4.痛み
さすがに踏み込みすぎただろうか。だが、こう聞くしかなかった。白田は肩を震わせている。その時、白田が拳を強く握るのを見逃さなかった。
白田の俯いた顔から雫が垂れている。白田は顔を手で覆う。
「……今は、1人にしてくれないかな」
「それは……無理だ。2回目はさすがに見逃せない」
静かに堪えるように泣いている。本当にいじめというのにあっているのだろう。俺は胸が苦しかった。
彼女の立ち振る舞いの裏では、きついことや辛いことが沢山あったのかということに気づいたからだ。
彼女が見せてくれた微笑みさえ、辛い感情を噛み殺していたのだろう。そう思うと俺も泣きそうになっていた。
今はまともに話せる状態じゃなさそうだ。優しく背中をさする。俺の母親も昔やってくれていたように優しく寄り添うように。
次第に白田も落ち着いてきたようで、ようやく顔を上げてくれた。いつもの白田からは想像できないほど鼻水と涙でぐちゃぐちゃな顔だった。俺はハンカチで白田の顔を拭う。
「落ち着いたか?」
「ごめんなさい、少し取り乱したみたい」
鼻水をすすりながら白田は言った。申し訳なさそうな白田の顔にはたくさん泣いたからだろうか、少し寂しさというのが消えていた。
手を貸し白田を立たせる。さっきの話には触れないように細心の注意を払った。
「急にあんなこと言ってごめん。白田が話す気になったら話せばいいし、別に話さなくてもいい」
「ありがとう、そうた」
目元と頬が赤く染まり、目尻にはまだ涙が溜まっていた。そんな顔で笑顔を向ける。本当の女神のようだった。
白田は優しすぎる。自分のことを考えきれてないのでは無いだろうか。心配していることがどんどん溢れてくる。白田の本当の笑顔を見たい。俺はそう思った。
「ねえ、相談していいかな?」
まさかの発言に驚くが、俺が聞いたんだ。最後まで付き合うそう決めた。
「俺でもいいなら、全然いいよ」
白田は少し微笑み、俺の目を見る。ふぅと息を吐き、白田は呼吸をもう一度整える。
「私、さっき言った通りいじめられてるのかな?多分だけど。あの本はあの人たちの仕業ていうのはだいたい想像がつく。私、どうしたらいいんだろうね」
白田はこれまでのことを話し始めた。時には涙を堪えながら悲しいだろうに、辛いだろうに話してくれた。
母親は白田が幼い頃に亡くなったらしい。そして今は父と暮らしいるんだとか。そのため、父子家庭の影響で中学の時から少し距離を置かれていた。
そして最終的にはいじめに至っていた。いじめの理由があまりにも低俗すぎて聞くに耐えなかった。
そのため高校では友好関係を築かずに一人でいようと考えてたらしい。だが、入学して2ヶ月でいじめが始まった。
もう既に4ヶ月たっている。白田をいじめているヤツらはクラスの女子数名だ。
その主犯は白田の中学の同級生の
なぜ、今いじめられているのかは分からない。白田は今は軽い方だと考えているらしい。しかし、聞いていると軽いなんてものじゃない。まずもっていじめに重いも軽いなんてない。
陰口は当たり前で放課後になると靴が隠されていたり、トイレで水をかけられたり、母親の形見である本もボロボロにされた。こんなの絶対に許せない。
でも、勝手に女神などと言って、偏見を押し付けて白田の理想像を作って見ていた俺らも同罪なのかもしれない。俺は深く後悔した。
「すまん。今まで気づかなかった」
「え、なんでそうたが謝るの?」
「俺が知らない間に白田を傷つけたと思うから」
「大丈夫だよ。心配しないでいいから」
俺はいい考えを思いついた。確証は無いが多分白田はいじめられなくなるだろう。
「白田!」
「ど、どうしたの急に」
「俺と一緒に過ごそう!!」
「え?……」
「……あ」
お互いに沈黙が流れる。やらかした。まるで告白じゃないか。俺は急いで訂正する
「あ、えっと、学校にいる間は一緒に行動しようって言いたくてですね、」
「だ、だよね。びっくりした。でも、そしたらそうたまで巻き込むことになっちゃうんじゃ…」
「一向に構わん!」
俺は白田のいじめ無くなるように全力を尽くすことにした。これが白田の心の痛みを無くすとは思わない。だが、痛みを共有できるのはいい事だと思った。
*
早速、俺と白田は一緒に行動することにした。
「白田、おはよう」
「おはよう」
靴箱で見たその顔は昨日より不安は消えている。いい傾向だ。白田はニコッと笑みを向けた。この調子で頑張ろう。
一緒に何気ない会話をしなら教室に向かった。近くの数人に聞こえるような声で「おはよー」と言いながら教室に入ると、みんながこっちを見ている。
俺は相手を間違えたみたいだ。クラスの女神様を横に引き連れて登校なんて、男子の目の敵にされるに決まってる。
そして何より、白田に日常会話をするような相手がいるということにみんな驚いているのだろう。
とりあえず席に着こうと早歩きで席へ向かう。クラスの男子からの視線が痛い
「おい、そうたくん。チミらは付き合っているのかね」
「いえ、そんなことはございません。私めが白田様と釣り合うなんぞ思っておりませぬ」
「ほう……面を上げぃ。許そうではないか」
クラスの男子から朝から詰められるとは。やっぱり疑われるよな。急に昨日呼び出されて、次の日には一緒に登校とか怪しすぎるよなぁ。
「そうた、お前。卒業か? 俺より早く?」
「ちげぇよ。誤解だからマジで」
「じゃあ、なんで一緒に教室入ってきちゃってんの。見せびらかしてるんじゃないのか?」
何も言い返せない。こいつの言う通りだ。だが、理由は知られないようにしなければ。どうやって話しを逸らそうか考える。すると白田がこちらの席まで歩いてくる。
修羅場か? 修羅場になっちゃうのか?
そんな考えが頭をよぎる。どうしようと焦り散らかす。すると白田は
「落し物拾ってくれて、その流れで話してただけだよ。趣味が一緒だったから、少し白熱しちゃって」
白田が出してくれた助け舟に乗り、便乗する。
「そうそう、本の趣味が似てて」
この白田の発言のおかげで大半の男子は頷いた。しかし、悠は納得いって無さそうだ。こいつの勘はほんとに鋭い。またこいつから問い詰められるだろう。
だが、とりあえず男子の疑いを晴らせたのは大きい。漫画のコマが変わるかのようにチャイムがなり、皆が席に着く。今日はどうなることやら。
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