第10話 夜営 前編 視点ペプシ
ハーピー商会の商隊と共にハルピアを出発して5日。
今の所私達[鋼鉄の鍋]は何事もなく北上を続けている。
商隊の馬車は荷馬車20台の雑馬車6台。
ロイターより先の峠は雪深い冬は閉ざされるので、馬車の台数が多い。
今年行き来出来るのも、後1ヶ月ぐらいだろう。
商隊に便乗の行商人や冒険者は多いが歩き巫女や旅司祭は居ない。
やはり布教の為でも、私達人間が魔族領に向かうには抵抗があるのだろう。
また今回は
「近くにいる
リーダーのディッツさんにも言われているので、護衛冒険者の女どうしは、なるべくまとまっている。
勿論、依頼人のフールさんも一緒だ。
「中継地点のロイターまで残り半分。今日は早めに夜営に入るぞ。」
「へーい。」
商隊長さんの掛け声に馬車の御者や護衛の私達は返事をした。
馬車はゆっくりと坂を登って行く。
☆☆☆
私達の取り敢えずの目的地ロイターは英雄ロイターの名前から命名された街だ。
第一次魔王戦争以前は、ある伯爵家の領都だったのだが、その伯爵は魔族の侵攻を手引きした後に当主が戦死。
戦後は紆余曲折を経て、ハーピー商会の所有都市となり創業者にして英雄のロイターの名前が付けられた。
その創業者、英雄ロイターは初代勇者パーティーの一員で、勇者パーティーに入る前はイブスル王国の王都、現ハルピアで盗賊をしていたと言われている。
魔王討伐時に知り合った魔獣ハーピーのアナと共に商売を始め勇者達との人脈とアナの商才、また魔族との商取引で莫大な富を築いた。
ロイターは既に世を去って久しいが、不老不死の魔獣であるアナは今でもハーピー商会会長として辣腕をふるっている。
☆☆☆
「ペプシ、何書いてるの?」
早めに夜営に入った為、パーティの天幕で夕食後書き物をしていると、17に話かけられた。
しなのは刀の手入れをしている。
見るからに魔剣なので、そこまでの手入れは必要なく見えるが、剣士の嗜みなのだろう。
「し、手記を。ディッツさんに書く様に勧められて。」
「なら、もう終わるでしょ?あーしのチンチロに付き合ってよ。参加ダメなら出資だけでも良いからさ。」
17の言うチンチロとはダイスとカップを使った賭博で、飲酒が禁止されている商隊でも賭博は多少は許されている。
その為、護衛冒険者や帯同する行商人の間で賭博が開催されるが、トラブルの元になる為、関わらない方が良いとディッツさんには釘を刺されていた。
「わ、私は……」
「ペプシ、17がやり過ぎない様に付いて行け。金の貸し借りは駄目だ。」
後ろからディッツさんに声をかけられた。
「さすリーダー話が分かる〜。あーし、ここ3日チョイ負けでさ〜。」
「おーい、嬢ちゃん。始めるぞ。」
「はい、はい〜」
外から声をかけられた17が返事をして出て行く。
私が戸惑っているとディッツさんが小声で囁く。
「17は今日あたり、回収にかかるはずだ。やり過ぎない様に付いて行け」
私はフレイルを持って天幕を出た。
☆☆☆
「嬢ちゃん、今日は時間あるから終わった後どうだい?」
壮年の御者が17に声をかける。
車座に座った4人の男達の間に17は座った。
他にも立ったままのギャラリーもいて、中央には陶器で出来たらしいカップが置いてある。
竜の島で作られた茶碗と呼ばれる物の様だ。
「あーしは妓女じゃないっての。」
17が適当にあしらうが、周りの男共は下卑た笑みを浮かべる。
「どうだかな?昨日丸裸にされた[おのぼり]ちゃんは、大勝ちした行商人の兄ちゃんに可愛がってもらったみたいだぜ。」
「だから今日は[おのぼり]ちゃん、来てないのか。兄ちゃんやるなぁ〜」
若い行商人の男が頭をかく。
妓女が来て居ない今回は買う相手が居ない為、打つ事が盛り上がっているらしい。
他にも、いくつか車座がある。
そして金がなくなれば違う物を賭けている様だ。
17は大丈夫なのだろうか?
「嬢ちゃん、後ろの神官様は?新しい参加者かい?」
「あーしの護衛だよ。あーしが大勝ちした時、踏み倒させないようにってね」
男達は大笑いした。
17も同じく笑うが、一瞬だけ目を鋭くする。
「嬢ちゃん、一回もプラスで終わってないじゃないか。まぁいい、神官様も参加したくなったら言ってくんな。鴨は大歓迎だ。」
全員がダイスを振り親を決めると、賭博が始まった。
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