プリズムの向こう側
島原大知
第1話 光の屈折
夏休みも終わりに近づく中、光(ひかる)は高校最後の光学の授業に出席していた。教室の窓から差し込む日差しがプリズムに当たり、七色に分かれた光が壁に映し出される。その美しさに彼の目は釘付けになった。プリズムを通した光の屈折は、まるで彼自身の心の中を映し出しているかのようだった。
「先生、どうして光はこうやって分かれるんですか?」光は手を挙げて質問した。
先生は微笑みながら説明を続けた。「それは光の波長によって屈折率が異なるからです。プリズムを通すことで、光の色が分離するんですね。」
光はその言葉に深く感銘を受けた。彼にとって光学は単なる学問ではなく、世界を理解する鍵だった。授業後、友人の美咲(みさき)が近づいてきた。
「光、今日の授業すごかったね! あのプリズム、本当に綺麗だった。」美咲は明るく笑った。
「うん、本当に。光の屈折についてもっと知りたいんだ。」光は目を輝かせた。彼の内には、新たな探求心が芽生えていた。
その日の夕方、光は祖父の遺品整理を手伝っていた。埃をかぶった箱の中から、古びたプリズムを見つけた。手に取ると、まだ新しい光沢が残っているようだった。祖父が生前、どれほどこのプリズムに愛着を持っていたのかを想像し、光は静かに微笑んだ。
「これは…」光はつぶやいた。祖父の思い出が一気に蘇り、心に温かい感情が広がった。
家に戻り、プリズムを覗き込むと、教室で見たあの七色の光が再び広がった。しかし、今回は違った。光の中に微かな揺らめきが見えたのだ。まるで、プリズム自体が生きているかのような錯覚に陥った。
「どうしてこんなに美しいんだろう。」光は不思議に思いながらも、その美しさに魅了された。夜遅くまでプリズムを観察するうちに、彼の心には新たな決意が芽生えていた。自分自身と向き合い、真実を追求するために。
翌朝、学校での友人たちとの会話も変わり始めていた。普段なら気にしないような小さな誤解が積み重なり、光と美咲の間にも微妙な緊張が走った。
「最近、なんだか変だね。」美咲はそっと言った。
「うん、自分に嘘をつかずに生きること、難しいなと思ってる。」光は正直な気持ちを吐露した。
その瞬間、教室の窓から差し込む光が再びプリズムを通り抜け、光と美咲の間に虹色の橋をかけたように感じられた。光はその瞬間、自分の内側で何かが変わり始めていることを確信した。
放課後、図書室で一人静かに本を読んでいる光に、美咲が声をかけた。「光、ちょっと話せる?」
「もちろん。どうしたの?」光は本を閉じて、美咲の方を向いた。
「最近、あなたが変わったって周りも感じてるみたい。何かあったの?」美咲の問いかけに、光は一瞬戸惑ったが、深呼吸をして答えた。「祖父のプリズムを見つけてから、自分に嘘をつかないで生きることについて考えるようになったんだ。」
美咲は真剣な表情で頷いた。「それは大切なことだね。でも、無理しないで。私たち友達がいるから。」
その夜、光は部屋のデスクに向かい、祖父の日記を開いた。古い紙に書かれた文字が時折かすれていたが、彼は一つ一つ丁寧に読み進めた。祖父もまた、光学に深い興味を持っていたことが記されていた。
「真実を追求することは、時に孤独な道かもしれない。でも、その先には必ず光が待っている。」祖父の言葉が心に響いた。光はその言葉を胸に刻み、さらに深く自分自身と向き合う決意を固めた。
翌週、光は学校のプロジェクトでプリズムを使った実験を発表することになった。準備を進める中で、彼は自分の考えや感じていることを整理し始めた。友人たちとの関係も、少しずつ修復の兆しを見せていた。
「光、プレゼン頑張ってね。」美咲の応援の言葉に、光は笑顔で答えた。「ありがとう。君のサポートがあるから、頑張れるよ。」
発表の日、光は自信を持ってステージに立った。プリズムを手に取り、光を通すと、彼の前に広がる七色の光が一層鮮やかに輝いた。「光の屈折は、私たちの人生にも多くの意味を持っています。真実を見つけるためには、自分自身と向き合い、多面的に物事を捉えることが重要です。」
聴衆からの拍手が響く中、光は自分の内なる成長を感じた。プリズムを通して見えた光のように、彼の未来もまた、色とりどりの可能性に満ちていることを確信した。教室の窓から差し込む光が、彼の新たな一歩を照らしていた。
放課後、友人たちと一緒に帰る途中、美咲がそっと囁いた。「今日の発表、すごく良かったよ。あなたの気持ちが伝わったと思う。」
光は微笑みながら答えた。「ありがとう、美咲。君のおかげで、自分に正直に生きる勇気が持てたんだ。」
その瞬間、夕焼けに染まる空が七色に輝き、二人の間に温かな絆が生まれた。光は心の中で確かに感じていた。真実を追求することで、彼の世界はさらに豊かになっていくのだと。
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