第16話



走ることで荒くなった息を整えようと、はぁ、と何度か短く空気を吐く彼は優しく私を降ろすと背中からドサッと音がするほど座り込んで、自分の隣をぽんぽんと叩く。




隣に座れという意味だと解釈して、促されるまま急いでしゃがんだ瞬間、荒い息と複数の足音が近づいてきた。




まず間違いのない人物達の気配に無意識に身を硬くする。







「チッ!どこ行きやがった!?」


「ほずみのヤツ、人抱えてあんなに早いとか化け物かよっ!」


「アイツが化け物とかそんなのいまさらだろ!!それより早く見つけねぇと俺らがむらかみさんに殺されちまうだろーが!!」







追いかけてきた男達の声がして、様子を伺うために聞き耳を立てるとしっかりと会話の内容が聞こえてくる。




どうやら焦りすぎて声の音量調整ができてない。丸聞こえだ。





そして彼らから聞き取った“むらかみ”という名前に引っ掛かりを覚えて、耳をさらにそばたてる。






「今日の暴走もう始まっちまうぞどうすんだよ……」


「とにかく探すしかねぇ。左右に別れて探すぞ!!」







その言葉を皮切りとして左右に散らばってどんどん小さくなる足音。


完全に足音が消えたことで逃げきれたという安心から脱力して、後ろの壁に凭れ掛かる。






「行った、よね?……」







呟いて安堵のため息をつくと、今更ながら震え始める体。



それを落ち着かせようと身を守るように体育座りをして身を寄せて、両肩をぎゅっと抱き締め顔を腕の中に埋める。






もう心身共に疲れきって、このまま泥のように眠りたい。





けれどそのためにはここから動かないといけないんだと考えて、憂鬱になる。


今度は忌々しいため息を吐こうとした所で「あーと、俺もいること忘れてない?」と困った声が響いて弾けるように顔を上げる。







あ、マズイ……一瞬忘れてた。


ここにいるのは私だけじゃない。






「あ、いやあの、忘れては……すみません」






上手い言い訳を言おうとして、けれど何も浮かばなくて正直に謝る。


だめだもう頭の機能が低下してて終わってる。









「いやいいけど。今こうなったのも元を辿れば俺のせいだし」


「いやいやいやそもそも裏路地に入った私がいけないので、あなたは助けてくれましたし……謝られるとこちらの浅はかさが身に染みるというか……」





うん、考えれば考えるほど私の能天気な無計画さに落ち込む。







「本当にごめんなさい」


「あー…あんたほんとに頑固。クソめんどいな」


「ぐっ!」




やっぱり口悪い……。


でも言い返す言葉もない。

私も私を頑固だと思っているから。





シュンと落ち込んでいると彼から聞きなれたため息。








「もーわかったから。俺も悪いしあんたも悪かったってことで両成敗で。

というわけで俺もごめんね、オネーサン」


「え。でも……」


「つーかこんなとこで長話してても状況が良くなるわけじゃねぇし、さっさとここから出たいってのが本音なわけよ」


「あ、はい」





それはそうだ。


1度見つからなかったとはいえここは彼や先程の男達のテリトリーともいえる場所。



ここから出なければいつかは見つかるかもしれない。



さっきまでの追われていた時よりはマシだけど、恐怖心は根底にまだある。









「面倒なことにあいつらが仲間呼んで大勢で探されてる可能性も……ちょっとはあるわけ」


「はい……?」


「あんたが思ってる以上にああいうヤツらに恨み買ってるから、俺」


「はぁ…(そこは自信満々に言うことじゃないのでは……?)」



「というわけで、安全に帰れるルートを探したいから、ちょっと助っ人を呼ぶわ」


「……助っ人」


「そ」









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