第3話
エリクサーを手に入れた俺はこれで一攫千金! 毎日贅沢をして暮らせるぞ! ……と思ったのだが、よく考えたら、俺はエリクサーを売れるようなツテを持っていないことに気がついた。
……はぁ。仕方ない。それはゆっくり探していくか。
信頼できないところに売ろうとして、買い叩かれたり、力ずくで奪われたりしたら嫌だもんな。
……残念なことに、所詮Cランク冒険者の俺じゃあ、そんなことになっても抵抗できないだろうし。
「取り敢えず、俺は君の面倒を見ることになったわけだから、名前、聞いてもいいかな?」
自然に敬語を外しつつ、俺はそう聞いた。
これから世話をするってなったんだったら、敬語なんて使わない方が楽だからな。
もちろん、この子が敬語を使えって言うなら、ちゃんと敬語を使う気だけど。
エリクサーをくれた相手なんだからな。それくらいは当然だ。
「シアラ」
「……呼び捨てでいい?」
「ん」
エルフの少女……シアラが俺の腕の中で頷いてくれたのを確認した俺は、思わず安堵の溜息をつきそうになった。
だって、普通にこれから暫くはシアラと一緒に居て、世話? をしなくちゃならないみたいだし、敬語のままっていうのは、普通に接しずらいからな。
これがこの世界に来る前だったら全然良かったんだけど、この世界での俺は弱いなりに好き勝手に生きてるし、嫌な人とは関わらないように生きてきたから、そうやって誰かに気を使って生きるのは苦手になってしまってるんだよ。
だからこそ、シアラがそういうのを気にしない奴で良かったと安堵してしまうのは当然のことだと思う。
ちょうど俺がそんなことを考えていたところで、くぅ〜、とシアラの随分と可愛らしいお腹の音が聞こえてきた。
「お腹空いた」
女の子なんだし、もうちょっと恥ずかしそうな様子を見せてもいいものだと思うけど、シアラは全くそんな様子を見せることなく、そう言ってきた。
「食事は俺がこなしてきた依頼の報酬を受け取ってからで大丈夫か?」
「ん」
自分で言ってて思ったけど、俺、このままシアラのことを抱えたまま冒険者ギルドに戻るのか?
……Cランク冒険者にもなったし、流石に絡まれたりはしない、か?
「……ち、ちょっと待て。今、何を飲んだんだ?」
俺がこのままギルドに行くことを内心で少しだけ心配に思っていると、突然シアラがエリクサーを出した時のようにまた何らかのポーション? を明らかにそのポケットには入り切らないだろうという感じのポケットから取り出したかと思うと、それを一気に飲み干していたのを確認した俺は、思わず困惑したようにそう言った。
「これはエリクサーじゃないよ? 普通のポーション。足と体が痛かったから」
「………………最初からそれを飲んでたら、普通に自分でここまで歩けたんじゃないのか?」
「リョウに運ばれるの、気持ちよかった。このまま運んで?」
表情を一切変えることなく、シアラはそう言ってきた。
気持ちよかったって……あれか? 子供の頃、うとうととした状態で親にベッドに運んでもらう時みたいな感覚だったりするのか? それなら、何となく理解できるな。
……そういえば、俺の親は元気にしてるのかな。……俺が死んで、どう思ったんだろうな。
「分かったよ」
前世の年齢と重ねるともういい歳だというのに、ホームシックにかかりそうになってしまった俺は少しだけ首を横に振り、シアラに肯定の返事をした。
本当は自分で歩いて欲しいけど、シアラにはエリクサーを貰ったという恩があるからな。
これくらい、お易い御用だ。
……とはいえ、このままギルドに行くということに対しての不安が無くなった訳では無いんだけどな。
なんなら、山からずっとシアラを抱えて歩いてるし、結構腕が限界に近かったりするんだけど……いや、まぁそれは大丈夫か。
依頼の報酬さえ受け取ったら、直ぐに飯屋に行ってシアラのことを下ろすつもりだからな。
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