第14話 アリエル∼交錯する記憶と混沌の城
ツタから聞こえるアルヴィンの声には、後悔と悲しみに満ちていた。
「アリエル嬢。父はあなたに対して非道なことをしました。直接手を下したわけではありませんが、父の行動があなたのこの悲劇を招いたのは事実です。」
「あなたが父や他の貴族たちを恨む気持ちは理解できます。それでも、あなたにはもう手を汚してほしくない。きれいごとかもしれませんが、私があなたの代わりに真実を明らかにし、国を変えてみせます。だから、お願いです!」
アルヴィンは必死に訴えかけた。
アリエルは、空中で静かにその声に耳を傾けていた。そして、アルヴィンと対話する決意を固めた。恭弥の生まれ変わりなのか、確かめたくなったのだ。彼女はスイカズラに新たな魔法をかける。
アルヴィンは森に向かって話し続けていた。アリエルにこの声が届くと信じて。
ツタが静かにアルヴィンに伸び、小さな子供にするように優しく彼の頭を撫でて揺らした。アルヴィンは無意識に手で払い、「もう子供じゃないよ」と笑いながらも、ふと固まった。
(あれ?なんだろう? 無意識に出た言葉に、どこか懐かしさを感じる。)
目を閉じて呼吸を整え、心の奥に眠る記憶を引き出した。そうだ、先生は僕が何かを成し遂げる度に、「恭弥くん、エライね。よく頑張ったね」と、まるで小さな子供を褒めるように頭を撫でてくれた。恥ずかしくて「もう、子供じゃないよ」と手を払い続けたけれど、本当はとても嬉しかった。
アルヴィンの目から涙が溢れ出た。
僕のせいなんだ! 先生が死んでしまったのは、僕が先生に甘えたから変な誤解をされて……そして母さんも狂ってしまった。
涙で視界がぼやけても、声を上げて泣き続けた。
「恭弥くん。もう泣かなくてもいいのよ。大丈夫。大丈夫だから。」
優しい声がし、何度も頭を撫でてくれた。アルヴィンは我に返り、涙を慌てて袖口で拭うと、いつの間にか隣にいる見知らぬ少女を見つめた。彼女は困ったような表情でアルヴィンを見つめていた。その表情に、あの時の教師の面影を重ね合わせた。
「あなたは……」
「初めまして? 私がアリエルよ。」
アルヴィンはアリエルの優しい声に戸惑いながら、彼女の目をじっと見つめた。何か懐かしいものを感じるが、それが何かはわからなかった。彼女の仕草や表情が、まるでかつての教師のように思えてくる。
「え?アリエル嬢……先生が?」 アルヴィンは思わず呟いた。
アリエルはその言葉に驚き、彼が本当に自分の教え子の転生者なのかという考えが頭をよぎったが、まだはっきりとした確証は持てなかった。
「私の名前はローデンに聞いたのね?」 アリエルは慎重に尋ねた。
「ええ、そうです。」 アルヴィンは短く返事し、アリエルをじっと見つめた。そして何かを決意したように口を開いた。
「あなたの仕草が、昔の先生に似ているのです。」 苦笑いを浮かべながらも、心の中では不安が渦巻いていた。
アリエルは彼の言葉に戸惑いながらも、さらに問いかける。
「昔? 過去? それはどういうことか教えてもらえるかしら?」
アルヴィンは少し考え込んだ。「僕は、俗に言う転生者です。前世の記憶があるんです。地球で日本人として生きていた記憶が。」
アルヴィンはそう言うとアリエルを見つめた。
アリエルの胸が高鳴る。その言葉が示すのは、やはりアルヴィンが転生者であり、それも日本人であるということだった。視線を絡めたまま、アルヴィンは静かに語り始める。
「僕は中学生でした……担任の先生が亡くなって数日後、僕も命を落としてしまったんです。」
その言葉にアリエルは驚き、思わず大きく目を見開いた。「なぜ? 恭弥くんはどうして死んでしまったの?」
思わず溢れた言葉に今度はアルヴィンが大きく目を開いた。もう間違いない。アリエル嬢は先生の生まれ変わりだ。
アリエルは意を決したような顔で両手を握り締めると、「私も転生者よ。日本で教師だった記憶があるわ……恭弥くん……」と言った。
互いに暫く見つめ合うとアルヴィンが話し始めた。「今の僕は宰相の息子です。帰らない父の代わりにこの事態を収めに来ました。」
アリエルはそっと目を逸らすと、「……私をどうするつもり?」 と聞いた。
「今は…どうもしません。いえ、正直どうしていいか僕にはわかりません。」 そこまで話した時、異変に気づいたローデンとリゼルがアリエルの前に現れた。
咄嗟に戦いの体勢を取ったアリエルに反応し、ツタは一斉にローデンとリゼルへ襲いかかった。
「駄目だ!」 とアルヴィンは叫びながら割って入った。鋭いツタの一撃がアルヴィンへ突き刺さる手前で止まった。
アリエルは、「危ない! なんてことをするの!」 と言ってアルヴィンへ飛んで行き、「怪我は無い?」 と体中を確認するよう撫で回した。それを唖然と見るローデンとリゼル。アリエルはアルヴィンへ日本語で、
『恭弥くん。後で連絡するわ。その時改めて話しましょう』と言うとツタに巻かれあっという間に上空へ昇って消えてしまった。
残されたローデンとリゼルは状況がわからなかった。アリエル様が生きていたことは分かったが、そもそも何故アルヴィンと親しげなのか?ローデンとリゼルは構えたままの剣を収めるとアルヴィンに詰め寄った。
「説明してもらえますか?アルヴィン殿」ローデンの目が鋭く光った。隣でにっこりと笑ったリゼルの笑顔が怖かった。
アルヴィンは2、3歩後ずさりながら、「取り敢えず森の中の方々を連れ帰りましょう。多分もう植物たちは邪魔はしないでしょう」と言うと森の外にいる近衛兵に声をかけ遺体を運び出し、まだ辛うじて生きている者たちを城に保護した。
***************************
城に戻っても王座には王の姿は無い。私室に皇后とこもり、欲にまみれた時間にふけっていた。大臣たちとアルヴィンと近衛兵だけが慌ただしく飛んで歩いていた。しかし、これで国が回る訳が無い。大臣たちは保身と欲にまみれた自身を隠すこともなく、近衛兵は忠義も無くなり任務を放棄し始めた。被害にあった貴族たちの身内は騒ぎ立て、収集がつかない状態だった。
ローデンとリゼルはアルヴィンを問い正したいようではあったが、混沌とした城内に我が事を押し通す事も出来ずに暫くは静観するしか無かった。
アルヴィンは書斎の机に突っ伏していた。現在の王はもう全てに見限られていて、誰も王とは認めていない。新たな王を選出する王位継承は待ったなしの状況だった。
「誰を王にすればいいんだ……」
彼は膝の上に広げた系図を見つめる。王家の血筋を辿れば、遠い叔父の息子や、地方に追放されていた傍系の王族がいくつか存在した。
一人の少女が静かに部屋に入ってきた。
「アルヴィン様、王位継承の候補者リストを私なりに作ってみました」
彼女は数枚の書類を机の上に置いた。アルヴィンは疲れた目で書類を眺める。
「ありがとう。王都にまで来てもらって君に迷惑をかけて済まない」
少女は軽く頭を振ると、「この国の行く末ですもの。何とかしなくてはなりませんわ。それにアルヴィン様の手助けができて嬉しいですわ」と答えた。少女はアルヴィンの婚約者で伯爵令嬢のエリマである。アルヴィンには及ばないが、聡明な令嬢として有名だった。彼女が用意してくれた書類を眺めながらため息が出た。
「厄介だ。単に血筋があるだけでは務まらない」
彼の頭の中で、国を立て直せる人物像がまるでパズルのピースのように少しずつ形を作っていくが、書類には当てはまる人物が見当たらない。
エリマはアルヴィンのため息を聞き逃さず、彼の隣に腰を下ろした。「アルヴィン様、我々には時間がありません。選択肢を考える際、単なる血筋だけでなく、その人物の資質や志を見極める必要があります」と、彼女は真剣な表情で言った。
「だが、どの候補者もそれぞれに問題を抱えている。例えば、遠い叔父の息子は王族としての経験がない上に地方の生活になれきってしまっている。血筋や栄光に頼りきりで、実際の政治や民の生活を理解していない。彼は自らの特権を意識しすぎており、民衆の声を無視しがちだ。」
「傍系の王族は、追放された理由からして信用できないし、追放されたときに王位継承権を失っている」と、アルヴィンは苦悩の表情で続けた。
エリマは彼の言葉に頷きながら、ふと考え込んだ。「それでも、私たちは必ず国を救う人を見つけなければなりません。王位継承は単なる形式ではなく、この国の未来を決定づける重要な選択です」と言い、目を輝かせた。
「君は何かアイデアがあるのか?」アルヴィンは彼女の言葉に興味を持ち、目を細めた。
「実は、私の遠い親戚に、王族の血を引く者がいます。彼女は若いですが、聡明で勇気もあります。けっして身内贔屓ではありません。彼女は周りの人々に愛されており、国を少しでも良くするために努力を惜しまず、微力ながらも力の限り協力したいと聞いたことがあります」とエリマは提案した。
「彼女の名前は?」アルヴィンは興味を示した。
「リーナです。彼女は王都から離れた村で育ちましたが、王族の血を引くことを知ってから、常にこの国のことを考えているようです。彼女なら、民衆の声を理解し、国を再生させる力となるかもしれません」と彼女は熱心に語った。
「確かに、彼女のような存在が必要だ。しかし、彼女を王位に就けるためには、どのように説得するかが問題だ」と、アルヴィンは現実的な視点で考えた。それに書類の中の候補者にも名前が無いということは、王族と言えども継承権は低いのだろう。そうなるとかなりの反発が予想される。
「私が彼女に会いに行きます。彼女の意志を確認し、民衆の支持を得るための手段を一緒に考えましょう」とエリマは力強く言った。
アルヴィンは彼女の決意に感心し、勇気を貰った。微笑みを浮かべて「頼もしい提案だ。君に任せる。私もできる限りのサポートをしよう」
こうして、アルヴィンとエリマは新たな希望の光を見出し、国を救うための第一歩を踏み出す決意を固めた。王位継承の戦いは始まったばかりであったが、彼らの心には一筋の希望が宿っていた。
アルヴィンとエリマは、リーナを村から迎えに行く準備を整えた。エリマはリーナのことをよく知っていたため、彼女の特性を活かした戦略を練ることができた。
馬に乗り、数日かけて村に向かう道中、エリマはアルヴィンにリーナのことを話した。「リーナは本当に素晴らしい人です。彼女は村の人々からも愛されていて、優しさと勇気を兼ね備えています。彼女が王位に就けば、国を再生させる力となるでしょう」と語った。
「君がそこまで言うなら、きっと彼女は素晴らしい存在なんだろうな。彼女に会うのが楽しみだ」とアルヴィンは期待を込めて答えた。
ようやく村に到着した彼らは、リーナの家を探し始めた。村は静かで、穏やかな雰囲気が漂っていた。村人たちは彼らを見つめ、驚きや興味の眼差しを向けてくる。
「これがリーナの家です」とエリマが指さす先に、小さな家が見えた。彼らはその家へと向かい、ノックをした。
しばらくして、若い女性がドアを開けた。彼女はリーナだった。リーナはエリマの姿を見て、驚いたような表情を浮かべた。
「エリマ! どうしてここに?」リーナは嬉しそうに声を上げた。
「リーナ、あなたに会いに来たの。私たち、王都から来たのよ。こちらは、宰相様のご子息で私の婚約者のアルヴィン様よ。あなたにお話ししたいことがあるの」とエリマは微笑みながら言った。
リーナは少し戸惑いながらも、すぐに笑顔を取り戻した。「王都から? 何か大事なことがあるの?」
「実は、あなたに王位継承のことをお願いしたいの。国が今、非常に困難な状況にあるの。あなたの力が必要なの」とエリマは真剣な表情で伝えた。
リーナは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに思案にふけった。「私が王になるなんて…私は王族の血が流れていると言っても、かなり薄く継承権等はあるかないかと言われるくらいです。私では王位にはつけません。それに私にはできる自信がありません。でも、国のために何かやれることがあるなら、努力はしたいと思います」と彼女は決意を語った。
「あなたの優しさと勇気が必要なの。今、王宮は混沌のさなかよ。王様は全てを放棄して私室に皇后様と共に籠もられてしまったわ。そしてもう誰もが現在の王様を見限ってしまったの」
「私より継承権のある方が何人もいらっしゃるのでは無いですか?」そう聞き返すリーナにエリマはアルヴィンを見て話しても良いかと無言で聞いた。
アルヴィンが頷くのを見て、エリマは今の王宮の現状と危うさを隠さずに伝えた。他の王位継承者の事も伝えて、内乱もあり得ると言った。
アルヴィンが更にその隙に他国から攻められる可能性もあると伝えた。
特に軍事国家はいつも我が国を狙っている。そんな状態でアリエルの事も解決しなければならない。昨日、あれから改めてアリエルと話をした事を思い出し悲しい思いで胸が痛くなった。
「きっと民衆はあなたを支持してくれるわ。私も全力でサポートするわ」とエリマは力強く言った。
アルヴィンも続けた。「リーナ、君が民衆の声を理解し、国を再生させる力を持っていると僕たちは信じている。このように、大変な時期に君に押し付ける形になった事は申し訳無いと思う。苦労をかけることもよく分かっている。けれども力を貸してくれないだろうか?この危機を乗り越える為に協力して欲しい」と彼は頭を下げた。
リーナは二人の言葉に胸を打たれ、決意を新たにした。「それなら、私も覚悟を決めます。国のために頑張ります」と彼女は力強く言った。
こうして、リーナは王位継承のために王都に向かう決意を固め、アルヴィンとエリマと共に向かった。彼らは新たな希望を胸に、国を再生させるための第一歩を踏み出す準備を整えた。
王都に戻った彼らは、まず民衆の支持を得るための計画を立て始めた。リーナの存在を広め、彼女の魅力や能力をアピールすることが重要であった。リーナは初めての大役に戸惑いを感じながらも、彼女の優しさと勇気が周囲の人々に影響を与え始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます