第12話 運命の環〜アルカディアの使者〜
アルカディアからの返事は思いのほか早くアルヴィンに届いた。使者はすでにこちらに向かっていて、まもなく到着するらしい。特に驚いたのは、使者としてセリオス公爵家の次男と末の妹が来ることだ。セリオス公爵家といえば、他国でも有名なアルカディアの守りの要である。そして、噂ではこの一族はそれぞれが秀でた魔法を使えると言われている。その一族が動かなければならないほどのことなのか?アルヴィンの不安は大きくなるばかりだ。
(全く!いくら僕でも魔法については分からない。地球に魔法なんてなかったんだからさ!)と心の中で悪態をつく。そう、アルヴィンもまた転生者だった。
アルヴィンは不安げに窓の外を眺めていた。セリオス公爵家の使者たちが間もなく到着するというのに、彼の心は落ち着かなかった。
(前世の記憶が蘇るたび、この世界の複雑さに戸惑うな)
彼は以前の記憶、天才少年だった頃の孤独を思い出していた。学校では常に浮いた存在で、誰からも理解されることのない日々を過ごした。唯一彼の味方だった担任の女教師は、正義感が強すぎ、自分のせいで悲劇的な最期を遂げた。そして彼自身もまた母親に刺されて…。
突然、馬のひづめの音が城の庭に響き始めた。
アルヴィンは緊張を隠しきれず、窓際に立ったまま、使者の姿を待ち構えていた。セリオス公爵家の次男と末の妹が、どのような人物なのか、彼には皆目見当もつかなかった。
(魔法の存在すら、この世界では当たり前なのだ)
アルカディアからの使者は予想よりも早く到着した。純白の馬車が城の中庭に止まり、その扉が開くと、一人の男性と女性が降り立った。男性は鋭い眼差しを持ち、女性は冷静さの中に柔らかさを秘めた雰囲気を漂わせていた。出迎えた私と騎士に
「アルカディアの使者、ローデン・セリオスです。そしてこちらは妹のリゼル・セリオス」
男性は低い声で名乗った。
アルヴィンはアルカディアからの文でわかってはいたが、改めて彼らの名を聞いた瞬間、緊張を隠せなかった。その名は、アルカディアでも特別な意味を持つ。セリオス公爵家は、特別な存在として有名だった。まずはシャンブル家の屋敷を見たいというので、アルヴィンはローデンとリゼルを森へ案内した。その道すがら、彼らの真意を探ろうと試みた。森へ近づくにつれて、ツタ植物が絡み合った特異な形状の繭が目に入った。その瞬間、リゼルとローデンの目が合い、彼女たちの視線からは確かな理解を感じ取った。
「これ、アリエル様の力に違いありません」リゼルは言葉を絞り出した。彼女の心には期待と不安が同居していた。アリエル様の存在をローデンもリゼルも感じることはできなかったが、この現象が彼女に関連しているのは明らかだった。
「待ってください。アリエル様とは誰ですか?」とアルヴィンは聞いた。「あなた方は何を知っているのですか?どうして知っているのですか?」と詰め寄った。
リゼルは「お兄様、ごめんなさい」と俯いた。
ローデンはリゼルの頭を優しくなでると、「気にすることはない。皇帝陛下からも兄上からも、こちらでアリエル様のことを調べる以上、隠し通すことはできないと言っていた。こちらの事件を解決すると同時に、アリエル様の捜索も改めて行わせてもらおうと手紙も預かっている。事情を全て話すつもりだよ」と優しく言った。
上空で静かに漂っていたアリエルは、ツタ植物から流れる情報を素早くキャッチしていた。ローデンがアルカディアの王家直属の任務を担う一族であり、妹と共にこの問題を解決しに来たことを知ると、彼女の心には複雑な感情が広がった。植物育成魔法からアリエルとの関連を疑ったのだろう。彼らが持つ特別な権威に対する警戒心と、彼らが敵ではないことを願う気持ちが交錯していた。
「もし彼らが私の邪魔をしなければ、特に問題はない」アリエルは自分に言い聞かせるように思った。しかし、彼女の復讐が始まっているという事実は揺るがなかった。ローデンとリゼルがその道を阻む存在となる可能性を考え、改めて対峙する事もあると彼女の心には緊張感が走った。
リゼルは森の奥へ進むにつれ、何かが変わり始めるのを感じた。ツタ植物の繭が彼女に何かを語りかけているような、そんな気がした。彼女は心の中でアリエルに呼びかけた。「アリエル様、もしここにいらっしゃるなら、どうか私にお言葉を下さい」その声は届くはずもないが、彼女は無意識にアリエル様に声が届くと信じていた。
アルヴィンはローデンとリゼルを王宮へ案内しながら、心の中で不安を抱えていた。王宮に戻ると、いつもとは違った雰囲気が漂っていた。王の姿は見えず、大臣たちが慌ただしく行き交い、何かの緊急事態が起きている様子だった。
「お茶をお出ししますので、少々お待ちください」アルヴィンは客室へ二人を案内し、しばらくしてからお茶を持参した。彼は緊張感を隠しつつ、ローデンとリゼルに向かって言った。「まずは、何をご存知なのか教えていただけますか?」
ローデンは一瞬思案した後、静かな声で話し始めた。「実は、私たちがここに来た理由は、アリエル様の行方を探るためです。私自身、当時、王宮に仕えていましたが、兄のもとを離れ、あちこちを放浪していました」
「放浪していたのですか?」アルヴィンは興味を持って尋ねた。
「ええ、兄とは反りが合わなく、いたたまれず、思い余って屋敷を飛び出しました。平民として生活することも仕方がないと思っていましたが、あるお屋敷で偶然執事の仕事を見つけました」ローデンは淡々と続けた。
アルヴィンは思わず声を上げた。「あなたがシャンブル家で突然いなくなった前の執事 なんですか?」
「突然いなくなったわけではありません。暇乞いはお願いしておりました。」とローデンはしれっと言った。
アルヴィンは、その事はどうでも良いと言い、気を取り直して
「その屋敷でアリエル譲のことを知ったのですか?」アルヴィンが尋ねると、ローデンは頷いた。
「そこで、お生まれになったばかりのアリエル様が、お命を儚くされそうになっていることを知り、助けたいと思いました。何年かは隠れて影からお支えしていました。
アリエル様が植物の魔法をお使いになることを知り、何とかそのお力を伸ばして差し上げたいと思いました。あのままお屋敷にいても、アリエル様はいないものとされ、命さえも危うかったのです。
私は兄に頭を下げ、何とかアリエル様を養女にできないかと相談しました。けれど、アリエル様は屋敷を出てしまい、その後、植物によってあのお屋敷は崩壊してしまったのです。
それ以降、アリエル様の行方はわからないままです」
「亡くなったとも聞きましたが、それも確かではありません。私たちは、アリエル様が生きていて復讐しているのではないかと考えています」ローデンの言葉には、強い決意が感じられた。
アルヴィンはその言葉に驚きつつも、彼らの真意を探る必要があると感じた。「アリエル嬢が何を望んでいるのか、そして今あのお屋敷で何が起こっているのか、私たちも知りたいと思っています」アルヴィンは硬い口調で言った。
リゼルは静かに言葉を続けた。「私たちは、アリエル様は必ず近くにいらっしゃると思っています」
アルヴィンは二人の真剣な表情を見つめながら、彼らの話が本当なのか、それとも何か隠されているのかを考えていた。アリエルの存在が、この複雑な状況にどのように影響しているのかを理解することが、今後の行動にとって重要だと感じた。
「私たちが手を組むことで、アリエル譲の真実を解明できるかもしれません」
アルヴィンは心の中で決意を固めながら、二人に向かって言った。
彼らの行動が今後の運命を左右するかもしれない。敵か味方か、それは今の段階では分からない。けれど、彼らが自分たちの知らない情報を持っているのは間違いない。そして、今の話が真実であるという保証もない。何か得体の知れないものを隠している -アルヴィンにはそんな気がしていた。
それでも、今この問題を解決するためには、この二人の協力が必要だ。そう考えたアルヴィンは、とにかく今は目の前の問題に集中することを決めた。
ローデンは目の前の少年に内心驚愕しながらも、この国の異質さをひしひしと感じていた。それはリゼルも同じだったようだ。平静を装ってはいるが、瞳の奥がゆらりと揺れている。一族でなければ気づけない、ごくわずかな変化だった。
そもそも、隣国の使者に13、4歳の子供が対応するなど、普通ではありえない。しかも、話を聞くと、アルカディアに救援要請を命じたのはこの少年だという。ローデンの直感力は、この少年に対して警戒音を鳴らしていた。
だが、その警戒の理由を直感力に照らし合わせても、どれも当てはまらない。得体のしれない不安が胸に残る。とはいえ、命の危険はないと直感力は告げている。アリエル様をお探しするためには、この少年と協力するしかない。
「よろしくお願いいたします」とアルヴィンが手を差し出した。
ローデンは「こちらこそ」とにっこり笑って答えた。
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