雪辱の弾丸

歌月 綾

まえがき

 いま、この本を読んでいたただいている貴方へ。

 まず、この小説を読むに当たって注意して欲しいことがある。

 この小説は四年前の、あの「浅間山連続殺傷事件」の謎について迫るため、執筆したものである。

 当時、マスコミによって大々的な報道がされたため、記憶に新しい人も多いだろう。突如、浅間山に侵入してきた一人の男によって、登山サークルメンバー合計七人が惨殺された、日本の犯罪史上、類を見ない残虐な事件。

 加えて犯人の動機、事件に至る経緯、被害者についての情報が一切公開されていない謎多き事件でもある。

 そのため、マスコミによる報道だけでなく、連日のようにワイドショーで犯罪専門家、医師、作家や元捜査員などによる議論が行われたことでも注目を集めた。

 しかし、警察からの発表はいまもなく、詳しいことは全て、闇の中である。

 そこで私は直接、犯人である佐原死刑囚との面会を行い、あの日に至るまで何があったのか、そして、あの日何があったのかを詳しく知ることができた。

 この小説は一応あの事件をモデルにしているが、この作品はあくまでもフィクションである。

 私がこの本の執筆にあたった理由としては、小説という媒体を通してあの惨劇についてもっと多くの人間に知っていただき、二度とあの事件を繰り返してはいけない、という私の切なる願いを伝えたいというものである。

 その理由は簡単だ。

 私は他ならぬ、あの事件に関わっていた者なのだ。しかし、世間では事実とは異なる認識がされている。私はただ、あの事件の真実を伝えたいだけなのだ。

 絶対にあの事件を正当化するような作品ではない。むしろ、私は佐原死刑囚の事を強く批判している。

 それでも、それとは別にあの時、浅間山で何があったのかが書いて見たくなった。いったい、何が彼をあそこまで狂わせたのか。そして、何故あんな惨い殺戮を行う必要があったのか。あの事件を風化させないためにも、この本を多くの人に読んで欲しいと、切に願う。

 最後に。

 佐原死刑囚は、私との面会でこんな言葉を呟いていた。

「日本の法律上、罪の重さは、奪った命の重さでは無く、数で決まる」と。





 ―あの時、あの殺戮劇に震撼し、憤慨し、恐怖した全ての人々へ捧ぐ。


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