52.三学期
「お、おはよう白田」
「おはよう」
あれ以来会ってもいなければ話してもいないため少し気まずい。
「「あのさ」」
お互い同時に口を開き、さらに気まずくなる。
「シチュー、美味しかったよ。ありがとう」
「おう…不味くなくて良かった……」
「手の怪我、大丈夫?」
「あぁ、大したことない」
「「…………」」
会話の内容が見つからない。これで話終わりですか? 話を続けれない男はモテない。なんかの動画でそう言っていた。
俺は頑張って話題を模索する。
「あ、そういえば、あけましておめでとう」
「あ、うん。あけましておめでとう」
「じゃあ、行こっか」
だめだ。気まずさは取り除かれるどころかさらに増す。駅まで話さないのか、そんな恐怖が脳裏によぎる。
「あのさ、私とジャンケンしよう」
「お、おう。やるか」
訳も分からずジャンケンをする。ただ、沈黙よりマシだ。
「「ジャンケンポンっ!」」
「負けた」
俺が勝った。終わった。ジャンケンが終わった。
「はい」
「え?」
白田はデコを出している。何をすればいいんだ?
「白田、俺は何をすればいいんだ?」
「え、デコピン」
「あー、なるほど」
罰ゲーム制度か。さすがに女子に男子のノリはできないため、軽くポスッとデコピンをする。
「痛くない。本気でやって」
真剣な顔に圧倒される。
「えぇ……じゃあ、やるぞ」
バヂィィン゛
静かな住宅街に破裂音が響く。
「うぅぅぅ……い、痛い……赤くなってる?」
「ごめん。赤いな」
さすがGACKT式デコピン威力が違う。痛そうに額を擦る白田が犬みたいで可愛らしかった。その姿を見ていると自然と口元がゆるむ。
なんだか、気まずさが無くなった気がする。
「白田ってそんなに面白かったっけ」
「どういう、意味?」
「いいや、なんでもないよ。気にするな」
きょとんとしたまま頭にハテナを浮かべている。犬のように首を傾げる。あぁ、可愛いで溢れてる。
駅のホームで白田と電車を待つ。女神の隣にいるため、みんなからの視線が痛くて仕方なかったがもう慣れてしまった。
駅の日陰はやけに寒く、白い息も鮮明に濃く見える。寒さに耐えながら学校に着く。教室に入るといつも通りの風景があった。
ただ、変わったことといえば、愛華の髪色ぐらいだ。教室から金色が消えて黒に染って少し寂しさがある。愛華は朝からいつものメンバーと話していた。
「三人おっはー」
「おはよう」
「おはおはぁぁぁ!? えぐ、黒髪じゃん」
「びっくりした。似合ってるよ愛華さん」
「それほどでも〜」
愛華は照れるように頭に手を置く。
「おはようございます。なんだかリア充の匂いがします。鬼は外ですよ。帰ってください」
俺たちは顔を合わせる。悠もリア充疑惑が俺の中ではある。だが、俺リア充だと前に批判されている。俺か悠のどっちかだな。
「これは……大賀氏から匂います……」
「すげぇ鼻が利くな。まあ、俺に春が来たってこった」
「どいつもこいつもふざけやがって。まあ、大賀氏が嘘をつく気持ちも分かります」
「嘘じゃないけどなあ」
「は……キルユーですよ! ほんと、キルユーです!!」
朝からリア充への嫉妬がいつも通りに始まる。
始業式が始まり、今学期は次の学年のゼロ学期なんて校長が話していた。んなわけないだろと思いながら長い話を冷えきった体育館の床に座りながら聞く。
始業式も終わり、みんな痺れた足を懸命に動かす。教室を目指し足早になる。教室に入ると暖房がついていて暖かかった。
「みんな席つけー」
先生が前に立ちながら言う。みんなダラダラとしながら席に着く。
「はい。みんな揃ったな。うちの学校では毎年この学期は次のクラス替えの時に最初からいいスタートをきれるように今学期から二年次のクラスで過ごすことになってる」
辺りがザワつく。驚きや喜びの声が聞こえてくる。俺は少し残念に思うが、二年次の為だと切り替える。
「じゃー紙貼り出すから、各自確認しろー。明日からこれだからなー」
俺は人が引き始めたぐらいに見に行く。
2-5組か……悠も同じか。心の中で安堵のため息をつく。
「じゃあ、今日はこれで終わり。気をつけ、礼」
「「さようならー」」
終わると教室がうるさい動物園と化す。同じクラスだったかみんな確かめあってキャッキャしている。
「そうちゃん! クラス一緒だよ!」
「まじ? そりゃよかった」
「えー。もっと嬉しそうにしてよ」
「うれしーうれしー」
「ねー、適当じゃん」
そう言って愛華は少し拗ねる。実際、クラスが一緒で良かったと思っている。少なくとも仲がいい人がはじめのクラスにいるだけで馴染める早さは桁違いだ。
放課後になり、帰る時間になった。バド部は例外だ。しかし、入荷したばかりの本を並べるという鬼畜労働の時間があるため少しサボれる。
「おぉー来たか」
「どうも。今日は並べるだけですか?」
「そうだぞー。案外すぐ終わるさ」
そう言って本を並べ始める。ほかの委員会の人はサボりらしい。普通に舐めてやがる。
「そういえば、そうたくんは何組だ?」
「5ですよ」
「私も5だぞー! やったー! 体育大会一緒の団だな!」
こんなに喜ばれると少し恥ずかしいが、嬉しいという気持ちもあった。去年は敵チームだったため、なんだか体育大会が早く来ないかと楽しみになった。
俺たちは黙々と作業を進める。
「そうたくーん。ちょっとこっち手伝って」
呼ばれて向かうと上の段に本を並べようとしていた。ギリギリ届いてない。すると脚立の上でつま先立ちしだした。
「先輩気をつけてください」
「おう、まかしとけぃ」
この人の任せとけは任せられない。先輩が諦めた時に変わろう。すると、脚立がグラつく。楓先輩もバランスを崩した。
「先輩!!」
「…………あれ、落ちてない。そうたくんナイスキャッチ」
俺はギリギリのところで先輩をキャッチできた。
「セーフですね」
「か、顔が……近いな」
顔が近く、洋画だとそのままキスしてしまいそうな距離だった。それに気づいた時、驚いて落としまいそうだった。
柔らかい足、小さい肩、近くで見ると綺麗な茶色の瞳、フローラルの甘い匂い。触れる度、近づく度に気づく先輩の特徴が俺の中のこれまでの先輩を壊そうとしていた。
あれ、こんなに可愛かったっけ。
こんなに魅力的だったっけ。
「そうたくん?」
「すいません。ちょっとぼーっとしてました」
抱き抱えていた先輩を下ろす。腕に柔らかい感覚がまだ残っている。
「顔色、変だぞ?」
頬に触れる指先の冷たい手がいつもなら何ともなかった。ただ、今は少し恥ずかしくなる。
「先輩、顔赤くないですか?」
「なっ、そんなことない……はず」
「赤いですよ」
「言わなくていい!」
恥ずかしくて先輩をからかって牽制する。ぷんぷんと怒る彼女はなんだか見た事のあるような気がした。
「ほら、早く終わらせるぞ」
「はい」
案外すぐに終わり部活に行かなくてはならなくなった。暖房の効いた図書室からは出たくない。
「そうたくん部活は?」
「少し遅れていきます」
「サボりはダメだぞー」
椅子に座って休んでいると頭に軽くチョップを入れられる。
「いてっ」
ふふっと笑う先輩が今は大人っぽく見えた。いつもは子供のように駄々をこねたり、甘えてきたり、そんな姿を見慣れていたためギャップを感じる。
――ガラガラガラ
と、図書室の扉が開いた。扉の前に立っていたのは悠と涼香先輩だった。
「おぉー! 涼香! なんでいるんだ?」
「ちょっと悠くんのお友達に会いに」
「俺……ですか?」
「そうそう、君」
俺に会いに来たということに驚いている。涼香先輩は悠が目当てじゃなかったのか?
「涼香がそうたくんに用があるって……どういう組合わせ?」
「俺もわかんないです」
ほんとにどういう組み合わせだよ。二年のマドンナとバド部、関わりは全くないはずだ。この間も悠と話していたため話したことは勿論ない。
「そうたくんって言うんだ。じゃあ早速本題いくけど「花」好きなんでしょ?」
「まあ、好きな方ではあると思います」
「じゃあ、お花一緒に買いに行こ」
悠が後ろでムンクの叫びのような顔をしている。
「それは、構いませんけど……悠も一緒ですか?」
俺は悠に救いの手を差し伸べる。
「そんなわけないでしょ」
落ち着いてトーンが変わること無く先輩は話す。
一瞬にして救いが無駄になった。そして悠は燃え尽きていた。なんで、俺と行く必要があるのか分からない。どういう意図があるのかも読めない。
「え、二人きりですか?」
「うん。デートだよ」
ひゃっほー!! 二年生のマドンナから直々にデートのお誘い。なんか、最近の俺、モテてないか?
「ちょっと、待ったー!!」
「どうしたの楓」
楓先輩が俺の青春に割って入ってくる。
「最初から、デ、デートっていうのは良くない」
「そうなの? 楓も来る?」
「え、いいの?」
「いいよ」
「やったー!!」
俺の青春は終わった。すぐに終わってしまった。デート……行きたかったなぁ。だが、美女ふたりとお出かけは激アツじゃないか?
俺は新学期早々、いいスタートを切ったようだ。
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