mission3 ジンクスを大切にせよ!

 叩かれて怒るカッスはさておいて。自称、神からの手紙には続きがあったので読んでおくことにする。


『何分人手不足で直接お話ができず申し訳ありませんが、ゲームにおけるサポートキャラクターに力を与え、神の遣いとしています。何かあればその者に聞いてくださいね。それでは』


 手紙はこれで終わっていた。どうやら何の役にもたたなさそうなカッスが色々知っているらしい。


「カッス、とりあえず整理したいから情報をくれ。マニュアルとかあるんだろ?」


 その言葉にカッスは首を傾げる。


『マニュアルぷん……?』

「いやいやいや! 首傾げんの早すぎだろ! あるだろなんか! プレイヤーへの説明資料! 今は何章の何日でいつまでに準備を整えておかないといけないとか!」


 カッスはようやく得心がいったようで、ああ! と手をぽんと叩いた。リアクションは古い。ゆうて90年代みんなこうだったか?


『それについては我の口から説明するぷん!』


 紙で残しておけよ。嫌な予感しかしない。


「待てよ。メモするから」

『あ、じゃあそこに画用紙とクレヨンがあるぷん』


 言われるがまま本棚の下からそれらを取り出すが欲を言うならもっとマシなものが欲しかった。黒なんてちびてもうほとんどないじゃないか。


『えっと、今は第一章で8月2日ぷん。夏ぷん』


 夏なのはこの暑さで分かる。クーラーは……ないのか。まあ仕方ない。とりあえず第一章ってことはゲーム同様、幼少期からのスタートで間違いないか。


『あー……夏休みってことで主人公の赤来戸太郎あからいとたろうがほまれの家に来て、うん。二週間ほど過ごして帰るぷん』


 デフォルトネームはもうちょっとなんとかならなかったのか……。いくらこの時期でもちゃんとした名前の方が多かった気はするが。


『あとは、あーっとその……その後、高校生活を3年してエンディングぷん』

「大分飛んだな」


 このゲームは幼少期の2週間と高校の3年間で構成されていたはずだ。そして、幼少期の2週間で出会ったキャラクターが高校に持ち越される。つまり、2週間以内に出会わなかったヒロインの攻略はできないのだ。


「効率よくヒロイン達に会わせる必要があるな。各ヒロインの出現場所と日時は?」

『ぷーん……』


 耳が垂れた。


「もう一度聞くが出現場所と日時は?」

『ぷーん……』


 耳は垂れたままだ。


「……分からないってことか? 前のプレイヤーはどうしてたんだ」

『自分でなんとかしてたぷん』

「じゃあ、その時の選択肢やら状況を教えてくれ」

『ぷーん……』


 さすがにはたいた。


『痛っ! 何するぷん!』

「お前忘れたんだろ! そうなんだな!」

『違うぷん! 覚えてないだけぷん!』

「どっちも結果は同じだろうが! だから紙に残しておけって言ったのに!」

『言われてないぷん!』


 確かに口には出していなかった。それは俺が悪かったので優しく諭してみる。


「なあカッス、大切なのはアウトプットだ。知識はその人が持っているだけじゃ駄目なんだよ。みんなに分かるように残しておくことが大事なんだ」

『ぷーん……?』


「またかよ! 首傾げるところじゃないんだよ! 分かってくれよ!」

『わ、わかったぷん。落ち着くぷん』


 とりあえず気持ちを落ち着かせて、カッスの記憶を可能な限り紙に落とすことにした。


『あ』


 かろうじてちびていない赤いクレヨンを手にヒロインの名前を書く俺に、カッスが分かってないなぁ、と言いたげにチチチと指を振る。苛つかせることに関しては一流だ。事と次第によってははたきたい。



『人の名前を赤いクレヨンで書くと死ぬぷん!』

「あったなぁそんなジンクス!」



 先生に見えないように足で星マークを描くと当てられないとか、緑のペンで消しゴムに好きな人の名前を書いて誰にも触られないように使い切るだとか。それの亜種のようなものだった気がする。




 それはさておきそんなことでドヤられるとムカつきはしたので。




『ぐぇっ!』




 とりあえずカッスははたいておくことにした。

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