第10話 窮地に立つエレノア

 私は恐る恐る馬車から降りて、レイモンドと対峙した。しかし、そこにはレイモンドだけでなく、顔を隠して武装している怪しげな男たちの姿もあった。


 彼らは不気味な笑みを浮かべ、私を取り囲むように立っている。夜の闇に紛れて、その数は正確には分からないが、少なくとも10人以上はいるだろう。


 私は深呼吸をして、震える声を押し殺すようにレイモンドに問いかける。


「どういうつもり、レイモンド?」


 私の問いかけに、レイモンドは傲慢な態度で答えた。


「もう一度、聞くぞ。婚約関係を元に戻してくれ」


 その言葉に、私の中で怒りが沸き上がる。こんな脅迫まがいのことをされて、誰が応じるというのだろう。私は毅然とした態度で即座に拒否した。


「嫌よ」


 私の拒絶に、レイモンドの表情が怒りに変わる。その目は、まるで獲物を狙う野獣のように鋭く光っている。


「もしも拒否するれば、こちらにも考えがあるぞ。ここにいる彼らには、君のことを好きなようにしていいと言ってあるんだ」

「それは……」


 とんでもない脅しに、私は言葉を失う。まさか、こんなストレートに言うなんて。これがバレてしまえば、貴族の立場を失ってしまうような行為だ。こんなことをする男に、私の将来を託せるわけがない。


 レイモンドは、私の動揺を見透かしたように、さらに脅しを続ける。


「このままだと、君はとても悲惨な目に遭うことになる。それでもいいのか?」


 圧倒的な優位に立ち、レイモンドは余裕綽々とした態度で脅してくる。彼の周りの男たちも、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべている。私の身体は小刻みに震え、恐怖で胸が締め付けられる思いだ。


「暴力で脅すなんて、本当に野蛮ね。貴族のやることじゃない」


 私は精一杯の勇気を振り絞って、レイモンドを非難した。しかし、私の言葉は彼の怒りに油を注ぐだけだった。


「お前が俺をそうさせたんだ。お前が拒否したから!」


 血走った目で私を睨みつけるレイモンド。だが、そもそもの原因は彼の浮気にあったはずだ。私は彼の身勝手さに呆れを隠せない。


 絶体絶命のピンチに陥った私。彼に従わなければ、悲惨な目に遭うという。そんなことをされるのは嫌だが、あんな男に命乞いするのはもっと嫌だった。


 私は最後の望みを賭けて、レイモンドに話し合いを持ちかける。


「話し合うことは出来ないの?」


 私の提案に、レイモンドは鼻で笑う。


「こちらは何度も謝っている。君が俺を許して、元通りにする。それで上手くいくんだ。君は、どう思う?」


 到底許せるような内容ではない。私は毅然とした態度で、再度拒否する。


「元通りなんて、無理よ」

「そういうことさ。話し合っても、無駄だよ」


 レイモンドが諦めたように言うと、彼の仲間らしき男が剣を構えて、私に近づいてくる。周りを囲まれ、逃げ場はない。


 男の剣が、月明かりを反射して鈍く光る。それで脅しつつ、私の体を拘束しようとしているのね。あと数歩、という距離まで来た時。


 闇の中から誰かが飛び出してきた。


「なっ――ぐあっ!?」


 男の悲鳴が、夜道に響き渡る。

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