異世界チート生活、なんか思ってたのと違う

@s-uam-a

進路希望は異世界転生

「就職先ですか……? そうですね。異世界転生とかでしょうか。……ハハ」


 こんなことをゼミの飲み会で言って大スベリしてから、はや半年。僕––––依弦いづる隼人はやと––––は無事頭を強く打って死に、異世界へ転生した。ついでに女神からチート能力までもらった。


 詳細は以下に述べる通りである。


 まず死に方は限りなく交通事故に近い方法を選んだ。その方法が良いと転生経験者の自己啓発本じこけいはつほんに書いていた。僕は身の危険に侵されてそうな子供を近くの交差点で必死に探し、その子がかれる直前で僕は道路に飛び込んだ。しかし僕が代わりにかれてしまうと、ドライバーが裁きの対象となって可哀想である。なので、直前と述べたが、実は割と早めに飛び込んだ。そして僕はその勢いで強く頭を打つことで昇天を狙った。たぶんブレーキ跡と僕の死に方で、トラックの運ちゃんは罪に問われてないはずだ。


「ようこそいらっしゃいました。こちら、転生受付センターです」


 死後は無事それらしい中継点についた。そこで特典をもらえるというので、僕は「めっちゃ強いの!」を志願した。ただ僕の生前の行いだと審査しんさに通るか分からないので、転生先は不人気のところでも良いかと聞かれた。一生懸命ガクチカ学生時代に力を入れたことを説明したのにこれでは報われない。


提案された世界––––名をリオリムと言った––––は、パっと見、中世感あふれる優良ゆうりょう物件……ならぬ優良世界だったので、僕は二つ返事で了承りょうしょうした。


「それでは、いってらっしゃいませ。女神セレシアがお受けしました」


 担当女神は、印象よりも老けていてあまり可愛くなった。大事な仕事だからベテランが任されているのだろう。


チートは凄かった。ひとたび剣を振るえば魔物は一撃。向こうの攻撃は無効。この世界には魔王がいると聞いたので、僕は討伐とうばつを目指すことにした。


魔王伝説を聞くため、歴史ある城下町の王に謁見えっけんしにいったら、緊張きんちょうりきみすぎて城を破壊してしまった。賠償請求ばいしょうせいきゅうをされたので、金をたくさん落とす魔物がいる島まで泳いでいった。大量の魔物を狩りたかったので、内なる力に従うまま技を放ったら、その勢いで魔王城を爆破ばくはした。


そうして世界に平和が訪れた。


「やば……めっちゃ暇……」


 転生3日目にして僕はやることを失った。元の世界で精神に刻まれた奴隷根性どれいこんじょうはスローライフを受け付けなかった。


 暇になって気づいたことがある。この世界には電波がある。ネットがある。スマホまである。アニメやゲームが充実している。……元の世界となんら変わらない。魔王がのうのうと生きていたのは、国民がみな動画を見てだらだらしていたからであった。この世界が不人気な理由がよく分かる。


 そんなこんなで、ある日。


「よっし!」


 暇すぎてゲームの縛りプレイをしている時にふと思い立つ。


 ––––自分自身の体で縛りプレイをしたらいいじゃん。


 できなかった『冒険者らしいこと』をしてみようと思った。ギルドの仕事を順にこなし、たまに遠くの街や洞窟を探索してみる。……そうだ、僕はそんなことがしたくてこの世界に来たはずなんだ。


 思い立ったが吉日きちじつ。僕は早速さっそくギルドに転移魔法テレポートで向かった。



 ––––酒場[スターレリアの街]––––


「こんにちは! どのような仲間をお探しで?」


 そういえばギルドには初めて来た。あまりにも早く魔王を倒してしまった僕は、この世界のあらゆることを経験していない。けど、それでいいんだ。これから経験できる。ワクワクしてきた。


「そうだね。まずは女性がいいな」


 ギルドの受付はあからさまに顔を歪ませた。しかし僕はどうしても女が良かった。せっかく異世界に来たのだから、できれば幸せになれる方法で物事を進めたい。チートでハーレムパーティなんて最高じゃないか。


「あの……いま、ご紹介できる女性冒険者は1人ですが……」

「はあ!?」


 僕は思わず声をあげる。


「はあ、と言われましても。世界に平和が訪れてから、身を固めたがる女性が増えました。また、そうでない方も、冒険以外の方法で自己表現をするようになりました。……そもそも、あなた、イヅルさんでしたっけ?」


 この世界で僕は自分のことをそう名乗っていた。元の世界におけるただの名字だが。


「あなたがチートスキルで勝手に魔王を倒したのでは? 自分で倒しておいて怒るなんてあまりに身勝手です。それに加えて、いまどき性別で人間を判断するなんて……」


 これだから転生者は……と受付の子は露骨に僕に対して不快感を示した。やめろ。出自で僕を判断するな。


「わかった。今のは完全に僕が悪かったよ。……じゃあ、その1人だけでいいから、紹介してほしいな」

「……承知しました。では、後日連絡しますので、ここに連絡先を」


 それが、僕のパーティをめちゃくちゃに……いや、賑やか・・・にしてくれるありがたーいメンバーのうち1人目、ソフィーとの出会いだった。



 ––––宿屋[スターレリアの街]––––


 数日後


「やあ、ギルドから紹介を受けて会いにきた。ソフィーという。アルケミストだ。よろしくな」


 第一印象は『タバコ臭い』だった。彼女は煙をふかしながら僕に会いに来た。


「よろしくね。僕はイヅル。ギルドの仕事をこなして生活してる」

「ほう、そうなのか。……こなした仕事の数は?」

「まだゼロだけど」

「ははっ。これからだな。見たところ新人の冒険者と言った感じだ。私もだ。楽しくやれるといいが」


 能力だけで何とかなるせいで僕はろくに装備を整えていなかった。新人冒険者だと思われても仕方ない。


 ところで、彼女も新人だと言ったが……。


 僕は彼女のステータスをスキャンしてみる。もちろん、これも、女神からもらったやつ。



ソフィー/アルケミスト/レベル21

HP: 315 MP: 526

STR: 147 VIT: 209

INT: 391 RES: 390

DEX: 103 AGI: 254 LUK: 200

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 まあ、ステータスは平凡だ。それより、次ページ? なんだこれ。スキルとかでも書いているのか。



 第2回全国アルケミスト模試 成績表

 合成書読解 120/200 偏差値 56

 調合計算 198/200 偏差値 68

 調合技術 168/200 偏差値 63

 錬金化学 200/200 偏差値 71

 錬金歴史学 105/200 偏差値 47

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 な、なんだこれ。こんなん見てもどうにもならないよ……。



 それからソフィーとの生活がはじまった。ちなみにソフィーは美人だった。ただしタイプではなかった。もうちょっと崩れているほうが、僕でもイケそう、と思えるから好きになれる。


 ––––フィールド[スターレリア地方]––––


2人だけのパーティは、まず手始めにスライムを狩りにいくことになった。


 ソフィーはアルケミストらしくアイテムを合成して戦っていた。


「ふぅ……余裕だな」


 さすがに力を抑えているとはいえ、スライムくらいは簡単に倒せる。経験値が2入った。冒険が始まったという感じで、僕は興奮が止まらない。こういうワクワクあふれる冒険を僕は待っていたんだ。


「なあ、イヅル。かなり気になることがあるが」


 ソフィーは汗を拭いながらこちらを見る。そしてタバコに火をつけてから言った。


「ここにいるスライムは、誰を倒しても経験値が2入るな」

「う、うん……」


 なに当たり前のことを。


「管理された条件下ではなく、自然環境で野生として生きているのに……だ。みな、倒せば、2の経験値しか入らない」

「どゆこと?」

「たとえば、同じ人間を倒すとして、筋骨隆々きんこつりょうりゅうの格闘家と、弱そうな老人なら、どちらがより経験値が入ると思う?」

「……格闘家、かな?」

「私も同意見だ。なぜなら、彼らは同じ人間でも遺伝子レベルで発現するタンパクに差がある。育ってきた環境が違う。生き物とはそういうものだ。なのに、ここのスライムは」

「みな……経験値が2しか入らない」

「育つ環境は違うはずなのに、2しか入らないのだ。すなわち、スライム達は非常に綿密めんみつなレベルで遺伝的背景ジェノタイプが維持されていると考えられる」

「つまり、何が言いたい?」

「ふふっ。……ここのスライム達は、近親相●(自主規制)しまくっているということだよ」


 言って彼女は大声で笑った。変な笑い方だった。ふひひ、とか、美人なのに勿体ない声をあげる。


 あー、失敗した。スタンダードな冒険生活が送りたいのに。1人目からとんだ奇人を仲間にしてしまった。

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