白鷺と銀の龍神の最愛(長編連載版)
テトラ
蛇神の悲劇
悲劇
これは、亡くなった先代の龍神である俺の親父がある村の危機を救った伝説と全てを失い悲業の死を遂げた
そして、初めて俺が人間に恋をした話。
人間のあまりにも身勝手過ぎる欲が生み出した悲劇が全ての始まりだった。
大昔、親父の
その頃の人間の世界はまだ神々との繋がりが強く、お互いを敬いながら共存していた。
神々の中でも特に蛇神でる瑪瑙は人間をこよなく愛していた。
神の力に頼り過ぎることなく必死に生き、笑顔を絶やさず、正義を貫く人間達の姿を瑪瑙は愛していた。
それは人間達も同じ。彼等も守り神であり心の拠り所である瑪瑙を心の底から愛していた。
彼には人間の妻であるひなたとの間に
夫婦は息子の成長をとても喜んでいた。
愛する者達に囲まれながら瑪瑙は家族と共にこれからもずっと幸せに暮らしてゆく筈だった。
だが、そんな日々は悪しき欲を孕んだ者が来てから一変してしまった。
外の人間はあやかしや神に対して敬意がない者が必ずいる。
何の罪のない彼等を襲い、遺体から部位を剥ぎ取る。それらは加工され醜い欲まみれの金持ち者共に行き渡る。全ては自分達の欲を満たす為の愚かな行為。
例え相手が神様でも奴等は平気で手にかける。それが幼い子供だとしてもだ。
その者共の魔の手が瑪瑙達が住む村や森に伸びたのだ。
奴らが現れたのは翡翠の誕生日。瑪瑙と妻のひなた、そして彼等と暮らす人間達はまだ幼い小さな神様への祝いの準備で朝から忙しかった。
翡翠は嬉しそうにその様子を見ていた。
だが、その時すでに愚か者共は草陰から翡翠を観察し、いつ奇襲をかけるか様子を伺っていたのだ。
悪しき心を持つあやかしなら瑪瑙が張っていた結界で防げたが魔力を持たぬ人間ではそうはいかない。
侵入者は容赦なく瑪瑙達を襲った。幸せだった時間が悲鳴と血に染まる。
愚者共の親玉の様な女が勝ち誇ったかの様に手下に押さえ付けれた瑪瑙に言い放った。
「馬鹿な神様。人間を信じ過ぎるのからこうなるのよ。まぁ…そのお陰で私達はお腹が満たされるんだけどね。あはは♪」
女は嘲笑いながら地面に伏せられている瑪瑙の頭を踏みつけた。
蛇神の力を使ってコイツらを蹴散らすことは簡単だ。だが、愛する妻子が人質に取られてしまっている。
下手に動けばどうなるか嫌でも分かってしまう。
自分達の欲を満たす為なら、聖域を荒らし、神でさえも殺す。
瑪瑙は必死にやめてくれと叫んだ。貴様らが欲しい物は自分から剥ぎ取ればいい。だから倅だけは許してくれ。可愛い我が子と愛する妻、そして、共に暮らしている人間達だけは助けてくれと叫んだのだ。
だが、外道共はそんな必死な訴えを鼻で笑った。
悲痛な叫びも虚しく、ひなたと翡翠は蛇神の目の前で惨殺された。
さっきまで微笑み合い、愛する我が子の誕生日の祝いを準備していた愛する人が首を刎ねられ真っ赤な鮮血を噴きながら息を絶えた。
息子の翡翠は、あまり身体を傷つけるなと女から命令され、縄を使って首を絞められ殺された。遺体は麻袋に入れられ持ち去られてしまった。
傷付き押さえ付けられていた瑪瑙は、愛する家族が殺される姿をただ見守ることしかできなかった。
けれど、強欲な外道共はそれだけでは飽き足らなかった。
女の手下が瑪瑙の長い黒髪を乱暴に掴むと、懐から出した小刀で断髪したのだ。
「本当な貴方様の身体も欲しいけど、依頼主様が子供の方だけでいいって言うから仕方ないわね。若ければ若いほど売れるから。でも、神様の髪の毛は癒しの力があるからねぇ。殺されないだけ感謝なさいな」
手下に短くなった髪を鷲掴みされた瑪瑙は女の方に顔を向けられる。
「後は琥珀みたいに綺麗な目玉だけでも頂こうかしら。不老不死になれる薬になるらしいし♪」
くだらない迷信を信じて女は楽しそうにもう一人の手下に手渡された黒い皮の手袋をはめると、躊躇なく瑪瑙の目を抉った。壮絶な痛みに叫ぶ瑪瑙に気に止まることなく女はもう片方の目玉を奪う。
「可哀想な蛇神。人間を信じたばかりに家族も失って、光も奪われて。本当憐れね。まぁ、私のせいなんだけど♪アンタ達、二度と蘇らない様にトドメを刺したらずらかるわよ。龍神に勘付かれたらまずいからねぇ」
女の手下達が瑪瑙の息の根を止めようと持っていた槍を突き刺そうとした瞬間。瑪瑙は最後の力を振り絞って女に襲いかかった。
それに気付いた女は咄嗟に避けようとするが、瑪瑙の鋭い爪が女の左腕を激しく裂いたのだ。
女は叫びながら地面に伏す。彼女のそばに居た手下共が慌てて駆け寄る。
「よ…よくもこんな…!!!許さない!!!早く殺して!!!人間を傷つける様な神なんて死ねばいいのよ!!!!」
ざまあみろと言いたげな表情をした瑪瑙の背中に槍の刃が何度も何度も刺さる。
瑪瑙は自分の血だまりの中で遂に息絶えた。
腕を負傷した女は動かなくなった瑪瑙の身体を何度も買った後、気が済んだのか手下と強奪したブツと共にその場を離れた。残ったのは無惨に殺された人々と蛇神の死体。
蛇神が愛したモノは全て信じていたモノに壊されてしまった。
幸せに包まれていた世界は血と悪意で染まってしまったのだった。
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