第12話 在庫処分 視点ペプシ
朝。
冬にはまだ早いが水は冷たい。
「派手にやった様だな。商隊長がお前と17を連れてこいとの事だ」
ドワーフでパーティのリーダー、ディッツさんが苦虫を噛み潰したような顔で伝えてきた。
依頼人のフールは護衛にしなのを連れて、雇われ冒険者の合同朝食を取りに行っている。
水場に近いのと今日は出発が遅い為、ジャガイモを塩で煮た物が出るはずだ。
硬い保存食を噛じる日々では温かいだけでもご馳走なのだが……。
「おはよ〜ペプシ。ああこれペプシの取り分ね。」
いつの間にか天幕から出てきて顔を洗っていた17から小袋を渡された。
開けると金貨が5枚も入っている。
この依頼の報酬総額が5人で金貨10枚。
大金だ。
「こ、これ」
「気にしないでいいよ〜、その分とか経費引いても、あーしの収支は金貨換算で金貨28枚の黒字。5枚は種銭にするけど20枚以上は自由になるから。」
17は屈託なく笑う。
「やり過ぎるなと、釘を刺していたのだがな。ついて来い。」
私達はディッツさんに連れていかれた。
☆☆☆
「[鋼鉄の鍋]が参りました。」
商隊長の天幕前で護衛が取り次ぐ。
返事がして中に入ると、商隊長は自身の天幕内で食事をしていた。
もちろんジャガイモの煮た物だけではなく、卵や白いパンが付いている。
神殿でもそうだったが、貴族と平民、金持ちと平民は別の生き物だ。
食べる物も話す内容も違う。
ただ商隊長は下級とはいえ魔族なので、見た目も含めて違うのだが……。
「17とか言ったな?素人相手から随分巻き上げたと聞いた。クレームが来ている。」
17は聞いているのか、いないのか、長い髪を弄っている。
「申し訳ない。儂の監督不行き届きだ。」
リーダーが黙っている17の代わりに頭を下げた。
私も釣られて下げる。
「素人じゃないし〜行商人の若旦那はともかく、3番御者は、おたくの部下っしょ?」
17は雰囲気を読まずに呟いた。
商隊長が食事の手を止める。
「それを言うなら契約中のお前も私の部下だ。部下どうしの諍いは私に決済権がある。それとも契約を破棄して出て行くか?5日分の日当の倍返し、それぐらいの銅貨は稼いだだろ?」
「待ってくれ。儂から良く言って聞かせる。」
リーダーが膝を付いて頭を下げる。
私も膝を付こうとすると、商隊長に止められた。
「ペプシ殿は下級神官であろう?神官は仕える神以外に容易に膝を付かぬものだ。」
確かに形式上は神官や司祭は世俗の権力者に頭を下げたり、膝を付かなくても良いとされている。
だが実際は余程の事がない限り礼儀として頭を下げるし、膝も付く。
「17、本来商隊内でのイザコザが発生した場合は契約解除が基本だ。」
「しかし後5日でもあるし、賭博に出禁処分だけで赦してやる。3番御者も別途処分する予定だ。後、これをお前に譲ってやろう。」
そう言うと商隊長は外に声をかけ、小箱を持ってこさせた。
開けると最近流行りの妖魔筒が入っている。
ただ大きさは小さく30センチ程で金の象嵌などがされている。
「[馬上筒]というヲタク工房の試作品だ。贈答用らしく雷晶石付きの金具など高価な素材や装飾がされている。これを金貨5枚で譲ってやる。」
商隊長は笑みを浮かべながら告げた。
「え〜、それ10m先の的にも当たらない失敗作って知ってるし〜要らないんだけど……」
「だからだ。弾と玉薬はサービスしてやる。」
どうやら見た目は良いが、高価な役に立たない物を買わせ罰金とするつもりの様だ。
「買わせてもらう。17、金貨を出せ」
「あ〜あ、最悪〜」
ディッツさんが答えると17は溜息と共に金貨を出した。
「お買い上げに感謝する。」
商隊長は朝食を再開した。
退出を促され3人して外に出る。
天幕を退出する時に声が聞こえた。
「商隊長、よろしかったのですか?」
「被害者と同じ女性として、あの行商人のやり口には思う所があった。だが取引先から面倒みてくれと言われていて目を瞑っていたのだ。不良在庫が2つ処分出来たのは……」
ぐぅ~とお腹が鳴った。
まだジャガイモが残っていると良いけれど。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
用語解説
[妖魔筒]
火縄銃などの先込め銃の事。
主にダークエルフの依頼でドワーフが生産している為に妖魔筒と呼ばれている。
[センチ][メートル]
以前の転生者が広めた長さの単位。
重さもキログラムを使用している。
ミスリル合金製のメートル原器、キログラム原器を魔族、聖王国、妖魔族、エルフ族が所持している。
明けましておめでとうございます。
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