mission5 便利な能力を行使せよ!
昼ごはんを食べ終わって一息ついたところでカッスが話しかけてきた。
『そうそう、言い忘れてたぷん。ちょっと廊下に出るぷん』
廊下に出るとカッスが変なポーズを取っていた。なにこれ。これを見せたくて呼び出したわけか?
「お似合いのポーズだよ、じゃあ」
『帰るなぷん! お前もやるぷん!」
足を開いて手を顔に当ててウインクをしたカッスになぜか怒られた。
「……そのへんてこポーズになんか意味があるのか?」
『ふふふ、やってみてのお楽しみぷん』
言えよ。楽しいのはお前だけだよカッス。しかし、攻略上何か意味のあることなのかもしれない。仕方なく肩幅に足を開いて、両手を頬につける。
「こうか?」
『真面目にやる気あるぷん?』
お前はやる気の引き出し方を勉強しろ。
『腕を曲げて肘をほっぺの位置くらいの高さまで上げて……手はピースしてイェーイって感じでほっぺに当てるぷん。足は動かさずに腰は左に動かすぷん』
俺はなにをさせられてるんだろう。
『そのポーズでウインクしながら舌をぺこちゃんみたいに出して、ポーズって叫べば完成ぷん!』
「ああ、アホのポーズの完成だね。じゃあ」
立ち去ろうとするとカッスに首根っこを掴まれた。
「なんなんだよ!」
『これは攻略ですっごく重要なことぷん!』
「その割には最初に言い忘れたって言ってなかったか!?」
『とにかくやるぷん! 前に来たプレイヤーもみんなやってたぷん!』
マジかよ。誰も何も言わなかったのか? カッスもぎゃあぎゃあうるさいし、先に言われたポーズを取って言う。
「ポーズ」
『もっと全力でやるぷん』
「分かったよ! やればいいんだろ!」
全身に力を滾らせ片目をウインクして腰を揺らして舌を出す!
「あ、ほーちゃんこんなところに」
「ポーズっ!」
時が止まった。見られた。こんなアホみたいなポーズを全力で取っているところを人に見られた。死にたい。
『時が止まったぷんね』
「……俺の悲しみは止まらないけどな」
『何を言ってるぷん?』
「え?」
時が止まっていた。比喩ではなく本当に。時計の針も、太郎も、玄関に置かれていた水槽の中の金魚も、水も。全てが動いていない。
『ふふん。これが神の遣いとなった我の能力ぷん』
「カッス! お前できる子じゃないか! これで考える時間ができて、整理して準備して攻略することができる。神の遣いっていうよりゴミでウザいだけじゃないかなんて思って悪かったよカッス!」
『褒めたかに見せかけてひどいこと言われたぷん!?』
よし、まずは攻略本を……いや、ペンもあった方がいいな。リビングに取りに行って。
『あ、言い忘れてたけどこれ3分しかもたないぷん』
「は?」
え、ポーズなのに? 3分だけ?
『ポーズするにはさっきみたいにして、1日3回各3分時を止められるぷん』
「お前はそんな大切な機会のうちの1回をお楽しみで使ったの……?」
時を止めるなんて攻略においてとても重要そうなことを。いや待て、今何分経った?
『あと2ぷん』
「そこはお前が言うなら、あと2分ぷん、だろうが! ちょっとしたギャグみたいに言ってんじゃねぇよ! カッス! マジカッス!」
あと2分で何ができるっていうんだ……。いや、この機能があることが分かっただけでも収穫と考えよう。よかった探しだ。
「まあこの機能自体は後々何かに使えそうだしな。教えてくれてありがとうカッス」
ヘソを曲げられてサポート(といっても期待はできないが)をしてもらえなくなっても困るので一応礼を言っておく。
『我、褒められたぷん?』
「ああ、褒めたな」
もじもじしている。可愛くはないがもじもじしている。
『嬉しいぷんー♪』
言うと同時に発光した。
「ぐわっ! なんだこれ!? 目が焼ける! まぶしっ!」
発光は終わったようだが太陽を見続けた時のように目がチカチカする。そういやあったな。嬉しいと目が光る設定。ゲームの時もやや暗い部屋でプレイしていると部屋中が明るくなるレベルでPCが光っていたが、目の当たりにすると余計に眩しい。そしてウザい。
『ふふーん! 我はご機嫌ぷん!』
「ああそう……よかったね」
そういえばゲーム発売時に付属していたシリアルナンバーを使って等身大カッスのぬいぐるみが1名に当たるキャンペーンもやってたけど、あれも無駄に目が光るギミックが搭載されていたな……。
ゲームの惨状を見てか、しばらくしてオークションに出されていた気がする。捨てられなかっただけマシだろう。
『あ、ご機嫌ついでに思い出したぷん! このポーズ中にステータスの確認ができるぷん』
「は?」
それはさらに重要な情報なんじゃないか?
『あと1ぷん』
「正しいけどお前が言うなら、あと1分ぷんだろうが! 早くステータスの見方を教えろ!」
手を双眼鏡のようにしてステータスと叫べば見られるらしい。早速してみようとすると、
『あ、あと、ポーズ終了時に元の状態に戻ってないと時空の狭間に呑み込まれるぷん』
「言い忘れてること多すぎだろ! ああもうカッス! ぽんこつ! マジカッス!」
時空の狭間に呑み込まれるとどうなるかは不明だが碌なことにはならないだろう。とりあえず戻ってさっきのアホみたいなポーズを取る。
『時間ぷん』
時計の針は動き、金魚もまた泳ぎ始めた。それまでしなかった様々な音もするようになり帰ってきたことが分かる。
「……何してるの」
太郎にこの謎ポーズを取っているのを見られたこともまた、思い出した。
「あー、えっ……と。流行ってるんだ。これ。こうするの」
「へぇ……変わったことが流行ってるんだね」
渾名がドラゴンのやつに引かれた。
失ったものは色々とあった気がするが、これも攻略のために役立つと思いたい。
そう思わないと、やっていられない。
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