第15話:冒険者の日常の結末と浪花節? ~クラスSガクツチ・ミナトの簡単な話~


 ガクツチ・ミナト。


 冒険者として登録して以降、昇格の最短記録を更新しつづけて頂点、クラスSにまで上り詰めた冒険者。



 だが彼の評判は英雄的なものではなく「訳が分からない」の一言に尽きる。



 まずクラスSに上り詰めるまでの過程に政治的な話が一切出てこない。


 それが顕著に出たのはクラスBに昇格した時からだ。


 冒険者は、クラスBに昇格すると、財産と称される程に扱いが変わる。


 そして冒険者のクエスト攻略はクラスB以上ともなると、有力者の繋がりが必要となってくる。


 だがガクツチはクラスBに昇格して公国の有力者達から声をかけられるも全て無視、本来であれば皆有力者との繋がりを望んで昇格を目指すのにその逆を行く。


――無頼を気取っている。


 そんな「馬鹿」だと周りも嘲笑していたし、いずれは身の程に気付き頭でも下げてくるだろうと高をくくっていた。


 だが有力者を頼ることなく功績を上げ続け、余計に嫌われる事になる。


 そしてクラスAに昇格。


 クラスAになり国宝と称され、相手が有力者の中でも各国の王族や正貴族が相手になるが、それでも無視のスタンスは変わらず、いや、正確にはその得られる繋がり全てをセシルに譲るといった行動に出る。


 セシルは、それを利用して政治的な地位を盤石にした。


 そしてセシル自身は、ガクツチの一連の行動には無言を貫いている。



 そして伝説となったのは、クラスS昇級を決めた、ドラゴン討伐。



 ドラゴン。


 悪夢とも表現される人知外の生物。


 生息地を含めた生態は一切不明、行動形態は一切不明、気まぐれに人里に降りては人を食らう、所謂「生物種としての人類の天敵」だ。


 対処方法は、ドラゴンの腹を満たすのを待つしかないといったものだ。


 討伐例はあるものの、一国の軍が総力を結集し、結果大きな被害を出して討伐。


 だが戦死者数がドラゴンの腹を満たす必要数の十倍を出すという皮肉な結果となった。



 カグツチはキコ王国に現れたドラゴンを、当時のアマテラスのメンバーと共に討伐、なんと犠牲者0人。



 キコ王国は、彼らの功績を讃え、名誉王族の地位を与えた。


 この世界的な功績で世界ギルドは、クラスSへの昇格を決める。


 世界最高の冒険者がルザアット公国に誕生する。


 昇格が決まると同時に公国はガクツチに男爵の爵位を与える。これで変わるかと思ったら公爵に挨拶に行き社交界に1度参加したきりで、スタンスを変えなかったからだ。



 この一連の上流を無視してでの功績を上げることができる理由は、今登壇しているクォイラ嬢の生家の影響力といったものが通説であり、彼女が仲間になったのはガクツチがクラスCに上がった時だから、一応の整合性が取れる。



 だが子爵家当主との個人的な付き合いはあっても政治的な付き合いは全くなく、家名を利用している様子はない。



 だから公国自体が彼をどうにもできない。



 それを後ろ盾無しと解釈し、更にアマテラスのメンバーが女ばかりであるから、セシルと同様に女好きであると判断した有力者が女をあてがおうと算段し始める。


 それを知ったガクツチは「黒髪ロングの巨乳美女が好き」なんて冗談にしか思えないことを言ってのけて、愚かにもそれを信じた有力者や貴族が条件に合う美女を送り込んだが、結果送り込んだ方の悪事を吊るし上げられ失脚している。



 そして突然の失踪。



 これは本当に前触れが無かった。


 世界ギルド理事長に「一身上の都合により冒険者辞めます」という一文の手紙を送りつけて失踪は、逆の意味で伝説になっている。



 だから訳が分からない。



 地位も名誉も金も、本当にあっさりと捨ててしまった。


 本来失踪なんてのは、信用失墜行為に当たるから冒険者の籍剥奪の上永久追放だが、クラスSの失踪なんて前例がないため、活動停止として扱われている。


 そしてガクツチが所持していた莫大な「遺産」はクォイラが「管理」する形となり失踪騒動は終息。


 彼女は、騒動の終息をまって、クラン「カミムスビ」を結成し、アマテラスに所属したままで、クラン長を務めている。


 今でも失踪したガクツチミナトの行方は現在も分からない。



 だが彼女が失踪したガクツチの行方を知っているのは公然の秘密。



 無論、それを探ろうとする者もいるが、不自然なほどに情報が出てこない。


 だから、今ではクラスSの失踪はこう解釈されている。



――公国の関与があり、影でガクツチ・ミナトは動いている。



(俺が考えもつかない領域にいるのかもな)


 クォイラのクエストの説明を聞きながらそんなことを考えるピグ。


 いっぽう、そのガクツチ・ミナトは、、。



――ギルド・ジョーギリアン



「し、しぬ、、、」


 体調不良で死にかけていた。


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