第3話 エドガーとの交渉

エドガーとの出会いから数日後、ヘインはオルネ村に戻ってからも、新たな計画に頭を巡らせていた。これまで手探りで始めた商会の立て直しだが、エドガーとの協力によってさらなるチャンスが生まれる。これを無駄にしないためにも、準備を怠るわけにはいかなかった。


その夜、ヘインはリカルドとエレナにエドガーの話を伝えた。


「マリオッタのギルドと協力すれば、もっと大きな市場に商品を流せるかもしれないんだ。」


リカルドは考え込んでいた。「確かに、ギルドとの協力は商会にとって大きな意味を持つだろう。しかし、それには条件があるはずだ。」


「そうなんだ。だから、今度マリオッタに行くときに、エドガーと具体的な話をするつもりだよ。こちらの条件もきちんと考えておかないと、後で不利になる可能性があるからね。」


前世の経験がここで活きてくる。商談は一度きりのチャンスであり、こちらの強みを理解していなければ相手に飲み込まれるだけだ。ヘインはまず、オルネ村の商会が提供できる最大の強みを洗い出そうと考えた。


オルネ商会の強みと課題


翌日、ヘインは商会の帳簿や在庫を確認し、これまでの取引記録を細かく分析していた。オルネ商会の強みは、手工芸品の品質と細やかなデザインにある。しかし、課題としては生産量の少なさと流通経路の限界があった。


「なるほど、商品の質はいいけど、これだけじゃ広がりが足りないか……」


村の職人たちが作る手工芸品は、一つ一つが手作りで、時間と手間をかけて仕上げられている。そのため、生産スピードはどうしても遅くなりがちだ。しかし、品質を落とすわけにはいかない。彼はどうすれば課題を解決し、オルネ商会の強みを最大限に活かせるかを考えた。


そこで浮かんだのは、商品のラインナップを増やし、製造の一部を他の職人に委託するというアイデアだった。量産できるシンプルなデザインの商品と、これまで通りの高品質な手工芸品を組み合わせることで、幅広い層にアプローチする計画だ。


エドガーとの再会と商談


その週末、ヘインは再びマリオッタを訪れた。市場での手ごたえを感じていた彼は、今度こそエドガーと本格的な商談を行う決意をしていた。広場で待ち合わせた二人は、ギルドの建物に向かい、個室で話し合いを始める。


「君の商会の商品には、本当に感心したよ。質が良くて、デザインも洗練されている。でも、もしこれをもっと大きな市場に広げたいなら、生産量を増やさないと難しいだろうね。」


エドガーの指摘に、ヘインは頷いた。「その通りだ。だから、今考えているのは、商品の製造を少し工夫すること。ラインナップを増やし、シンプルなものと高品質なものを組み合わせて、ターゲット層を広げようと思ってるんだ。」


「なるほど、ターゲットを分けるわけだ。それはいいアイデアだね。僕たちギルドも、流通面で君たちをサポートすることができるだろう。ただ、君たちがどこまで生産を増やせるかが鍵になる。」


ヘインはしばらく考えた後、静かに口を開いた。「実は、生産の一部を他の村の職人に委託しようと思ってる。オルネ村の職人たちが手がけるのは、これまで通りの高品質な商品。でも、もっと量産できるデザインを他の村の職人にも作ってもらうことで、生産力を上げられると思うんだ。」


エドガーはその提案に目を輝かせた。「それなら、ギルドを通じて他の村の職人とも連携できるようにしてみよう。そうすれば、商品の生産も安定し、取引もスムーズになる。もちろん、ギルドの手数料は発生するけど、それ以上のメリットは保証するよ。」


未来への挑戦


ヘインはエドガーの提案に感謝しながらも、自分たちの立場をしっかり守るために慎重に話を進めた。「もちろん、手数料の話は理解してる。でも、僕たちが目指すのは一時的な利益じゃなくて、長期的なパートナーシップなんだ。だから、できればオルネ商会のブランドを大事にした取引ができるようにしたい。」


「いいね、君の考え方が気に入ったよ。こちらとしても、長く続く関係を築きたいと思っているから、ぜひ協力しよう。まずは具体的な計画を一緒に立てていこう。」


その日、二人は遅くまで話し合い、協力の枠組みを固めた。ヘインは自分の提案をエドガーに納得させ、さらにギルドとの連携を強化するための具体的な戦略を練り上げた。これまで一人で考えていたビジネスが、今や協力者を得て、さらに大きな可能性を秘めることになった。


家族への報告とさらなる挑戦


オルネ村に戻ったヘインは、リカルドとエレナにエドガーとの協力について報告した。二人は息子の成長に驚きつつも、誇らしげにその話を聞いていた。


「よくここまで考えたな、ヘイン。お前なら、この商会をもっと大きくしてくれると信じてるよ。」


「ありがとう、父さん。でもこれは始まりに過ぎない。これからもっと大きな挑戦が待ってると思う。でも、家族がいるから頑張れるんだ。」


ヘインの言葉に、エレナは微笑んで頷いた。「そうね。どんなに難しいことでも、家族が支えてくれるからこそ乗り越えられるわ。」


こうして、ヘインは新たな挑戦に向けて動き出した。ギルドとの連携、商品ラインナップの拡充、そしてさらなる市場への進出。彼の目には、以前の会社員時代にはなかった自由と夢があふれていた。


「この世界でも、俺は絶対に成功する。そして、オルネ商会をもっと大きくして、家族と村の誇りにしてみせる。」


かつての商社マンとしての経験を異世界で活かしながら、ヘインの挑戦は続いていく。彼の旅路は、まだ始まったばかりだ。

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