22話 ナーロッパに米軍だって?
基地の内部に潜入。
「こりゃ下手なロシアの基地よりも強固だぞ」
侵入者を見つけやすいようにかいくつもの松明が設置されていて、外部よりも明らかに警備に当たる兵士の数が多い。
「どこから行くか?」
野営地の内部には沢山の建物が並んでおり、たった2人の人間で全てを探索するのは至難だ。目立つ建物をピックアップし、分担して調べるのが効率的だろう。
その旨をレベッカに伝えると、
「それはいいですね――――名案だ」
と納得してくれた。
探索に行く前に、普段使いのトランシーバーとコンパクトサイズの小さなトランシーバーを取り出し、小さい方をレベッカに渡す。作業効率を高めようと図っているのだ。
「これは一体何ですか?」
「トランシーバーって言って、連絡ができるやつだ」
初めて見るトランシーバーに困惑するレベッカに大まかな使い方を教え理解してもらうと、ついに捜索を始めた。
レベッカが向かった先はレンガ造りの倉庫で、俺が行く先は明かりが灯る木造の建物だ。そこへ向かう理由は、この2つの建造物が基地内で最も大きいからだ。
目的地へ到着し適当な物陰へ身を寄せた時、トランシーバーからレベッカの声が聞こえてきた。よかった、ちゃんと使い方が分かったようだ。
「入りましたか?」
「いや、まだだよ。そっちは?」
「私は今入ったところです」
「分かった。俺も今から入る」
長々と話しているとバレそうだ。通信を区切ると、内部へ侵入できそうな箇所を探す。
建物を一周ぐるりと歩き回ると、無防備にも閉じるのを忘れて開いたままの窓を発見。壁に手を置いて這い上がる。
ストンと静かに入り込む。
白いシーツが敷かれたベッドが何個も設置されている。ここは兵舎だと推測する。
多分ないだろうなと思いながらも一応、ベッドの下を覗き込んでみたりシーツを裂いて中身を確認してみたりする。結果は当然皆無だが。
寝室に用はなくなったので扉を開けて外へ出た。
長い廊下が端から端まで伸びており、部屋へ通じる扉がいくつも。
どの部屋に入ろうか悩んでいると、正面玄関にある扉が開き、人の足音と話し声が聞こえてきた。見回りの兵士が帰って来たのだろう。
すぐさま横にあった部屋へ避難。
「それで今日も疲れたよな~」
「マジそれな、アイツ人使い荒いからな~」
兵士の会話が扉のすぐ向こう側から響く。自分の心臓は破裂しそうな程鼓動していた。数秒遅れていたら、どうなった事だろうか。想像するだけでも恐ろしい。
鼓動が収束すると立ち上がり、辺りを見渡した。金属の無骨な棚が部屋を囲うように並べられていて、古い雑誌や段ボールが無造作に押し詰められている。いらないものを収納しておくための物置だろう。
全く掃除の手が加えられていないのか埃の量が凄まじく、鼻の奥が痒くなったので外へ離脱した。
今度は誰も居ない事を確認すると、斜め左の部屋へ向かった。中から人の声が微かに聞こえる。ナイフを引き抜くと、そっとドアノブに手を掛けた。
1つのベッドと値が張りそうなソファと、丈夫で仕事が進みやすそうな机。この部屋は間違いなく、将校が使用する所だ。
そしてソファには2人並んで談笑する小太りの男達。こちらに背を向けて座っているので顔は見えないが、どうせろくでなしだ。その証拠に、
「いやぁ、捕虜の女はたまらんなぁ」
「指揮官、捕虜を使った的当てゲームの方が楽しいですよ」
「さすがは隊長。いい案を言ってくれるな」
人がするとは思えぬ下品な会話を弾ませている。
ナイフを右手に忍び寄り、2人の真後ろに立つ。酒臭い。
酔っている上、会話の声量のせいでこちらの存在に気付いていない。
「ははは、それでな――――」
ああ、もう耳障りだ。とっとと死んでくれ。
躊躇う事なく尖った先端を脳天へと突き下げた。
「んぶっ!」
「声を出すな」
大声を出されたら面倒だと、口を手で押さえて死へ追いやった。
「な、何者――――」
「知らなくて結構だ」
汚い脳からブレードを引っこ抜くと、もう片方の心臓部分に刃先を突き刺し、一瞬で絶命させた。
下種将校の死体をベッドの底面へ隠したあと、どちらかが使っていたと思われる机を入念に調査していた。施錠された引き出しがあるので、鏡はないにしろ、重要な何かがあるのは確かだ。
また銃を用いて無理やり破壊しようかと考えたが、ここは屋内だ。銃声の反響で察知されてしまう。正攻法で解決するしかなさそうだ。
とは言っても鍵なんてそこら辺に落ちている訳ない。だが、撃ち壊すという方法は避けたい。
静かに施錠装置を壊す方法といえば、あれがあるが……
「できるかな……」
そう思った時には、ピッキングツールを手に持っていた。ピッキングをあまりやった事がないから、上手く開錠できるか不安だ。
ツールの細長い針金を鍵穴に挿し入れ、上下左右に回転させた。
奥でパーツがズレる音が小さく鳴った。失敗するかと不安だったが、無事に成功したみたいだ。
ちっぽけな溜め息を一度吐くと、引き出しを手前に引いた。
書類やペンの予備しか入っておらず目ぼしいものは特にないように見えたが、その中で唯一、奇妙なイラストが描かれた紙があった。
紙は新聞のようなもので、沢山の文字が上下左右みっちりと記されている。そして、端の写真に何故か爆撃機の絵が載っていた。航空機が登場したのは1903年だ。この世界の文明は中世辺りだから、飛行機なんて乗り物はある筈ないのだ。
空の乗り物には詳しくないので間違っているかもしれないが、絵の爆撃機はかつてのアメリカが日本の市街を焼き払うために配備していたボーイング社のB-17に似ているような気がする。機体が何であれ、この時代に航空機があるのは不思議極まりない。
念のためにそれを押収すると、トランシーバーから焦った様子のレベッカの声が流れてきた。
「どうした? 見つけたか?」
「はい、見つけました。しかし……あっ、逃げられる……! 詳しい話は後です! とにかく今は基地の外へ来てください」
かなり切羽詰まっている。大変な事態が発生したのだろう。
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