第10話
***
「とりあえず、これでいいかな?」
いつまでも鏡の前でぼんやりしていても埒が明かないので、貧血でふらつく体でなんとか着替えて、それから救急セットを引っ張り出し、簡単に手当を終えた後やっと一息ついた。
それにしても、今日が土曜日でよかった…。
これで学校があったら考え過ぎてなんにも手に付かなかったと思う。
それにこの傷跡の場所が厄介過ぎて、正直かなり困ったことになるのは想像し難くない。
「(パッと見キスマーク隠してるとしか思われないだろうなぁ、これ)」
内心ひとりごちながら、不用意に触れないために絆創膏で一枚へだてた場所を人差し指でスーッと撫でる。
まぁ剥がして見せれば、キスマークだなんて思われないだろうけど。
じゃあこの傷跡は?ってなる未来も面倒くさい。
実際は私もなんでこんな傷があるのか、答えを持ち合わせていないのだからどうしようもない。
「ほんとこんな目立つ傷なら覚えてるはずなのに全然思い出せないし…」
ただ覚えている限りの記憶で、なくなったものが二つ。
「やっぱりハンカチと水がない…」
お気に入りのハンカチと塾の終わりに先生からたまたまもらったミネラルウォーターがないことに気づいた。
ハンカチは学校で使ったのでもしかしたら落とした可能性があるけど、さすがにペットボトルを落としたとかはない。絶対ない。
もしくは水をもらったこと自体が勘違いだった可能性だけど、さすがに私の記憶力がそこまで悪いのなら病院に行くレベルだ。
「あ〜ほんとにわけわかんない…私になにが起きたの」
まぁ、昨夜の記憶が欠如している時点で私の記憶なんて信用ならないけどさ。
謎だらけで疑問符いっぱいの頭を抱えて唸ることしかできなくて。
そのうち考えることも億劫で、バタンと机に顔を伏せる。
うーん。
あと昨日いつもと違ったことって言えば近道のために裏道を通ったことだけど。
もしかしたらそこでなにか思い出すきっかけになるかもしれない。
幸い酷かった貧血も動けないほどではなくなってきたし、ちょうどノートが切れていたから買い物ついでに行けばいい。
「行ってみよう……」
この摩訶不思議なできごとへの関心が薄れる前にできるだけのことはしてみたい。
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