ポートレイン
海来 宙
episode 1 地縛霊と帰らない姉
「
「憂、お願いだよ……」
今日の霧雨は前回より弱々しいけれど、彼は放棄されてさびれた黒い海に向かって
斗夢が捜している塁とは、もう十日間も帰らない彼の姉のことだ。この港での目撃情報と雨の地縛霊のうわさを元に、小雨降るなか最初に訪れたのが三日前で、その日は現れた憂と話すことができた。
しかし――、
「うち、塁って人に会ったことないよ」
病的なほど白い頬の少女の答えはこれだった。
「似たような人でもいいから、思い出してよ。口元に二つほくろがあるんだ」
食い下がる斗夢、相手は幽霊だが怖がる様子はなかった。
「だって、うちは地縛霊でしょ? 誰が誰かはわかるって」
「じゃあ僕は誰? 僕の名前もわかるよな」
彼は強気の視線で訊ねるも、彼女は「斗夢、でしょ」とこともなげに答える。傘を落として頭を抱える彼、本当は初めましてで名乗っていた。
晴れた日を挟んで霧雨の今日、斗夢はもう一度港に現れた。それはまだ塁が見つかっていないことを意味している。彼女は成長期が遅れがちな弟に対して背は高く、皆への優しさと思いやりにあふれ、何より美人で聡明、周りから「ずるい」と言われる優等生だった。それが彼の劣等感の原因にもなっている。
後ろで緑色に朽ちた壁を鳴らす鉄板の音、風が強くなってきた。斗夢は傘をずらして弱い雨を落とす涙空を見上げる。のっぺりした灰色の雲には白く美しい風車が威容を誇っていた。風車群は海岸線にまっすぐ立ち並び、今まさに市の中心部にぐるぐる電気を送っている。雨の日は太陽光発電が機能しないから風力発電は大切で、歴史ある水くみ風車に比べて風情がないと嫌っていた塁も、その価値を学んでからは認めるようになった。
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