第36話 超弩級注入式魔力砲
「噂には聞いていたが、まさか本当にそんなものを帝都に造っていたのか」
シャリアは動じることなく肩を竦めて呆れ顔を浮かべると、オリナスがハッとして「ま、待ってください」と血相を変えた。
「帝都の魔力炉で生成された魔力の軍事利用は、周辺諸国との条約で禁止されているんですよ。アラン、本当に魔力炉の魔力で間違いないんですか」
「あぁ、おそらく間違いないぞ。帝都に行った時、魔力炉の上でよくランチをしていたからな。その時に感じていた魔力と相違ない」
「ま、魔力炉の上でランチ……」
オリナスは唖然してしまうが、事実なのだからしょうがない。彼は頭を振ると「し、しかし……」と続けた。
「魔力炉の魔力を注入する魔力砲なんて正気の沙汰ではありません。一撃で国を滅ぼしかねない威力ですよ。世界中を敵に回してしまいます」
「裏で大陸の覇権を握ろうと画策していた父と、チャールズの考えそうなことではある。超越者を除けば、現状で人が創り出す最強の兵器だからな」
シャリアはあっけからんと言うと、こちらを見やった。
「さて、アラン。どうするつもりだ」
「決まっている。真っ向勝負だ」
にこりと微笑んだその時、「逆賊アラン・オスカー並び、シャリアとオリナスに告げる」とチャールズの声が地上から聞こえてきた。
拡声魔法を使ったんだろう。
「貴様達が魔法を使って怪獣を生み出そうとも無駄だ。我らには全てを消し去ることのできる超弩級注入式・魔力砲【マジックキャノン】がある。そして、その砲門はすでに貴様達を狙っているのだ。これは最後通告である。いますぐ降伏しろ」
「……だそうだが、どうする?」
確認するように尋ねると、シャリアは不敵に笑った。
「賽は投げたのだ。どのような結果であれ、私は受け容れる。従って、降伏はしない」
「あ、姉上……」
オリナスは何か言いたげだったが、彼は奮い立てるように頭を振った。
「ここまできたんですから、私も姉上に最期までお供します」
「わ、私達もです」
周囲にいたリシアを始めとする兵士達も、オリナスに続いて次々と賛同を表明していく。
「すまん、恩に着る」
シャリアは彼等に向かって会釈すると、こちらに振り向いた。
「ということだ。アランの好きにやってくれ」
「わかった。任せてくれ」
私は頷くと、地上のチャールズ陣営を見据えた。
「チャールズ。その言葉、そっくりそのまま返そう。今すぐ降伏するなら、許しはせずとも多少の手心ぐらいは与えてやってもいいぞ」
「ならば容赦はせん。魔力砲で消し炭にしてくれるわ」
魔法を使用して戦場に轟く大声で呷ってやると、チャールズの声がすぐに返ってきた。
「さて、あれだけの魔力となれば、さすがに私以外は危ういかもしれんな」
シャリア達に振り向いて指を鳴らすと、この場にいた私以外の面々が球体状の結界に包まれる。
「試したいこともあるからな。シャリア達は地上に降りて少し離れていてくれ」
「アラン、本当に大丈夫か」
「案ずるな、シャリア。すぐに終わるよ」
私が白い歯を見せて指を鳴らすと、シャリア達が球体状の結界ごとふわりと浮いて地上にゆっくりと降りていった。
これで、私と魔力砲の衝突にシャリア達が巻き込まれることはないだろう。
帝都の方角を見やれば、先程よりもさらに巨大な魔力を感じる。
なるほど、対超越者兵器というのは伊達や酔狂ではないらしい。
あれだけの魔力を込めた砲撃が着弾すれば、地図上から国は消え、地形も書き換えられるだろう。
「聞こえるか、逆賊アラン・オスカー」
再び地上からチャールズの声が轟く。
何事かと遠視魔法で見やれば、彼の目は血走り、額に青筋を立て、狂気に満ちた表情をしていた。
「貴様が本当に超越者だというのなら、この砲撃をまともに受け止める度量を見せてみろ。それとも超越者というのはただのはったりか、虚言か。どちらにしても、無理だというのであれば、貴様は臆病風に吹かれたただの腰抜け。口先だけの卑怯者だ」
「ほう、好き勝手に言ってくれるじゃないか」
相槌を打つと、シャリア陣営からも「挑発に乗っては駄目です」とオリナスの声が聞こえてきた。
彼も拡声魔法を使ったようだ。
「チャールズは魔力砲を避けさせないため、あのようなことを言っているに過ぎません」
「何を言う。自らを超越者と名乗り、怪獣まで造りだしたのだぞ。ならばこそ、その実力を示すべきであろう。それとも、アラン・オスカー。貴様はやはりただの臆病者か」
「……いいだろう」
私は喉を鳴らして笑うと、遠視魔法でチャールズを見据えた。
「その安い挑発に乗ってやろうじゃないか。だが、機会を与えるのは一度だけだ。せいぜい、魔力砲の威力を最大にするんだな」
「ふ、ふふふ。あはは、あははは。いいだろう、その言葉。後悔するなよ」
チャールズの笑い声が戦場に響き渡ると、帝都の方角から感じる魔力量が一気に跳ね上がった。
どうやら、私が挑発に乗るまで出力を押さえていたらしい。
「アラン、逃げてください。帝都の魔力炉で生成された莫大な魔力を使った砲撃に人が、いえ、この世界の生物に耐えきれるわけがありません」
オリナスはそう言うと、「チャールズ」と怒号を発した。
「貴様、帝都で生成される魔力を注ぎ込んだ砲撃などすれば、周辺諸国が黙っているはずがない。戦乱の世が訪れ、世界が瞬く間に焦土と化すんだぞ。わかっているのか」
「そんなこと知ったことか。どの道この戦いに負ければ私に、いや我ら帝国の未来はないのだ。出し惜しみをしている場合ではない」
帝国の未来、か。
正確には、チャールズと彼の派閥に属する者の未来がない、というべきか。
言ってしまえば『死なば諸共』という心境なのだろう。
「まぁ、何でも良いからさっさと撃ってこい。待っているのも退屈なんだ。ふわぁ……」
これみよがしに欠伸をしたその時、帝都から伝わってくる魔力に変化を感じた。
どうやら魔力が溜まったらしい。
「貴様の生み出した怪獣諸共、消し炭になるがいい。超弩級・魔力砲【マジックキャノン】、撃て」
チャールズが怒号を発した瞬間、帝都で一カ所に集まっていた凄まじい魔力が編み込まれていくかのように集約されはじめた。
次いで、この位置からでもはっきりと目に見えるほどの光が帝都で煌めく。
魔力砲から巨大で極太の光線が放たれたのだ。
これほどの威力となれば、世界が焦土と化すというのもあながち間違ってはいない。
「だが、こうではなくては面白くない」
ようやく、力を試せる絶好の機会に恵まれたというわけだ。
私は武者震いに震えつつ、正面に十枚の分厚い結界を張った。
「……とはいえ、これでぐらいで十分だろうがな」
瞬く間に極太の光線が結界に衝突し、硝子が割れるような甲高い爆音が『連続』で轟いた。
魔力砲の威力が想像以上であり、私が作りだした十枚の結界をいとも容易く貫いたのである。
「し、しまった……⁉」
極太の光線が眼前へと迫り、私は目を大きく見開いた。
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