テレパシーデビュー
中学1年生の春。
おれはついに、テレパシーデビューを果たした。
長かった。
考え方の古い両親の下に生まれたせいで、周りがどんどんスマホからテレパシーに乗り換える中、おれひとり取り残されつづけた。
みんなが念波で情報を共有し合っているのに、おれひとりスタンプで返事しなければいけない切なさといったら。
だが、そんな苦渋の日々も、今日で終わりだ。
「一番安いやつでお願いします。念動力も1GBくらいで十分。新規超能力のダウンロードとかは、大人が承認しないとできないようにしたいんです」
テレパシーショップで好き勝手に契約内容を決めていく母。
我慢しよう。テレパシーを手に入れるためだ。親子そろっての外出は少し気恥ずかしかったが、これも致し方あるまい。学校の連中に目撃されないことを願うばかりだ。
本人確認やら、念メールアドレスの設定やらの細々としたやりとりを終えて、おれは電磁パルスヘッドギアを装着される。
「最初、少しビリビリっとしますからね。場合によっては気絶することもありますけど、まあ命には別状ありませんので。ただし、前後2, 3日程度の記憶が飛ぶことはあります。あらかじめご了承ください」
注意事項の説明を終えて、ショップ店員がスイッチをオンにする。
こめかみに焼け焦げるような衝撃が走り、視界がぐるりぐるりと回転した。
次の瞬間、おれはテレパシーを手に入れていた。
知らない間に自室のベッドに寝ていたし、知らない間に日付が3日ほど進んでいた気もするけれど、そんなことはどうだっていい。
早速、こめかみをダブルクリックして、テレパシーを起動。ブランドロゴが脳裏に表示されるのをそわそわと見送ってから、友人と念波をあわせる。
”テレパシー買った”
送った! 念話、送れた!
返事がくるのが待ち遠しい。
一瞬で既読マークが着く。当然だ。念波で送ったのだから、文字を読む必要もない。届いた瞬間に、相手の脳がメッセージの意味を自動的に理解する。
メッセンジャーアプリなんかとは、比べものにならない便利さだ。
”お、ついにデビューか。おめでとう~”
”ありがとう~”
友人からの返事が届く。
スマホと違って、フリックやらスワイプやらの習熟が必要な操作はなく、念じるだけで自由自在に使いこなせる。ああ、テレパシーはなんと素晴らしいのか。
”ちょっと待って”
そう言った友人の念波が、少し乱れる。
次の瞬間、おれのベッドの上に友人が座っていた。
”えっ、何? 瞬間移動?”
”そそ。中学の入学祝いに、ばあちゃんが買ってくれた”
なんてこった。ようやく、追いついたと思ったら、今度はガジェットで差をつけられるのか。みんなが瞬間移動で登校する中、おれひとりだけ電車通学とかになったら嫌だな。
契約のときの母の発言を思い出し、しばらくは超能力の追加など願うべきもないことを悟る。
そんな思いが顔に出てしまっていたのか、それとも知らないうちに念波に乗せてしまっていたのか、友人はおれの肩をぽんぽん叩いてなぐさめた。
”心配すんなって。通学は今までどおり、一緒にいこうぜ。てか、そもそも念動力が少ないから、Wi-Fiないと長距離の瞬間移動はできねえんだ”
そう言って笑う。
友人の言葉が本当かどうかはわからないが、少なくともひとりぼっちでの通学は避けられそうだ。内心、おれはほっとした。
”あんたら、そんな至近距離でテレパシーする必要ある?”
突然、割り込んでくる母親の念波。
親テレパシーの権限で、子の承諾なく念話に参加できてしまうのだ。
”うっせー、ばばあ! 勝手に入ってくんじゃねー!”
思わず声を荒げてしまう。
まったく、この念波にはプライバシーもクソもあったもんじゃねえぜ。
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