23.カップル?

 靴を履き、外に出ると風が少し吹いていた。耳に当たると一気に寒気が体全体を襲う。俺は持ってきていたコートとマフラーを着る。


 一方、愛華はそのままの制服でミニスカだ。そして生足。JKはそんなにスカートを短くしていたい生き物なのかと思ってしまった。体を震わせながら愛華は言う。


「さっむーーーー。マジこれ死ぬやつ」


「マフラーとかつけないのか?」


「持ってくるの忘れたー」


 愛華がブルブル震えているのを見て、防寒具を着ている俺が申し訳なくなってきた。譲りたくは無いが風邪をひかせるのも嫌だな。


「愛華、これ」


「え? 」


 俺は自分のマフラーを差し出す。


「貸すよ。寒いだろ?」


「いや、いいって。さすがにそうちゃんが風邪ひくじゃん」


「コートあるから大丈夫」


「マージで大丈夫だから」


 いつまでたっても受け取ってくれないため俺はマフラーを愛華の首に巻いた。細い首にブカブカのマフラーがあまり似合わない。隙間に風が入ってきっと寒いだろう。


「あ、ありがと…てかこれめっっっっちゃあったかいじゃん!!」


「そうか? 暖かいなら良かったよ。首元温めとけば風邪ひかないから。多分」


「多分なのね」


 面白おかしく愛華が笑う。とりあえず、風邪は引かなさそうだな。だが、まだ寒そうだ。はぁーと息を吐き手を温めている。


 あ、カイロ! 今日は冷え込むと聞いてカイロは2つもってきた。


「あとこれ、2個あるから」


「ほんとにお人好しだね。ありがと」


 そう言って愛華は微笑む。


「手、貸して」


 愛華がそう言うとニコッと笑う。何を企んでいるのだろう。恐る恐る手を出す。すると俺の手にさっきのカイロを置く。そして、手を上から被せる。


 イヤッフーー!!!!


 また手繋ぎイベントだ。しかも、恋人繋ぎだ。愛華の指先は冷たく白い手がより一層の白く見えた。


「これで寒くないねー」


 二回目とはいえ、さすがに恥ずかしい。からかっているのだろうか。好きな人同士でもないのに手を繋ぐということを考えると胸がモヤモヤしてきた。


「寒くないかもだけど──」


 俺は言いかけて止まる。俺は好きな人同士でもないのに、二人でカフェに行ったり、二人きりで帰ったりしている。その事が自分の中で引っかかった。


 まず、異性と手を繋ぐなんて付き合ってからの話だ。非リアの脳みそにはそう解釈するしかない。なぜなら他の理由が見つからないからだ。


 今この状況で綺麗事を言うのは都合がよすぎる。なので振り払うのではなく、愛華に聞くことにした。


「愛華、俺と手繋ぐの嫌じゃないのか?」


「なんでー? そうちゃんのこと嫌いじゃないし」


「そういうのじゃなくて」


「てか、もうハグしちゃったし」


 そうだった。今日したじゃん。つい1時間前に。もうここまで来ると恥じらいすらないのか。ギャルとは怖い生き物だ。


「まあ、いいけどさ」


「あはは、やったー」


 愛華がいたずらっぽい笑みを浮かべこちらを伺ってくる。俺は童貞でも照れないぞ。


「じゃあ、帰ろ」


 俺たちは、校門まで行き別れようとしたが、次の電車まで時間が有り余っているため愛華を送ることにした。


「愛華の家って近い?」


「ちょうど10分ぐらいだよー」


「暗いし送るよ」


「じゃあー、お願いしよっかな」


 そして俺たちは手を繋ぎながら愛華の家まで向かう。俺たちは中学の頃の話で盛り上がった。すると愛華が話題を変える。


「ね、そうちゃん」


「ん?」


「明日の文化祭一緒に回らない?」


 突然の誘いに驚く。昨日から話すようになってすぐにこんな仲良くなるとは一切思っていなかった。ましてや、文化祭に誘われるような仲になっているなんて。


 でも、既に先約がある。あの非リア軍団と回る予定なのだ。結構前から決めてたことなので今更断ることも出来ない。


「……ごめん。既に先約があって」


「全然いいよ。文化祭楽しみなー」


「愛華は誰かと回る約束してないのか?」


「してたけど、多分回らないね。今日のことがあるから」


 今日のあの一件で愛華を見る目はガラッと変わった人もいるだろう。その中にはあそこにいた女子たちも何人かいるはずだ。


 自分から聞いておいて反応に困る。


「ま、別にいいんだけどね。自分で選んだことだし」


 そう言って愛華は空を見上げる。俺も見上げるとオリオン座がくっきり見えた。星が綺麗で少し見とれていた。


「ここでいいよ。ありがと」


 愛華の声で、すっと視線を戻す。


「ここが愛華の家か?」


「そーだよ」


 目の前には大豪邸が立っていた。二階建てで、広い庭があり、面積だけで言えばバトミントンコートが6個は入るだろう。


「すっげーな。驚いたや」


 家の前で話していると、ガチャっと玄関が開く音がした。お互いに急いで繋いでいた手を離す。愛華の母親らしき人物が出てきた。


 目はキリッとしており、背筋がピンッとしている。見た目から厳しそうな人だ。


「愛華、遅いわよ。隣の方はお友達?」


「そうです。暗いのでそうたさんに送ってもらいました」


 愛華の言葉がさっきとは180度変わり上司と話すような口調になっていた。失礼がないように俺も挨拶をする。


「はじめまして。愛華さんと同じクラスの角田そうたと申します。帰りが遅くなってしまいすいません。文化祭の準備等で遅れてしまいました」


「まあ、ご丁寧にどうも。私は愛華の母の美乃里みのりと申します。今日は娘をありがとう」


「いえいえ、当然のことですよ。それでは失礼致します」


 美乃里さんはとても怖かった。圧迫面接とはあういう感じなのだろう。愛華に視線を送り、小さく手を振ろうとした。


 愛華は、怯えているような顔をしていた。母親にも敬語で話すような関係ということは普通の関係では無いのは分かる。


 確か、中一の時成績が少し落ちてあんな泣いていたくらいだ。相当怒鳴られるのだろう。


 愛華はこちらを向き、作り笑顔を見せこちらに手を振る。俺もそれに応える。そして二人に背中を向け来た道を帰る。


 家に着き、今日も疲れがどっと来た。帰りついたのは9時近くだった。お風呂に入り、ご飯を食べ、歯磨きをしてベッドに入る。


 布団は暖かく、布団は柔らかい。こんな気持ちいい瞬間はなかなかないだろう。


 ふぅ…やっと寝れる……


 あ、マフラー



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る