2人目の仲間

「全てを滅ぼせ––––邪炎覇じゃえんはごく】––––」


 僕が小さくつぶやくと洞窟内のモンスターは殲滅せんめつされる。大量の経験値が手に入る。レベルは上がらないが、スッキリする。


 ソフィーが化粧をする間、暇つぶしに遠くの洞窟まで出て一人狩りをしていた。彼女とのクエスト消化ライフは、彼女が変人へんじんであることをのぞけば割と楽しめている。ただしそれとは別で、たまには与えられた力を発散したくもなる。


「んーっ。やっぱたまには体動かさないとなあ」


 良い準備運動になった。そろそろソフィーは支度を終えている頃だろう。今日はどんなクエストを受注しようか、なんてことを考えながら、ギルドのあるスターレリアまで転移テレポートした。


     ◆


 ––––冒険者ギルド[スターレリアの街]––––


「イヅル、どこに行ってた。探したぞ」

 

 どうやら少し戻るのが遅かったみたいだ。手元の灰皿には吸い殻が山積みになっていた。


「ごめん、ちょっと準備体操してて」

「えらく健康的だな。夏休みの宿題か?」

「そんな概念がいねんあるのこの世界……」


 またこの世界が不人気な理由が一つ分かった。


「まあ、そんなことはどうでもいい」


 ソフィーは笑みを浮かべる。最近一緒にいて気づいた。彼女が微笑ほほえむときは大抵ロクなことを考えていない。


「キミがいない間に、良い獲物えものを捕えた。見せてやりたくてな。フィールドに放置している」


 どうせまた魔物をめにしているとかだろう。解剖かいぼうされていると気持ち悪いのでそれだけはどうか勘弁してほしい。



 ––––フィールド[スターレリア地方]––––


「助けてくれえええええ! いくら市民でも逮捕たいほできるといったって、現行犯の話だぞー! 俺は何もしてねえし!」


 スターレリアを出て少し歩いたところ、フィールドの真ん中で彼は叫んだ。


 え。彼……?


「どうだ。見てくれ。今日は人間を捕まえてみたぞ。そこら辺に歩いてたからな」

「いや、ソフィー、あのさ」


 ヒトにまで手出しちゃってんじゃん!!


 僕がそう叫んだ勢いで周辺の魔物が絶滅ぜつめつする。やば。チートれた。


     ◆


「何やってんだよソフィー!」


 いくら生体に興味があるといっても、人間を捕まえるのはいただけない。だってそれは。


「犯罪だよ、こんなの。スターレリア治安維持部隊セキュリティに見つかったら終わりだ」


 僕はパーティリーダーとしてソフィーに注意する。他人を必要以上に痛めつけるのは、たとえここが剣と魔法の世界であっても違法いほう行為である。したがってそのような行為はつつしまなければならない。


「いや、その心配はねえ」


 反論したのは捕えられている張本人だった。


「この世界は国家、というより街単位で政治が行われている。だから法が適用されるのは街の中だけだ。最悪なことにここはフィールド……。何をやってもいい無法地帯なんだよ。俺が拘束こうそくされているという事実は決していただけないが……それとは別で、そこの女は罪を犯している訳ではねえ」


 捕まっている割には冷静だった。なんだこいつ。


 な、悪くないだろ!? とソフィーは目を輝かせる。……こいつらお互いに何したいんだろう。


「ではイヅル。こいつの処遇しょぐうを決めたいと思うが、どうしようか? 私は2択だと思っている。解放するか、全身を薬物で固定することでサンプルとして永久保存するか、だ」


 ちなみに私は後者推しだ、とソフィーが言って、たしかに殺人もフィールドだと許されてるけどよー! と捕えられた男がいう。こいつ助けられたくないのか?


「解放してあげようよ……。そもそも、何も悪いことしてないのにこんなことする必要も感じないしさ」

「いや、悪いことならしていた」

「なに?」

「歩きスマホだ」


 僕は頭を抱えた。うーん、確かにそれは悪だ。……しかし、歩きタバコをしているソフィーが言うか。


「きっと道に迷ってマップを開いてたとかでしょ? 僕だってたまにするし、今回は勘弁してやろうよ?」


 マップ見てたんだよね、と彼に問いかける。彼は首を横に振った。


「ちげえ! オンラインカジノしてたんだよ! スロットの調子がすこぶる良かったから! ついやめられなくて」


 この世界って、クズしかいないの?


「でもフィールドには条例がねえ! だから歩きスマホしたって別に捕えられるほどのことじゃねえんだぞ! てかそこの女だって歩きタバコしてただろうが! あとお前タバコくせえよ!」


 彼の言うことに僕は深く同意する。


「おい、イヅル。こいつ今私のことディスったぞ。やはり固定したほうが」

「もうどっちでもいいわ……」


 そうして僕らの話し合いは長時間に及んだ。


 3秒後。


「よし。解放してあげよっか」


 僕らは彼を解放してやるという選択肢を選んだ。決め手は、気分だ。


 それが、僕のパーティをはちゃめちゃに……いや、楽しく・・・にしてくれるありがたーいメンバーのうち2人目、ロムスとの出会いだった。

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