第41話 7ターン・シップス

「チクショー、結界を張ってる能力者はどこにいるんだ⁉」


 俺とエビリス、レクスの三人で二階の東側を探しているが、一向にそれらしき能力者が見つからない。刺客もそれなりに襲ってきており、体力も消耗しつつある。


「早くしないとヤバいってのによ……! おい、さっさと出てきやがれ!」


「レクス、ちょっと待て!」


 焦って飛び出しそうになったレクスを、エビリスが静止した。


「エビリス、どうかしたのか?」


「……お前ら、今すぐこれを着けろ」


 エビリスは自分の髪の毛を三本ほど抜く。それをガスマスクに変形させ、俺達に渡してきた。


「こっちの方に来てから、若干肌がピリピリするように感じないか? 毒か何かは分からないが、能力の影響が濃くなっているんだろう。恐らくこの先は結界の中心部、結界の主である能力者がいる」


「ようやくお出ましか……。警戒して進まないとな」


 ガスマスクを装着し、中心部と思しきエリアに接近する。エビリスの言う通り、進むたびに肌がヒリつく感覚が強くなっている感じがする。本当にこの先に、結界の主がいるんだろう。


「こっちに来てから敵が一人も襲ってこないな」


「逆に考えれば、それだけ結界の能力の影響が高まっているという事だ。敵は近いぞ、気を付けろ」


 敵が来ないお陰でサクサクと捜索が進み、ついに残す部屋は一つだけになった。ここにいるのはほぼ間違いない。


「……よし、行くぞッ!」


 レクスを先頭として、俺達は一斉に部屋の中に流れ込む。

 その部屋は特別大きな部屋だった。床や壁には戦闘の跡と思しき物が大量に残っている。そして部屋の中央には、白衣を着た男と、フラスコのような形をしたシンボルが鎮座していた。


「コイツが……!」


「間違いない、結界の主だ!」


「ようこそ、俺の結界へ。『7ターン・シップス』」


 俺達は敵の不意を突くつもりで部屋に突撃した。だが、不意を突かれたのは俺達の方だった。

 相手も俺達を待ち構えていたようで、俺達が入って来た瞬間に二つ目の結界を展開した。


「……ッ! お前ら、下がれ!」


 真っ先に反応したレクス。敵を攻撃して結界を止める……のかと思いきや、俺とエビリスを部屋の外に押し出した。


「レクス!?」


「コイツは俺一人で十分だ。それよりお前らはワタルをマークしろ! 先に奴をマークしておかないと、コイツを倒しても逃げられるだけだ! ……安心しろ、俺は死なねぇぜ!」


 レクスがそこまで言った所で、部屋を境目として結界は完全に閉じてしまった。


「レクス! おいレクス!」


「一度閉じられた結界の中に侵入する方法は無い。今はアイツの言う通り、ワタルを見つける他ない。……行くぞアズト。大丈夫だ、レクスなら必ずやってくれる」


「……そうだな。早くワタルをマークしないと! ここは頼んだぞ、レクス!」


 レクスに結界の能力者を任せ、俺達はワタルの元に急ぐ。


 ~~~


「結界の中に結界を張るなんて、中々器用な真似ができるんだな」


「そっちこそ、そんなに強がっちゃって良いんスか? アンタは今、俺の掌の上にいる。外とは違って、この結界は範囲を絞ってるから俺の能力をフルに使えるッスよ?」


 白衣の男はレクスを前にしても、その気だるげな余裕を崩す様子を見せなかった。


「あっそ。確かに空間型の能力は強力だが、一つ致命的な弱点がある。結界の要になっているシンボルを壊せば、能力が強制解除される事だ。そしてお前の後ろにあるフラスコみたいなそれがシンボルなんだろ⁉ この俺には全部お見通しだぜ!」


「ふーん。アンタはこの空須賀スガスに勝てる自信があるんすね。これでも俺、天魔会の最高幹部の一人なんだけどなぁ。舐められたモンっすね~」


「テメェのその腑抜けた喋り方、聞いててイライラするぜ。その名前? もどうかしてるよな~。スガスガスガスだって? 変な名前だなァ」


 レクスはスガスを挑発しつつ、様子を見ていた。だがレクスが彼の名前をいじった瞬間、気配が一変した。


「おいテメェ……今俺の名前の事なんて言った? いいか、テメェのその腐った脳ミソでも覚えられるように何度でも言ってやる。俺の名前は空須賀スガスだ! 俺のこの名前を馬鹿にする奴は何人たりとも許さねぇ!」


 豹変したスガスは、一瞬で間合いを詰めてレクスに攻撃を仕掛ける。


「O2ソード」


 スガスの手を中心として、空気が燃え上がり蒼い炎の剣が現れる。蒼炎をたなびかせた剣が、レクスの首に迫る。


「コイツ速ぇ……! 『ダブルクレイジー』クレイジーキャット!」


 咄嗟にレクスもクレイジーキャットを出現させ、攻撃を回避する。実体の無い炎の剣は、クレイジーキャットでも止められない。


「中々速いっすね。でもただ速いだけの能力なら、結界内の気体を自在に操れる『7ターン・シップス』の敵じゃない」


 スガスは手を銃の形にして、レクスに狙いを定める。次の瞬間、不可視の弾丸がレクスを襲った。


「なッ……⁉ 今のは何だ? 何をされた⁉」


「空気弾。いくら早くても、不可視の弾丸は避けれないッスよね?」


 スガスは次々と、レクスに空気弾を放つ。


「クレイジーキャット、防御しろ!」


 一方のレクスもクレイジーキャットのラッシュで空気弾を迎撃するが、不可視の弾丸を捌き切れる訳も無い。弾きそびれた弾丸に当たり、ダメージが蓄積されていく。


「H2ボム」


 空気弾で吹っ飛ばされた先に、スガスは火の玉を飛ばした。火の玉はレクスの眼前に生成されていた水素と衝突し、大爆発を起こす。


「人の名前を馬鹿にするからこんな目にあうんスよ。俺だってこんな名前、好きで名乗ってる訳じゃ———」


「クレイジーバードッ!」


 爆発の煙の中から、一羽の鳥が颯爽と飛び出してきた。クレイジーバードは羽根弾を発射し、スガスに初めてダメージを与えた。


「俺の能力は二体ともスピード型なんだ。不意打ちはお手の物なんだよ!」


「チッ、面倒な奴め……!」


「俺はな、魔王荘の魔王としてお前と戦ってるんだ。俺を受け入れてくれたアイツらの為なら、命だって投げ出す覚悟でここにいる。お前がアイツらの邪魔をするってんならよォ、お前にもその覚悟をしてもらうぜ!」


 魔王を演じる事をやめたレクスには、魔王の覚悟が芽生えつつあった。


 ~~~

 能力名:7ターン・シップス 能力者:空須賀スガス

 能力:結界内の空気・気体を自在に操る。シンボルはフラスコのような形をしている。結界内ではスガスの知識にあるあらゆる気体を生成し、操る事が可能。

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