佐原 Ⅴ

 目覚めたのは午後の一時半だった。「よし」と僕はゴルフバッグを手に担いだ。自室を出ようとドアノブに手を当てる。今日でこの部屋ともお別れだ。そして、この家とも、母さんともおさらばだ。

 むなしい気持ちになることを想像していたが、案外すっきりとした気分だった。心を渦巻いていた迷いが無くなったからか。

 母さんには、どこに行くかを云うつもりは無かった。あったとしても、昨日の一件で母さんはまともに会話することすらできないはずだ。

 一階に降りて、靴を履き、ゴルフバッグだけを持って、ドアノブに手をかける。

「行ってきます」

 聞こえたか、聞こえていないかは分からなかった。僕の小さな声が、彼女に届いただろうか。でも、そんなことはどうでも良い。僕は外に出て、浅間山を目指して歩き出した。

 僕の心には、「殺す」という邪念だけが渦巻いていた。

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