第30話 祝!

「祝勝会をやりましょう」


 王女様からそれが提案されたのは、渡辺を救出してから、5日後の休みの日だった。


 祝勝会とは、また誤解を招きそうな響きだと思いながらも、おれは了承し、王女様の用意した部屋へ来た。


 ちなみに今おれには護衛はついていないので一人だ。魔族を追い払い、大規模な調査を行なったため、魔族が城にいる可能性は低いとして、俺達の護衛はいなくなり、これからは少しばかりの見回り巡回だけになるらしい。


 王女様と向かいのソファに座り、一息つく。


「この度はお疲れ様でした」

 何に、とは言わなかった。魔族に貴族に、色々だろう。


 ふたりは乾杯、というほどのことはせず、普通に紅茶を飲んだ。


 飲みながら北村は考えた。


 思えば、これまで王女様とゆっくり話すことはなかった。いつも魔族やら貴族やら、事務的な仕事の話をしていたからだった。しかし、今は違う。


 北村は何を話せばいいのか、困った。


 王女様から話題を出してくれたら楽なのだが、不思議なことにその様子もないようだった。


 そこでとりあえず直近で起こった出来事について話すことにした。


「それにしても、あの戦いは大変でしたね。あの貴族の使ってた道具。よく王女様は対処法を思いついたと思います」


「ああ。あれですか。杖がオーバーヒートするのはよくあることですからね。それに幸運でもありました。でも北村さんも分かっていらしたようでしたが?」


「読み取ることはできました。でも思いつくことはできませんよ」


「そんなことはありません。それに、今回の戦いで驚くこともありました」


「驚くこと…ですか?」


「そうです。北村さんは戦闘に有利なスキルもないのに、しっかりと戦ったでしょう? 意外と勇気がある方だと思いました」


 その時不意に王女様と目が合って、彼女は照れたように目を逸らした。


 北村は意外に思った。短い付き合いだが、彼女の人となりは見えてきたところである。北村からすると、彼女がこんな照れ屋な反応をするとは思えなかった。


 きっと面白がって揶揄っているに違いない。

 なのでとりあえずスルーすることにした。


「意外と…ですか?」


「あら。失礼しました」

 王女様は先程の態度から一変して、イタズラがバレた子供のように笑った。


「それで今後は、どうします? そういえば、魔族について心当たりがあると仰っていたような気がしますが、それはどうでしたか?」

 話し始めると、話題は結構出てくるようだった。軌道に乗ったロケットのように、話がするっと出てきた。魔族に関する話になってしまうのはご愛嬌であるが。


「それについては、私の勘違いだったようです」

 北村の質問に対し、勘違いしていたことが恥ずかしいのか、少し頬を赤くしながら王女様が言った。


「今回魔族はギヨームの手引きで入ってきたみたいですね」

 王女様がさらに続けて言う。


「ギヨーム自身は影武者に契約させて、契約を逃れたみたいです」


 北村はそれに驚いた。

「影武者ですか」


「ええ。そのせいで城中大騒ぎでしたよ」


「そうなんですか」

 そんな状況で祝勝会なんてしてていいんだろうか。

 そう怪訝な表情をしていたのが分かったのか、王女様が言った。


「今は落ち着いてきましたけどね」


「北村さん達は、どんどんスキルを獲得している方が増えているようですね」


「ええ。ここ3日間で急に増えて、驚いています」


「何かしらの時間を要する条件があるのかもしれませんね。熟練度とか。それなら大体の時期は一緒になりますから」


「ですね...」

 王女様のその言葉に、おれは考え込んだ。確かにあり得る話である。熟練度か、経験値か、それとも時間か。


 考え込むおれを見て、王女様が言った。


「もっと先の話をしましょうか」


「先の話…ですか?」


「ええ。今後、あなた方はそれぞれ街に派遣されて、表向きは何かの仕事をすることになるはずです。北村さんは何かやりたいことなどはありますか?」


「いえ…特には」


「そうですか。では、趣味などは?」


「趣味ですか」


 元の世界ならゲームと答えるところだが、この世界ではどうするか。


「強いて言えば読書ですかね」


 嘘ではない。本を読むのは嫌いではないし、最近はギヨームの部屋から拝借した例のあの本を読んでいた。


「そうなんですね。では図書館勤務など良いかもしれませんね。王都には大きな図書館がありますし」

 王女様は考えながら、親身になって言った。

 おれは尋ねた。

 

「ちなみに王女様の趣味は何ですか?」


「私ですか? 私は…魔法の練習ですかね」

 急な質問に一瞬キョトンとしたが、王女様はすぐに答えた。王女様ともなれば、この手の質問には慣れっこなのかもしれない。


「魔法の練習ですか。さすが王女様。勤勉ですね」

 おれが思ったことをそのまま言うと、王女様は謙遜したように笑った後、良いこと思いついたという風に言った。


「いえいえ。あ、それと私のことはセリナとお呼び下さい。いつまでも王女様呼びでは遠い気がしますから」


「…分かりました。セリナ殿下」


「ふふ…。よろしくお願いします」


 その後何気ない話をいくつかして、解散した。


 そして廊下を歩いて、おれの部屋の前に差し掛かった時、今度は高田さんに話しかけられた。





 

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