第18話


「世間狭。てかまじかよ……」



しまったなというように顔を歪める彼はチラッと一瞬横目で私の様子を伺ったのに気付いて、困ったように笑うことしかできない。




私もまさか助けてくれた彼がクラスメイトの友達だとは思いませんでした……。


多分気持ちは一緒だと思いますよ、梛木くんの友達さん。





「ねー僕もびっくり。まさか真面目な空木さんがれーくんと知り合いなんて」


「れーくん呼ぶな。つか知り合いじゃねえし、初対面。つまりどっちかって言うとお前の知り合いだ」


「おおーなら僕のクラスメイト助けてくれてありがとねーれーくん」


「別に。てかてめぇまじやめろその呼び方」


「わー僕、こわーい」







口を挟む間もないほどテンポよく小気味よい会話をする2人。



置いてけぼり感がすごい。

ほんとに仲良いんだと納得して、ちょっと驚く。





正直に言うなら意外な組み合わせだと思うから。あくまで今の印象での話だけど。








「あーもーいいから……それよりこの人早く連れてけよ」




おちょくられることに疲れた様子の彼は面倒くさそうに顎をしゃくる。






「あれ、玲はついてこないの?」


「俺まで一緒に行動したら目立つだろ、どう考えても。

だからお前らとは違う方向に逃げるわ」


「それもそっか。じゃあ空木さん。僕が家の近くまで送るけど、大丈夫そう?」


「うん。むしろ助かるよ。ありがとう」







くるりと私を振り返って伺い聞く梛木くんに相槌を打つ。





私はここのことに詳しくなさ過ぎて、よく知っている2人に完全にお任せのおんぶに抱っこ状態だ。


身を任せることしかできなくて肩身が狭い。






申し訳なさで俯きがちに小さくなると、上から梛木くんの優しい声があやすように降ってくる。







「いいえーうちの子が迷惑かけたみたいで。こいつ喧嘩っ早いからねーごめんね巻き込んで」


「おいそれだと俺が誰彼構わず噛み付いてるみたいだろ」


「え?違うの」


きょとんと、目をぱちくりする梛木くん。



「は?違ぇだろ」


なに言ってんだこいつ、という表情で眉をしかめる彼。









「躾のなってないポメラニアン的なものかと……」


「ふざけんな、なんでポメラニアンにしたおいコラ、普通に犬で良かっただろ」


「え、似てんじゃんポメラニアン」


「信じられないみたいな顔してるけど俺はお前が信じらんねぇよ」








……なんだろう。

段々とおかしくなって、くすくすと笑えてくる。








「ふふっ!」


漏れ出た音に、反応してついと2対の瞳が私に集まる。






それでも笑いは治まらなくて、目尻に涙がじんわり滲む。




2人のやり取りはまるでコントみたいだし、今まで冷たい印象だった彼が意外とおしゃべりでびっくりしたし。



この2人だと彼の方が弄られる立場に、笑っちゃいけないと思いつつ申し訳ないけど少し面白かった。






しかもこの追われている状況でじゃれあえるなんて、怖くて震えてどうしよう、とか無事に帰れるかな、とか心配してた私が馬鹿みたいだ。





「あー……と」


「空木さんそんなに面白かった?」







言葉を探す彼とちょっと安堵したような色で首を傾げる梛木くんに慌てて口を抑える。

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