虐殺の前の前戯

 前書き。と、言うよりは修正報告


機関銃をMk43からM60E6に変更しました



 野球帽を目深に被り、マスクもして顔を隠したツナギ姿の正樹と涼子の2人は工具箱片手にホテルの地下フロアを歩いていた。

 地下フロアにはボイラー等の配管や、万が一の際に使用される非常用発電機があった。

 そうして、非常用発電機が格納された電源室に入ると、正樹は涼子に周囲の警戒をさせる。


 「見張りを頼む」


 涼子が頷いて周辺警戒の為に見張りを始めると、正樹は工具箱を開ける。

 中には羊羹やカステラの包みにも似たモスグリーンの長方体。

 もとい、プラスチック爆弾の代名詞とも言えるC4が起爆装置等と共に複数詰め込まれていた。

 両手を床に当てて体内の静電気を除去した正樹はC4爆薬のブロックを手に取ると、慣れた手付きで切り分ける。

 そうして、C4爆薬のブロックを2つに切り分け終えると、正樹は再び両手を床に付けて静電気を除去してから爆薬を2つの非常用発電機と繋がる太いケーブルにセット。

 それから、起爆装置をC4爆薬に取り付ければ、起爆装置に取り付けられたタイマーを30分にセットした。

 手早く爆薬から時限爆弾にすれば、正樹は仕掛けた時限爆弾をウェスで拭って指紋を落としていく。

 そして、使用した工具も含めて工具箱に片付ければ涼子に報告する。


 「仕掛けは完了。次に進むぞ」


 片付け終えると同時に涼子へ告げると、正樹は涼子と共に電源ルームを後にして次の段階へと移行する。

 次の段階は警備員達が詰める警備室の制圧であった。

 警備室では警備員達が張り詰めた様子で監視カメラから送られる映像を見詰めて居た。

 そんな警備員達に対し、涼子は複数のハエトリグモを差し向ける。

 ハエトリグモ達は其々、音も無く警備員達の足下に忍び寄る。

 それから、程無くして脚に跳び上がれば、そのまま気付かれる事も無く脚を登っていく。

 脚から腰。

 腰から背を登って首筋に止まれば、同じタイミングで警備員達の首筋に噛み付いた。

 すると、警備員達は直ぐに床へ崩れ落ちて動かなくなった。

 そんな様子に正樹は黒い革手袋を嵌めながら尋ねる。


 「死んでないよな?」


 正樹の問いに対し、涼子は心外と言わんばかりに返す。


 「死んでないわよ。眠ってるだけ」


 涼子の答えに正樹は訝しんでしまう。


 「なら、良いけど……てか、気道と呼吸確保しなくて大丈夫か?」


 麻酔。

 特に完全に意識を無くす全身麻酔では、気道と呼吸を確保しなければ患者が窒息死してしまう。

 名探偵コナンにあるような都合の良い麻酔は存在しない。

 そんな正樹の疑問に対し、ハエトリグモ達を回収する涼子は答える。


 「嘘だと思うんなら呼吸確認してみたら?」


 その言葉に訝しみながら、正樹は警備員の1人の呼吸を確認する。

 警備員はキチンと呼吸して眠って居た。

 それにホッと安心しながらも、正樹はボヤきを漏らしてしまう。


 「やっぱ、魔法ってデタラメだ」


 「だから、魔法って言うんでしょ」


 そう返されて納得してしまった正樹は涼子に見張りを頼むと、次の仕事に取り掛かる。

 正樹は警備室のPCを操作すると、監視カメラを介して標的達……集まりつつある八塚会の幹部陣達の居場所と、幹部陣達が連れてきたヤクザ達の数の確認をしていく。


 「連中は最上階のサロンと下の階に集まってる。護衛連中は……拳銃は持ってるっぽいが、流石に長物は無さそうだな」


 流石に緊急事態と言えど、流石に長物……自動小銃や短機関銃、散弾銃と言ったゴツい銃火器をヤクザ達は持ち込留めはいなかった。

 それを確認した正樹は拍子抜けしてしまう。


 「何だよ、犯罪組織だってんなら自動小銃とか持ち込んでると思ったんだけどな……」


 ボヤく正樹に涼子は呆れてしまう。


 「確かに、ヤクザの中には自動小銃やRPGとか持ってる連中は居るわよ?でも、流石にこう言う所では持ち込まないわよ」


 銃は持っているだけで逮捕される違法な物品だ。

 普通の市民が持っていたのを警察に逮捕されるだけでも、ちょっとした記事になるのだ。

 ヤクザならば、尚更面倒な事になるのは目に見えている。

 そんな事情を聞けば、正樹は納得する。


 「なるほどな」


 「それより、連中は揃ってるの?」


 涼子から標的達が揃っているのか?問われると、正樹は監視カメラを操作して改めて確認していく。


 「揃ってい……るな」


 ビジネスマンから提供された幹部陣の顔と照らし合わせ、キチンと揃っているのを正樹が確認すれば、涼子は尋ねる。


 「其処に黒人と、オッパイとケツもデカい2メートルくらいの白人の女は居る?」


 「喜べ。しっかり居るぞ」


 モニターを眺める正樹が肯定すると、涼子は満面の笑みを浮かべて嗤う。


 「嬉しいわ。こんな早くに、私の手で仕留め留めチャンスが直ぐに来てくれて……」


 涼子にすれば、己の聖域を侵した悪魔は早急にブチ殺したかった。

 それ故、こうして殺す機会が巡って来た事に歓喜していた。

 そんな涼子へ、正樹は尋ねる。


 「でも、良いのか?」


 「何が?」

留め

 「連中の背後に居るだろう、天使だか悪魔だかも仕留めなきゃならんのに直ぐに殺しちまってよ?」


 正樹の疑問に対し、涼子はアッケラカンに答える。


 「其処は私が何とかするから気にしなくて良いわよ」


 その答えに正樹は敢えて考えるのを辞めた。


 「なら、そっちに任せる丸投げするわ」


 「ありがとう」


 感謝する涼子へ、正樹は釘を刺す。


 「でも、"犬小屋"で"インタビュー"は辞めろな。後始末が面倒だし、悲鳴が御近所迷惑になるから……」


 インタビュー……もとい、拷問するなら場所を選べ。

 そう釘を刺された涼子は気にせずに返す。


 「大丈夫よ。首さえ有れば、情報は取れるから」


 「何するつもりだ?いや、良い……聞きたくない」


 聞こうと思った正樹であったが、精神衛生の為に聴くのを辞めた。

 その後。

 全ての監視カメラの機能を停止させると、正樹は今日一日の監視カメラが記録した映像を全て削除。

 それから、念を押す。

 そう言わんばかりに、警備室内にあるPCを全て工具箱から出した片手ハンマーで物理的に叩き壊した。


 「コレで俺達の記録は残らなくなった。後は闇に乗じて仕事をすれば良いだけだ」


 その一言と共に、ついさっきまで和気藹々と愉しそうに物騒な会話をしていた涼子と正樹の表情が一変する。

 2人の表情は真剣そのものと言えた。

 ついさっきまでの愉しそうな雰囲気が嘘。

 そう思えるくらいの剣呑な気配と共に、2人は警備室を後にした。

 警備室等もある地下フロアから悠然かつ堂々と立ち去る様に従業員用のエレベーターに乗り込むと、正樹は最上階フロアから2つの下の階のボタンを押す。

 エレベーターが閉まると、涼子は正樹に尋ねる。


 「貴方が私を呼んだ理由、聴いても良い?」


 その問いに対し、正樹はさも当然の様に返す。


 「鬱憤やら苛立ちやら解消させて暴発を防ぎたい。後、君が居れば色々と便利だから……それじゃ、駄目か?」


 アッサリと想っている本心を答える正樹に涼子は、心を見透かされた様な気分になったのだろう。

 少しだけ不満を顔に浮かべてしまう。


 「私は公私混同はしない方よ?」


 「でも、チャンスが来たら勝手に動いて派手にヤラかすだろ?」


 正樹の言葉が否定出来なかった。

 そんな涼子に正樹は更に続ける。


 「勘違いするな?責める気は無い。俺だって君の様な強大な力を持ってるの込みで似た状況になったら、同じ事をする」


 「そう聴こえないのは気の所為?」


 涼子の言葉を正樹は否定する。


 「気の所為だ」


 「でも、何か言いたそうね」


 その問いに正樹は答える。


 「此処は君が暴威を振るった文明が若い。否、幼いと言っても時代の世界じゃない。その時代だったら、君の力で何とでもなる。だが、此処は現代の地球だ」


 其処で言葉を切れば、涼子は問う。


 「つまり、派手な事はするな。そう言う事?」


 涼子の問いを正樹は肯定する。


 「そう言う事だな。まぁ、コレから派手にヤラかす事を決めた俺が言えた義理じゃねぇけどよ……」


 戦後日本の犯罪史上。

 警察が大いに頭を抱えるだろう虐殺事件を起こす事を決めた正樹に対し、涼子は呆れてしまう。


 「そうね。確かにコレから虐殺事件を起こそうとする貴方が言えた義理じゃないわね」


 「まぁな……だが、ヤクザ連中に対して最も効果的な戦果を出して、更には君の鬱憤や怒りを収めるには都合が良いのも事実だろ?」


 正樹から問われると、涼子は納得せざる獲なかった。

 それ故……


 「ありがとう」


 涼子は正樹に感謝した。

 自分に感謝した涼子へ正樹は素っ気無く返す。


 「礼なら要らん。仕事と君の御機嫌取り。それから、逃走とかにも君が居る方が好都合だから実行しようとしてるだけだ」


 「じゃなかった、こんなクソプランやんねぇわ」そう締め括った正樹に涼子は言う。


 「それでも助かるわ」


 そんな涼子に正樹は指示を下す。


 「感謝してんなら、サロン内のアホ共標的達の始末頼むわ。俺はセキュリティ周辺警戒に回るからよ」


 正樹の指示に涼子は快諾した。


 「えぇ、喜んで殺らせて貰うわ」


 涼子が快諾すると、エレベーターの扉が開いた。

 目的の階に到着したのだ。

 2人はエレベーターから降りると、非常用階段へと向かう。

 非常用階段に出ると、正樹が上の階と下の階の上下を見張り始める。

 正樹が見張っている間。

 涼子はトランクを召喚すると、中から今宵の狩りに用いる装備を取り出して床に並べていく。

 床に各種装備を並べ終えると、涼子はツナギの上から左右の両脇に小型の弾薬箱。

 胸には手榴弾が詰まったパウチが取り付けられたプレートキャリアを纏った。

 それから、大きなサプレッサーが取り付けられた拳銃……スタームルガーMk4が差し込まれたホルスターと、スタームルガーMk4の予備弾が3つ収まるアモパウチが取り付けられたピストルベルトを腰に装着した。

 そうして、プレートキャリアとピストルベルトを纏うと、マスクと野球帽を脱いでバラクラバを被ってからFASTヘルメットを被った。

 そして、最後にM60E6を手に取ると、M60E6の左脇に7.62ミリNATOが詰まった弾薬箱をセット。

 それから、チャージングハンドルをガチャンと引いてフィードカバーを開けると、金属製のベルトリンクで連なる7.62ミリNATO弾をセットしながら正樹に通知する。


 「準備良し」


 その言葉と同時にM60E6を手にした涼子が見張りを交代すると、正樹の支度が始まる。

 涼子よりも手早く、涼子と同じ装備の支度を済ませれば、正樹と涼子は後始末を済ませてから足音を一切立てる事無く階段を登っていく。

 階段を登って最上階まで来ると、涼子と正樹は息を殺して静かに狩りの時が来るのを待つのであった。



 後書き?

涼子が居なかったら、正樹は警備員の皆様を皆殺しにしてました←

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る