mission7 未知の数値を攻略せよ!
俺と太郎がトイレ前で謎のやりとりを終えた頃、またチャイムが鳴った。
『ヒロインが来たぷん』
「来る前に教えてくれないもんかな」
多いよ、事後報告。そして、流れている音楽も変わった。ヒロイン固有のBGMか。どこから流れているのかは気にしてはいけないんだろう。
それはさておいて、ここでこの曲とともに登場するヒロインというと、あいつか。
「ほーちゃんあそぼー! あ、太郎来てたんだ。おっひさー!」
ロングの茶髪を両側でくくった髪。確かツインテールじゃなく、ツーサイドテールっていうんだっけ? そこに猫の髪留め。
半ズボン(女子だとキュロットとか言うらしい)に猫のキーホルダーがついたポシェット、八重歯、ぴょこぴょこ動くアホ毛。元気要素を詰め込んだ幼馴染み。
春日野みけの。通称、みけ。
玄関にはその子がいた。絵だけは良いゲームだからか、えらく可愛く感じる。これに内容とシステムさえ伴っていれば……。
「ほーちゃん、どうしたの?」
「いや、なんでもない」
太郎の問いかけには適当に答えておく。今それを嘆いても仕方がない。とりあえず、みけと太郎と近所の公園に行くことにして家を出た。
「太郎は春休みぶりだねーっ! 元気してた?」
「うん、最初心配してたけど、友達もできたし楽しいよ」
そういや、春から小1っていう設定だったもんな。二人にはたわいのない会話でもしておいてもらって、少し下がって後ろを歩くことにする。
『あ、3人組で1人余った可哀想な奴がよく取る行動ぷん!』
「川に投げ捨ててやろうか」
カッスはともかく春日野みけのだ。もちろん攻略対象キャラではあるが……。
『せっかくヒロインが出てきたのにテンション低いぷんね。もうホモになったぷん?』
「やかましいわ」
検索窓でもあれば、『お前を消す方法』とでも検索しているところだった。腹パンオブザイヤーは伊達じゃないな。
「ほーちゃん? 後ろ歩いてどしたの? 一緒に歩こうよーっ!」
「いや、車が来るといけないから」
直接聞いてみるか。俺のテンションが低い理由を。
「みけ、どうして太郎は渾名で呼ばないんだ?」
「えーっ! みけのは好きな人しか渾名で呼ばないよーっ!」
みけは、はにかんで笑う。やはりあったか。
春日野みけのはゲーム開始当初、主人公の親友である古井戸ほまれが好き。といういらない設定。
『女の子に告白されたようなものなのに動じないとは……ひょっとして万に一つも欠片の可能性もあり得ないと思うぷんが、実はモテるぷん?』
「お前は人を煽らないと話ができないのか」
わなわなするな。モテてたらこんなゲームに100時間も使うか。結局クリアできなかったしな。
「ほーちゃんが羨ましいよ」
「えへへっ。だって小さい頃からずーっと一緒だしねっ!」
「いいなぁ。僕も2人と一緒が良かったなぁ」
普通自分が仲間外れになって傷つきそうなものだが、意外と太郎は精神力が強かった。なかなか無難な返しをしている。
その後も2人で会話を続けてくれたので、ありがたく攻略について考えることにする。
「あいつは幼少期はほまれが好きで、パラメータを上げることで主人公を好きになっていく設定なんだよ」
『誰にものを言ってるぷん? 我はサポートキャラだから当然そんなこと知ってるぷん』
ぽちゃん
「今何か水の音した?」
「え? みけのなんか落としちゃったかなーっ」
「いや、多分魚でもはねたんじゃないか?」
会話に戻る2人を確認してから考えを再開する。
みけは、パラメータを上げることで主人公を好きになりイベントが始まるキャラクター。事前情報や攻略本によれば攻略難度は一番低く、幼少期にパラメータをある程度上げてさえいれば自然とみけルートが確定するレベル。
相当変なことをしない限りほまれルートにはならないはずなのだ。
しかし、実際は違った。
幼少期でパラメータを上げつつ、ヒロイン達との出会いイベントをこなし、高校時代である第二章へ。バグを乗り越えそこへ辿り着いた猛者達の誰一人、みけルートには辿り着けなかった。
他のヒロインのイベントをなんとか発生させることはできても、みけのイベントはただのひとつも起こらない。
『何するぷん! 川に投げ捨てるやつがあるかぷん!』
「ごめんごめん。むかついたから」
『むきー! 我は怒ったぷん! 絶交ぷん!』
「分かった。絶交な」
『え……?』
もじもじしているカッスは放っておいて、やってみるか。丁度、進行方向から別れる小道があるので、歩くペースを落として前を行く二人に気づかれないようそちらに入る。
「ポーズっ!」
そして走って二人の元へ。
「ステータスっ!」
見えた。基本情報はいい。まばたき。まばたき、あった。太郎にはなかった3ページ目。好みのタイプが書かれている。これに達せばイベントが始まるわけだが……。
「げ」
攻略本では全てのパラメータが30以上。という、普通にやっていれば難なく達成できるパラメータだったが。
【全てのパラメータが90以上】
そこには、見たことのない数値が並んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます