一方、どうしたらいいのか分からなくなった悠真は、とりあえずビルを出て池袋駅に向かって歩いていた。

 つい先ほど自分の身に起きたことを思うと、すれ違う通行人の皆が皆、無邪気に映った。


 不意に尻ポケットのスマホがバイブする。画面には「安村」と出ていた。


『……ヘイ、ユー』

 彼特有の低い声がする。

「安村、無事だったのか」

『お前はしゃべるな。誰かが聞き耳を立てているかもしれんからな。相槌だけ打っていればいい。拉致されないようになるべく人けのある道を歩き続けろ。なるべく手短に話す』

「……わ、わかった」


 悠真は、辺りの人の気配に注意を払った。とっさには目の合う人間はいない。


『お前が聞いたように、オレは当局に危険人物としてマークされている。深井が言ったことに嘘はない。が、奴が言わなかったことに真実がある。深井らに犯罪じみた迷惑行為に及んだのは、オレたちへの妨害工作から手を引かせるためだ』


 彼は話を続けた。

 国内には、日本政府に政策にまつわる提言や要求を通して自らの利益拡大を図る圧力団体やロビイストが数多く存在するという。

 深井は、その中の一つである"ラッツ"の幹部だった。

 ラッツは世界各国の政治経済をコントロールして利益を誘導しようとしている裏の国際政治組織「コア」の下部組織で、日本政府・省庁等へのロビー活動やブレーンを送り込むことが主たる役目となっている。

 それで、このコアを秘密結社「イルミナティ」や「三百人委員会」になぞらえる向きもある。


 安村は、上京後にたまたま出会った人間に誘われて共鳴し、とあるグループに加わることになった。

 それが、この国にどういう未来へ導くべきなのか模索している日本国内の地下組織「アフタートゥモロー」(AT)で、組織の存在が当局に知られてからは、自然とラッツから干渉を受けるようになったのだという。


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