第27話 もうなにも、失わないために――夢唯叶(狂信者)視点
私の名前は、夢唯叶。
夢を唯叶えると書いて、夢唯叶。
今、私は私の狂信する人に誕生日を祝われています。視ていますか、私の親友、
"誕生日を、自分が信じた人に心の底から祝ってもらう"という、簡単そうで、途轍もない難題を。
この願いが、難題となっている理由は、8年前の、陽菜がこの世から、いえ、私がほぼ全て失ってしまった日に遡ります。
あの日は、珍しく雪が降っていました。
珍しい雪に、当時の私たちは心を踊らせました。けれど、それは――――
―――人の体を冷やすだけでなく、人から体温を奪う悲しみの雪だったのでしょう。
陽菜は、いつもわんぱくで、周りの人を困らせていました。
その日の雪は積もることはないとはいえ、そんなわんぱく娘の陽菜が雪を見て、窓から見てるだけなんてのはあり得ませんでした。玄関から飛び出し、その降り続ける銀の光に目を奪われていました。私は、この時が最後のチャンスだったと思っていますが、当時の私はそんなことは知る由もありません。
不意に、たった一発の銃声が鳴り響きました。銃弾なんて、本来見えないはずなのに、何故かその一発の銃弾のことは今も脳裏に焼き付いています。
陽菜が人生最期に聞いた声である銃声も。
そして、その銃口も。
――――その銃口を向けていた、自分の親のことも。
私はそれから、誰の言うことも信じられなくなりました。死なないなんて言葉も裏切らないなんて言葉も信じられなくなりました。信じることが出来る人が、いなくなりました。
なにか学校で問題が起これば教師に頼らず自力で解決。
お金が切れてきたらアルバイト。
喧嘩を吹っ掛けられたら叩き潰す。
なにもかも、全て自分で終わらせるようになりました。
陽菜は私にとって、大切で、私の全てだったのです。
そんな私をみてなにか
私をこんなにしたのはあなたたちでしょう?
転機が訪れたのは、中学3年、能力が発現する年の、4月15日。東風様の配信を見た時でした。配信を見ながら、私はこう思いました
『東風様なら、死なない。』
『呑気な東風様なら、私から奪うことはない。』
そして、私はその時、東風様を信じることにしました。
...私は、きっと東風様以外の人を信じることが出来ないので、狂信という形で。
そして、今日、4月21日金曜日。私の誕生日。東風様は、私にとても美しい髪飾りをプレゼントしてくださいました。あの冷たい雪を思い出すような髪を見た時は驚きましたが、逆に決心がつきました。
過去には遡らない、過去は振り返らない、明日を向いて生きていく、と。
そして、この髪飾りを付けていると、冷たい雪に溶けていった陽菜が私の中にいるような気がするのです。
そうして、私は誓います。
この身、東風様のために使いましょう。
―――――もう何も、失わないために。
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