿っ!?違うからなっ!?そういう感じで話に食いついた訳じゃあないからなっ!?本当に違うからな!?ただ…アニメや物語で目にした種族が本当に居るんだなって…そういう感じで思っただけだから!!
『と、とにかく…城は出るとして…』
『──その件についてですが、マスターに提案しても?』
『…提案?』
『──はい。マスターを預かりたいと思っている者がいます。ここはその者にマスターの身を預けるのが最善かと思われます。その者の領地は王都より離れておりますし、マスターが思われたようにのんびりしたいという、いわゆるスローライフというものを叶えるのにも都合がいいと思われます』
『…疑問なんだが…』
『──何故マスターを?と、いう事ですね?』
『…うん、それそれ!』
『──それに関しては彼女のスキルが関係しています』
『んっ?彼女…?ちょっと待て…彼女って事は…女性なのか?』
『──はい。女性です』
マジで…?
『──先程の話の続きになりますが、申し上げた通り彼女のスキルが関係しています。マスターと同様に、彼女が最初から授かっているスキルの一つに【神託】というスキルが彼女にあります。その【神託】というスキルが発動した事によりマスターの事を預かりたいと思っていますね…』
それは…元を辿ると本心は嫌々なんじゃあないのか?
『──その辺りの心配はありません。神託ですよ?別の言い方をすると…そうですね…神様から直接お言葉をもらったと同義といった感じでしょうか。それはこの世界では最上級の誉れといっても過言ではありません』
神様からのお言葉なら…そうなるのか?なるんだろうなぁ…。んっ?じゃあ神様は存在しているのか?
『──当然です。この世界にマスター達が来たのも神様…女神様の御力になります…』
『…女神様か…。その女神様は何で俺達をこの世界に寄越したんだ?あの時俺達の身に何が起こったんだ?』
『──マスター達がこの世界に来たのは…マスター達が地球で亡くなったからです…』
『…亡くなった…?じゃあ…俺達は…一度死んでる…のか?』
『──…はい』
そっかぁ…あの時…死んだから意識が途切れたのか…。
『…あの時一体何があっ──』
「あっ、あのっ…」
何があったのかという事をサチに問おうとしていたら不意に声が掛けられた。声の方に視線を向けるとそこには紅髪の美少女の姿が…。腰まであるであろう綺麗な長い紅髪のその美少女に思わず見惚れてしまい考えていた事も声を発する事も忘れてしまう。
「は、はじめまして。私はティア・カシオペアと申します」
「…っ!?こ、こちらこそはじめまして。隼豊和…いや、えっ…と…英語みたいに名前が先にくるのなら…『サチ!名前が先でいいんだよな?英語で名乗るみたいにトヨカズ・ハヤブサであってるか?』…」
心の中でサチに問いかける。
『──はい、マスター。それであってます』
「──失礼しました。トヨカズ・ハヤブサです」
名前を名乗るとティアさんという女性が手を差し出してきたのでその手を握り返して軽く会釈を交わす。会釈を交わした後は当然手を離す…。決してその手の温もりが名残惜しいとかは思っていない。
ふと、辺りにも視線を向けると周りも俺と似たような感じで貴族の人達や兵士お偉いさんであろう人達に声を掛けられて、それに対して戸惑いながらも挨拶を返しているのが見てとれる。
そんななかでティアさんからこんな言葉をもらうことに。
「陛下から先程お話があったように…私は異なる世界から来られたあなた達が不自由なく生活できるように補佐させてもらう事に名乗りをあげたこの国の貴族の一人です。そして私共【カシオペア公爵家】はハヤブサ様の御世話をさせて頂きたいと思っています。当然の事ですけどこの件に関して、カシオペア公爵の家名に誓って何一つ不自由な生活はさせない事をここに誓います」
公爵家…。確か偉いというか貴族でも上の方の爵位だったよな?
『──その認識で間違いありません。補足すると彼女はこの国の王の四番目の娘になります。一番目の娘はこちらから見て、グレンガルド王の横に立っている金髪の女性のその右隣の同じく金髪の女性がそうです。その女性の腹違いの妹にあたります。更に補足するとティア公爵は王位継承権も持っており、第四王位継承者となります』
『…はっ?おいおいおい…それって…本当に大丈夫なのか?このティアさんに御世話になったら余計に厄介事に巻き込まれたりしないか?』
『──逆に厄介事からマスターの身を護るのにも最適かと。それだけの力も当然持っていますしね。マスターがどうしても嫌だとか、あわないと思われたらその時にまた考えればいいと思われます。私もついていますしね』
サチが言うなら…そうした方がいいか。ガイドに従うのは間違いないよな。
「いかがでしょうか?」
「…宜しくお願い出来ますか?」
「はい!」
御世話になるという事を伝えると満面の笑みでそう言葉を返してくれたティアさん。
さてさて…どうなる事やらって感じだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます