魔女は己の黒歴史で悶絶する
木曜日を迎えた。
何時もの様に学校で日常を謳歌した。
少しだけ変化があったとすれば、学校内で人付き合いをしない陽子を涼子が友として迎えた。
美嘉と明日香は陽子を受け入れ、話に花を咲かせたぐらいだろう。
後は強いて上げるならば、学校で停止されていた放課後の部活動が再開された事と陽子が涼子本来の力に恐怖を抱いていたぐらいだ。
放課後を迎え、何時もの様にアルバイトに勤しみ帰宅した涼子は遅い夕食と風呂を済ませた後。
正樹に電話していた。
「単刀直入に言うわよ。私は成り行きで貴方の復讐の手助けをする事になった」
前置きを抜きに告げれば、正樹は尋ねる。
「理由を聴いても良いか?」
正樹にすれば、自分の復讐に赤の他人である涼子が助力する。
それが自分の復讐相手である魔女の弟子から告げられれば、流石に事情が気になるのも当然と言えた。
そんな正樹へ涼子は正直に答える。
「貴女が殺したい相手が私に依頼した。貴方の復讐に手を貸せとね」
涼子の答えに沈黙する正樹は少し置いてから理由を問う。
「…………君が応じた理由は?」
「私の家族の安全の為。それと私自身が師に挑みたいって言う身勝手なエゴ。そして、私とあの人の間にあるしがらみを取り除いて平穏な日常を取り戻す為。この3点よ」
正直に答える涼子に正樹は納得する。
だが、それでも確認は怠らない。
「君は俺の敵か?」
正樹にすれば訳が解らない状況だ。
愛する者達を奪った張本人が、自分を殺そうとする復讐者を利する理由が見当たらないのだから当然だ。
そんな正樹の疑問に涼子は答える。
「あの人は自分の満足する形で舞台で踊り狂いたいのよ。その為なら、敵を利する事だって厭わないわ」
正樹の怨敵たるハミュツを深く知るからこそ、涼子は断言した。
ハミュツが正樹を敵として認め、自分と互角に渡り合わせる為に涼子を利用するのだと。
そんな答えに正樹は少しだけ腹立たしい気持ちになる。
「不愉快だな。復讐相手に情けを掛けられるってのは……」
「でも、今の貴方じゃ絶対に勝てないのも事実。それにこの世界では、あの人を殺す手段を見付ける事なんて不可能よ。だったら、不愉快極まりない気持ちと貴方のプライドを呑み込んで、私を利用して悲願を達成する方が合理的なんじゃないかしら?」
涼子の言葉に正樹は沈黙する。
復讐の為に自分のプライドを棄てるべきか?
迷っているが故に。
悩みと共に沈黙する正樹へ涼子は更に続ける。
「選ぶのは貴方よ。復讐か?プライドか?どちらを取るにしろ、私は依頼された通りにあの人を殺す為の手段を作る」
そう告げれば、沈黙していた正樹は絞り出す様に答えた。
「暫く考えさせてくれないか?流石に直ぐには答えが出せない」
「良いわ。でも、あの人が貴方の前に現れるまでには決めて欲しい」
正樹の答えに承諾した。
同時に時間は残されていない。
そう警告をすれば、涼子は別件とも言える仕事の話を切り出した。
「例の紅いダイヤの件だけど、片付いた」
唐突過ぎる内容に正樹は情けない声を出してしまう。
「はぁ?」
「困惑するのも無理は無いわね。でも、ブツが手に入ったのよ……だから、その件は片付いた」
涼子が有無を言わさずに告げれば、正樹は尋ねる。
「なら、君からの手付けを返すべきだよな?」
涼子からルシファーの悩みの種を解消する問題が消え失せた事を聞けば、涼子から受け取った手付け金とも言える品を返すべきか?
正樹が問うのは当然と言えた。
だが、涼子は返さなくて良い。
そう答えると共に返さなくて良い理由を告げる。
「いいえ。返さなくて良いわ。その代わりの仕事が出来たから」
代わりの仕事。
それを聞いた正樹は仕事内容を確認する。
「仕事と言うのは?」
「ある魔女が監獄に収監されている。彼女は私の友人であり、私の師からの依頼遂行の為に必要な人材でもある」
脱獄させたい理由も交えた仕事内容を聞けば、正樹は承諾する。
「良いだろう。引き受ける。成功報酬はこの間言った奴で構わない」
報酬は据え置きで引き受ける。
そう答えた正樹に涼子は感謝する。
「ありがとう」
「だが、流石にヤルのは明日からの狩りが終わってからだぞ?後、ヤルしても必要な情報が無けりゃ、プランは立てられねぇぞ?」
涼子に魔女脱獄の為には情報が欠かせない。
そう告げた正樹は更に続ける。
「それに武器含めて装備だって足りない。場合によっては壁をブチ破ったりもしなきゃならんのだろ?それをする為の爆薬だって欲しい」
テロリストであり、傭兵でもあった正樹が魔女を脱獄させる為に必要な装備が欲しい。
プロとして正樹が言えば、涼子は答える。
「そこら辺の心配は必要無いと思うわ。幸いにも、調達する当てがある。運が良ければ、無償で提供して貰える筈よ」
涼子から物資調達の当てがある。
そう聞けば、正樹は告げる。
「なら、必要な装備に関しては情報を確認してからだ。襲うムショの警備体制やら壁の材質と厚さとか解らなきゃ、壁をブチ抜くのは無理だ」
「情報に関しては一応は揃ってる。取り敢えず、1つだけ確実に言える事は看守の買収は無理って言う事ぐらいね」
涼子から遠回しに監獄に押し込み強盗する。
そう告げられれば、正樹は呆れてしまう。
「ムショに押し込み強盗するとか正気か?」
「他に方法が無いんだから仕方ないわ。嫌なら降りても良いわよ?」
「俺はデカいヤマを踏むのが好きなんだ。その上、報酬も出るんならやらない理由が無い」
正樹が断る気は無い。
そう答えれば、涼子は正樹が引き受けてくれる事に感謝した。
「ありがとう」
「別に構わねぇよ。だが、この世界で仕事抜きにヤマを踏むって言うんなら、俺はやらねぇからな?流石に、この世界で犯罪者として指名手配されるのは勘弁して欲しいし、前科付けたくねぇ」
「解ってる。詳しい打ち合わせは互いに都合が良い日に"犬小屋"でしましょう」
「解った。因みにだけどよ、襲うムショは何て呼ばれてるんだ?」
ふと、気になったのだろう。
正樹は好奇心から、涼子が襲おうとしている監獄の名を尋ねた。
その問いに涼子は答える。
「私を初めとした魔女達からは"墓地"と呼ばれているわ。正式な名前は確か……」
"墓地"と呼ぶ監獄の本来の名前をど忘れしていた涼子が思い出そうとすると、正樹が答えた。
「罪深き乙女を救いし聖域」
正樹が答えれば、涼子は「そうそれ!そんな名前よ!!」とスッキリした気持ちとなる。
だが、同時に疑問を覚えた。
「何で貴方が知ってるの?」
何故?
正樹が魔女達から"墓地"と揶揄される監獄の名を知るのか?
涼子が尋ねれば、正樹は答える。
「あのクソアマと君が師弟関係にある。そう聞いた時からまさかとは思ってたけどよ……俺と君は同じ世界に居たみたいだな。時代は違うけどな」
正樹の答えを聞いても、涼子は驚かなった。
寧ろ、納得していた。
「やっぱり、貴方もあの世界に居たのね」
「驚かないんだな」
「貴方から師匠の気配がした時から薄々、感じていたわ。でも、確証が無かった」
事態は異なれど、涼子が正樹と同じ世界に居た事を薄々ながらも勘付いて居た。
そう答えれば、正樹は納得と共に尋ねる。
「そうか。で? 彼処を墓地と呼ぶ所以のは何でなんだ?」
「単純な話よ。彼処に収監されたら永遠に閉じ込められ、二度と表には出られない。それは実質、死と変わらない。誰かが、皮肉を込めて名付けたのよ……人が必ず最後に行き着く先である墓になぞらえてね」
涼子から墓地と呼ばれる所以を知ると、正樹は何処か楽しそうな反応を見せた。
「俺、今メッチャ感動してる。過去の時代の当事者から当時の事を聴けるとか、歴史好きにすれば滅茶苦茶最高な出来事だぜ?」
正樹の意外な一面に人間味を覚えた涼子は少しだけホッとしながら尋ねる。
「貴方、歴史好きなのね」
「子供の頃からネイサン・ドレイクやインディー・ジョーンズに憧れてたんだ。で、気づいたら歴史を調べるのが好きになってた」
好きなゲームと映画のキャラクターの名を交えて歴史が好きな事を言えば、涼子は納得する。
「子供の頃に憧れたキャラから、その分野が好きになるのってあるあるね」
そんな涼子から、正樹は自分の趣味である歴史に於ける長年の疑問を解き明かせる。
そう信じ、子供の様に疑問をぶつけた。
「過去の時代で生きていた君に聞きたいんだ。俺は
「全部を知ってる訳じゃないわよ?」
「黒き魔女って知ってるか?向こうで歴史学者が、その存在の有無を議論してるんだけどよ……当時の文献にその存在を示唆する内容はあっても、内容が荒唐無稽だって言うんで創作扱いされたりしてるんだ。で、実際に存在してるのか?気になってるんだ」
早口に長々と尋ねる正樹の言葉に涼子は何て答えるべきか?
悩んでしまう。
だが、一応は確認の為に問うた。
「黒き魔女に関して何て書かれてたの?」
「色々とあるが、有名なのは病を振りまいてパンデミックを起こしたって奴だけど……どうした?何か、暗い雰囲気を感じるけど?」
正樹の言う黒き魔女には心当たりがあった。
寧ろ……
完全に私の事じゃん。
パンデミックやったわ。
自分自身の事だと直ぐに解った。
だが、直ぐに気を取り直して更に確認する。
「他には?」
「教会の聖騎士達を相手にたった独りで戦争して聖騎士達を強大な魔法で焼き払ったとか、国を相手に戦争して王を跪かせたとか、悪行沢山だな。他にも……」
早口に黒き魔女に関する事を語り続ける正樹のお陰で、涼子は嫌でも確信せざる得なかった。
それ故……
「それ、私」
正直に認めた。
だが、流石に突拍子がなさ過ぎる答えに正樹は信じなかった。
「いやいやいや。君が向こうで歴史学者達が存在を議論し続ける"黒き魔女"?流石に無いだろ?」
信じられない。
そう呆れ混じりに言う正樹へ、涼子は当時の記憶を頼りに文献に記されているだろう事を諳んじていく。
「パンデミックの時、対処方法は一向に見付からなかった。それなのに何故か感染が止んで、それ以降は感染者が拡大する事は無かった。後、聖騎士達は空から降り注ぐ"何か"によって成す術も無いまま一方的に殺された。王は黒き魔女を討伐する為に幾度も軍を派遣したりしたけど、そのどれもが殺され、最後には王城にカチコミを掛けた黒き魔女に跪いて許しを乞うた。そんな内容だったりしない?」
其れ等を全て沈黙と共に聴いていた正樹は認めざる得なかった。
だが、それでも信じられずに居たが故に……
「マジで?ガチなの?」
改めて確認してしまう。
そんな正樹に涼子は自分の罪を晒すも同然であるが故に、バツが悪そうに答える。
「理由は聞かないで欲しいんだけど、今私が言った奴は当時の私がやった悪行よ」
「じゃあ、魔女を戦争に利用した国に侵略された国に雇われて、侵略した側の魔女と戦った件も?」
魔女を利用して侵略しに来た国があった。
その侵略を受けた国に居合わせた黒き魔女が、侵略者の尖兵となった魔女と戦った。
その事を聞かれれば、涼子は懐かしさと共に認める。
「うわぁ……懐かしい。其処で
エレオノーレの名は出さずに初めて出会い、其処で殺し合った事を答えた。
そんな涼子へ、正樹は興奮と共に更に問う。
「じゃあ、流行り病やアンデッドで苦しむ人達に救いの手を善良なる魔女と共に差し伸べ、救った話は?」
「あーアレね。バカな死霊術師がバイオハザードをヤラかしてね。で、その時に善良なる魔女から手を貸せって言われて、治療とバカを始末するのに奔走する羽目になったわ」
涼子が答えれば、正樹は嫌でも信じざる得なかった。
「君が歴史学者達が存在を議論し続けた黒き魔女とは……マジで驚きしかないんだけど」
「私だって驚きよ。そんなに歴史的な文献として私の悪行が記録されてる上に、歴史学者達が私の存在を議論してる事に」
異世界でのヤラかしが、異世界での記録に残ってる。
流石にそれを知れば、涼子は恥ずかしさで悶絶して居た。
だが、そんな涼子でも1つ気になる事があったのだろう。
正樹に尋ねる。
「因みにだけどさ……その黒き魔女ってFGOとかみたいにフィクションのネタにされてたりするの?」
「あー……結論から言うとされてた。大概はラスボス扱いだな」
正樹から気になっていた答えを聞けば、涼子は呆れてしまう。
「マジかぁ……」
「いや、されるだろ。君に関する文献読んだら、創作でラスボス扱いされるの残当なんだわ」
涼子は誰かを責めたくとも、自分の顔しか浮かばなかった。
それ故……
「うわぁ……恥ずかし過ぎてちょっと死にたくなる」
「長年、気になってた疑問がこんな形で解決した俺としては何て言えば良いのか?解らねぇんだわ」
お互いに呆れると、2人は愉快そうに笑い出す。
一頻り笑った所で2人は別れの挨拶と共に電話を切った。
涼子は正樹から聞かされた文献に自分の事が記されている事に対し、改めて呆れてしまう。
「確かに私はヤラかしたけど、歴史的な文献に残るとは思わねぇわ。マジで草枯れる」
実際問題。
世界的なパンデミックを成功させたり、地球に於けるカトリックの抱える軍を殲滅したり、国を相手取って勝利すれば嫌でも記録に残る。
自業自得だ。
涼子は過去に数え切れない程にヤラかした悪行を思い出すと、恥ずかしさの余り悶絶しながらベットに飛び込むのであった。
後書き
歴史に残るレベルのヤラかしをしたら否が応でも文献として残るのは残当なんだわ。
正樹の居た時代以前から歴史学者達の間で存在の真偽が熱い議論が長年交わされてた。
でも、流石に内容があまりに荒唐無稽過ぎてフィクションだろ?話盛りすぎだろ?って、感じで信憑性が疑われて歴史学者達を大いに困惑もさせてる。
因みに地球ではカトリックに当たる聖王教会は黒き魔女の実在の真偽に関しては、何故か異例のノーコメントを表明してたりする。
まぁ、涼子以外でヤラかしてる魔女も色々と居たんだけどね…
それ差し引いてもトップでヤラかしてるのは涼子なんだけど←
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