音符のありか

(待たせたな! ロムスviewだぜ)


 管理局での会話のあと、洞窟の探索を戦闘が得意なイヅルに任せて、俺らは街を担当することにする。


 俺は3人で話し合って都市中心部の民家に向かうことにした。都市内の音符は全部建造物内にあった。なおさら管理局の人間が回収していない理由がわかんねえ……。


「すみませーん」


 インターホンを押して反応を待つ。しばらくすると疲れ切った顔の男が出てきた。


「はい……どちら様で」

「すまねえ。冒険者でこの都市に訪れたロムスってもんだが、ここに8分音符の形をした音符が隠れてないか? ––––あっ、一応スキル生成師の資格もある。身分保障になるか分からんが」


 男はしばらく難しい顔をして、「入ってもらってもよろしいでしょうか?」と言った。別にいいけど、なんか気になる言い方するじゃねえか……。


 部屋に案内される。端のベッドで老人が眠っていた。


「あなたが言っているのはこちらでお間違いないですか?」


 彼は棚から音符を取り出す。


「おおっ、それだよ! ……話せば長くなるんだが、実は魔王が復活しちまって、それを討伐するのにどーしても必要なんだ。……だから、頼む! その音符を俺にくれないか。もし代わりとして何かしろってなんなら、俺のできる範囲でなんでもする!」

「はあ……」


 彼はしばらく音符を見つめている。


「実は、私の父はもう危篤きとく状態にありまして、ずっと苦しんでいる状態です」


 俺は端にあるベッドを見る。たしかに苦しそうに眠っている。


「もう治る見込みはねえのか? もしかしたら万病まんびょうを治す薬草とかあるかもしれねえぜ。俺のパーティに実はアルケミストがいて……」

「いえ、お気遣いなく。すでに、天使様のお迎えを待っている段階ですから」

「そんな言い方……」

「わしゃもう死ぬんじゃ……。もうええ、看病なんていらん。息子アレクよ……お前は自分の人生を歩め」

「お父さん無理しないで。きっと、天使様がもうすぐきて、お父さんは幸せになれるから」

「もう死ぬ……もう死ぬんじゃ……」


 死を覚悟した老人と、それを受け入れる息子。俺はかける言葉を見つけられない。


「父は、男手1つで私を育ててくれました。だから、私は父が幸せになるその瞬間まで、自分のことを犠牲にして見守ってやりたいと思ったのです。……はじめこの音符を手に入れたときは父が元気になる可能性も考えましたが、そんなことは一切ありませんでした」

「なるほど……」

「その、冒険者に1つ聞きたいことがありまして、もし可能だったら、なのですが」

「おう。どんと来い」

「父は遥か遠くのシスタスの村という田舎に、大きな家を構えています。その家を相続するかどうかで悩んでいるのです。相続してしまえばこの都市を離れ、多数の税を払う羽目に。しかし相続しなければ多大な資産を手放すことになりますから、どちらが正解か分からず」

「……お、おう」


 きっと父を最期まで笑顔にしてやる方法とかを聞かれると思っていたから、あまりにも事務的な話で戸惑った。


「そうだな。……1つ聞きたいが、お前はこの都市にやりたいことを遺してたりするのか」

「やりたいこと……ですか? ま、まあ」

「ありそう、だな」

「お恥ずかしながら……」

「だったらそれを第一に決めればいいじゃねえか。つまり遺産は相続しねえ。実際お前の言う通り、固定資産税は大変なことになるぜ。なんたってシスタスの村は貧乏だから、でけえ家構えてたらどれだけ課されるかわかんねえ。相続税だって控除込みで取られるかもしれねえしな。……実は俺は地元がシスタスの村なんだ。もしよかったらその空き家、知り合いの不動産屋にかけあってみようと思うが、どうだ?」


 地元の話しをしてミスティのことが頭をよぎぎった。あれ、上手いことやればこの家ミスティにあげられんじゃね? ……いや、困ってる人の前でなんてよこしまなことを考えてるんだ俺は。


「ありがとうございます。そういった煩雑はんざつなことを考えるのが本当に嫌いで、音符の代わりといってはなんですが、ロムスさんに全てお任せしてよろしいでしょうか?」

「おう! 大船に乗ったつもりでこい!」

「助かります……! では、こちらを」


 そういって彼は俺に音符を渡す。割と簡単に手に入ってよかったぜ。


「あのっ、最後にもう一つだけお伺いしたいのですが」

「なんだ?」

「私も父のように満足に動けなくなったときのために、やはり投資というのをしておくべきなのでしょうか?」

「うーん……」


 俺は投資をしたことがないので困った。ギャンブルで金が減る一方なのでこの話題は難しい。


「お金に煩雑な話が苦手なら、手を出しても続かねえんじゃないか? それに数十年後のこの都市がどういうルールでどういう経済のもとに動いているかもわかんねえし……。必須ではないと思うな。それよりも」


 ずっとヘコヘコしている彼に、俺は全力の笑顔を向けてやる。


「自分に投資してやれ! お金とは別で、やりたいこと叶えるために自分を磨け! それも一種の投資だ」

「……ありがとうございます! ずっと父と2人きりだったので、他の人と話して生きる勇気が湧いてきました」

「へへっ、良いこと言ってくれるじゃねえか」


 俺は最高の気分で家を出る。こういうことがあるから冒険者はやめられない。


 ––––ファは、ファイナンシャルプランニングの『ファ』。


(やっほ〜ミ☆ クロアviewだみゃ!)


 クロアの目的地は酒場! ソフィーちゃんとロムスの担当箇所より広いけど、色んな人がいるから楽そう。


 酒場に行くと、この時間の大都市酒場にしては珍しく入り口が閉まってた。代わりに受付カウンターのようなものが置かれてる。


「みゃみゃ〜?」

「あっ、もしかして参加者の方ですかっ!?」


 クロアがカウンターを眺めてたら綺麗な女の人が走ってきた。


「ごめんなさい。もうてっきり全員来ていたのかと」

「どういうことだみゃ?」

「あら、勘違いですか。あはは〜すみません。私ったら。お美しい服装をしている方だからつい!」

「えへへ〜それほどでもあるみゃ〜。……参加者の方です!☆」


 よくわからないけど。


「こちらにお名前を」

「は〜い。……お姉さんも、とっても素敵だみゃ☆」

「ッ!? ––––は、はい。ありがとうございます……。クロアさん。可愛い名前」

「もう入っていいのかみゃ?」

「あ、あのご祝儀とか……」

「ん?」

「えっ?」

「……ああ〜! 忘れたみゃ。ごめんごめん」


 鞄から雑に30000ゴールドと小銭こぜに処理として11ゴールドを出す。せっかくルィトンの財布買ったのに金回りが〜(泣)。てかここ結婚式の披露宴会場だったんだ。


 ––––酒場––––


「ビンゴォォォォォォォォ!!!!!」


 酒場の中は凄い盛り上がってた。色んな人がカクテルを持って立ち話したり、前では景品を巡ってビンゴ大会が開かれている。クロアもシャンパンを入れてもらった。


 さてと、音符はどこに……みゃ!?


 ビンゴを貰って、前で拍手を受けている人がいる。ピピアンのポーチいいなあ……じゃなくて。


「では次はこちらの音符! 今日の主役である新郎新婦が旅行先で拾った不思議なものです」


 音符が、ビンゴの景品になってる!


 なんだそれー! と野太い声が飛んでいる。たしかに興味のない人からしたら価値がどこにあるのか分からないと思う。だけどクロアはその価値をしってるから欲しい! ビンゴの紙どこ!


「次の数字は……16! ビンゴの人いますか!?」


 やばい。ビンゴカードが見つかんない。その間にもゲームが進む。もしかしてもう全部配り終わってる?


「お兄さん!」


 ベロベロに酔いながら穴のたくさん開いたビンゴカードを持っている人を見つける。これはチャンス♪


「ねえねえ〜クロアにそのカードでゲームさせてくれない?」


 腕を絡めて、上目遣い。……ビンゴカード獲得。


 カードを見るとさっき呼ばれていたはずの16が空いていなかった。酔っ払ってないでちゃんと参加して! 16と……カードを探している間にも呼ばれていた、いくつかの数字に穴を開ける。まだだ。トリプルリーチだけど、まだ完成してない。


「次は……47!」


 穴は空かない。


「次は68!」


 また空かない。もう〜(怒)。


「きゃ〜! 空いた!」


 ドレスの女性が叫んだ。嘘でしょ!? 音符が取られちゃう。


 彼女は友達にそそのかされて音符を受け取るために視線を浴びながら前の方に向かう。……こうなったら、仕方ないけど。


「クロアも! クロアも空いたみゃ!」


 適当にビンゴを作ってクロアも叫ぶ。新郎の知り合いでも新婦も知り合いでもないけど、みんな酔ってるので誰も気づいていない。クロアもさっきシャンパンを一気に飲んだから気持ちよくなってきた。ちなみに一気飲みは絶対にやっちゃだめだみゃ!


「お〜っと!? これは2人同時にビンゴかあ!? 音符の行方は!」


 ビンゴになった女性にはお酒を注いであげて、飲ませてからそのドレスを褒める。そしてお願いする。最後にウインクする。……どうやらクロアに音符を譲ってくれるみたい。


「おおっと! 話し合いの結果彼女が得られることになったみたいだア! では、こちらへ!」


 司会に促されて、クロアは隣に立つ。やっぱり舞台で色んな人の視線を浴びるのは心地よい。


「お姉さんは、新郎・新婦とどのようなご関係で? ……あれ」


 司会の彼は、クロアのビンゴカードを見ていぶかしげな顔をする。


「33番は、まだ一度も呼んでいないはず……」


 クロアは彼に向かって前屈みになる。


「細かいことは、目をつぶって欲しいみゃっ☆」

「……。音符を、彼女に無事贈呈ィィィィィィ!!!!」


 よしっ。音符、無事にゲットだみゃ!


 ––––レ、は宴会レセプションの『レ』。 


 ……。


 こうして音符を獲得したクロアは、もうこの披露宴ひろうえん会場を出るだけ……だと思ってたのに。


「すみません! 誰か!」


 突然酒場の扉が開く。みなの視線が彼女の方に向く。髪がボサボサで、言い方は悪いけどみずぼらしい格好をしている女性だった。


「夫が、夫が、私のことを追いかけてきていて……誰か……」


 そういって彼女は倒れた。その背後から腕を抑えながら走ってくる男の人がいる。抑えられている腕はひどく火傷している。


「待てえええマユカァ!」

「誰か……! 夫から私を……」


 誰もどうしようもない。クロアも困った。そしたら、今度は違う人が酒場の入り口にやってきた。クロアよりも年いってそうな男の人だった。


「マ、マユカさん……」

「あなたは……、町中心部に住むアレクさん……? ずっとお父さんの看病をしていたはずでは」

「とある冒険者さんに勇気をもらって、あなたを助けにきました」


 え、なに。


 どういう状況!?

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