異世界チート生活、なんか思ってたのと違う
@s-uam-a
進路希望は異世界転生
「就職先ですか……? そうですね。異世界転生とかでしょうか。……ハハ」
こんなことをゼミの飲み会で言って大スベリしてから、はや半年。僕––––
詳細は以下に述べる通りである。
まず死に方は限りなく交通事故に近い方法を選んだ。その方法が良いと転生経験者の
「ようこそいらっしゃいました。こちら、転生受付センターです」
死後は無事それらしい中継点についた。そこで特典をもらえるというので、僕は「めっちゃ強いの!」を志願した。ただ僕の生前の行いだと
提案された世界––––名をリオリムと言った––––は、パっと見、中世感あふれる
「それでは、いってらっしゃいませ。女神セレシアがお受けしました」
担当女神は、印象よりも老けていてあまり可愛くなった。大事な仕事だからベテランが任されているのだろう。
チートは凄かった。ひとたび剣を振るえば魔物は一撃。向こうの攻撃は無効。この世界には魔王がいると聞いたので、僕は
魔王伝説を聞くため、歴史ある城下町の王に
そうして世界に平和が訪れた。
「やば……めっちゃ暇……」
転生3日目にして僕はやることを失った。元の世界で精神に刻まれた
暇になって気づいたことがある。この世界には電波がある。ネットがある。スマホまである。アニメやゲームが充実している。……元の世界となんら変わらない。魔王がのうのうと生きていたのは、国民がみな動画を見てだらだらしていたからであった。この世界が不人気な理由がよく分かる。
そんなこんなで、ある日。
「よっし!」
暇すぎてゲームの縛りプレイをしている時にふと思い立つ。
––––自分自身の体で縛りプレイをしたらいいじゃん。
できなかった『冒険者らしいこと』をしてみようと思った。ギルドの仕事を順にこなし、たまに遠くの街や洞窟を探索してみる。……そうだ、僕はそんなことがしたくてこの世界に来たはずなんだ。
思い立ったが
◆
––––酒場[スターレリアの街]––––
「こんにちは! どのような仲間をお探しで?」
そういえばギルドには初めて来た。あまりにも早く魔王を倒してしまった僕は、この世界のあらゆることを経験していない。けど、それでいいんだ。これから経験できる。ワクワクしてきた。
「そうだね。まずは女性がいいな」
ギルドの受付はあからさまに顔を歪ませた。しかし僕はどうしても女が良かった。せっかく異世界に来たのだから、できれば幸せになれる方法で物事を進めたい。チートでハーレムパーティなんて最高じゃないか。
「あの……いま、ご紹介できる女性冒険者は1人ですが……」
「はあ!?」
僕は思わず声をあげる。
「はあ、と言われましても。世界に平和が訪れてから、身を固めたがる女性が増えました。また、そうでない方も、冒険以外の方法で自己表現をするようになりました。……そもそも、あなた、イヅルさんでしたっけ?」
この世界で僕は自分のことをそう名乗っていた。元の世界におけるただの名字だが。
「あなたがチートスキルで勝手に魔王を倒したのでは? 自分で倒しておいて怒るなんてあまりに身勝手です。それに加えて、いまどき性別で人間を判断するなんて……」
これだから転生者は……と受付の子は露骨に僕に対して不快感を示した。やめろ。出自で僕を判断するな。
「わかった。今のは完全に僕が悪かったよ。……じゃあ、その1人だけでいいから、紹介してほしいな」
「……承知しました。では、後日連絡しますので、ここに連絡先を」
それが、僕のパーティをめちゃくちゃに……いや、
◆
––––宿屋[スターレリアの街]––––
数日後
「やあ、ギルドから紹介を受けて会いにきた。ソフィーという。アルケミストだ。よろしくな」
第一印象は『タバコ臭い』だった。彼女は煙を
「よろしくね。僕はイヅル。ギルドの仕事をこなして生活してる」
「ほう、そうなのか。……こなした仕事の数は?」
「まだゼロだけど」
「ははっ。これからだな。見たところ新人の冒険者と言った感じだ。私もだ。楽しくやれるといいが」
能力だけで何とかなるせいで僕はろくに装備を整えていなかった。新人冒険者だと思われても仕方ない。
ところで、彼女も新人だと言ったが……。
僕は彼女のステータスをスキャンしてみる。もちろん、これも、女神からもらったやつ。
ソフィー/アルケミスト/レベル21
HP: 315 MP: 526
STR: 147 VIT: 209
INT: 391 RES: 390
DEX: 103 AGI: 254 LUK: 200
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まあ、ステータスは平凡だ。それより、次ページ? なんだこれ。スキルとかでも書いているのか。
第2回全国アルケミスト模試 成績表
合成書読解 120/200 偏差値 56
調合計算 198/200 偏差値 68
調合技術 168/200 偏差値 63
錬金化学 200/200 偏差値 71
錬金歴史学 105/200 偏差値 47
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な、なんだこれ。こんなん見てもどうにもならないよ……。
◆
それからソフィーとの生活がはじまった。ちなみにソフィーは美人だった。ただしタイプではなかった。もうちょっと崩れているほうが、僕でもイケそう、と思えるから好きになれる。
––––フィールド[スターレリア地方]––––
2人だけのパーティは、まず手始めにスライムを狩りにいくことになった。
ソフィーはアルケミストらしくアイテムを合成して戦っていた。
「ふぅ……余裕だな」
さすがに力を抑えているとはいえ、スライムくらいは簡単に倒せる。経験値が2入った。冒険が始まったという感じで、僕は興奮が止まらない。こういうワクワクあふれる冒険を僕は待っていたんだ。
「なあ、イヅル。かなり気になることがあるが」
ソフィーは汗を拭いながらこちらを見る。そしてタバコに火をつけてから言った。
「ここにいるスライムは、誰を倒しても経験値が2入るな」
「う、うん……」
なに当たり前のことを。
「管理された条件下ではなく、自然環境で野生として生きているのに……だ。みな、倒せば、2の経験値しか入らない」
「どゆこと?」
「たとえば、同じ人間を倒すとして、
「……格闘家、かな?」
「私も同意見だ。なぜなら、彼らは同じ人間でも遺伝子レベルで発現するタンパクに差がある。育ってきた環境が違う。生き物とはそういうものだ。なのに、ここのスライムは」
「みな……経験値が2しか入らない」
「育つ環境は違うはずなのに、2しか入らないのだ。すなわち、スライム達は非常に
「つまり、何が言いたい?」
「ふふっ。……ここのスライム達は、近親相●(自主規制)しまくっているということだよ」
言って彼女は大声で笑った。変な笑い方だった。ふひひ、とか、美人なのに勿体ない声をあげる。
あー、失敗した。スタンダードな冒険生活が送りたいのに。1人目からとんだ奇人を仲間にしてしまった。
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