教祖ちゃん。

ぬりや是々

教祖ちゃん、17歳、その青春。

──天使様はそれはそれは御姿麗しく、凛と伸びましたる背の中程までの御髪は、漆黒の如く艶めきまして、道場の窓より射し込む日に照らされますと清流のようにきらりきらりと輝きます。


「そう、それがわたし」


──天使様のその御口より流れ出ます御言葉は、天国の金色の草原にて奏でられます楽曲のまさにそれであります。どこまでも透き通る御言葉は我々の心の奥底に染み入りまして、魂をお救い下さるのです。その御言葉は世界の摂理であり絶対の真理なのでございます。


「そうよ、わたしが右と言ったら右。ネギと言ったらネギ。ワケギじゃないのよ」


 だと言うのに、ミキちゃん先生と来たら、長髪は縛りなさい校則違反ですとか香水はつけてはいけません校則違反ですとか。

 ホームルームが終わるや否や、わたしはミキちゃん先生に連れられ階段の踊り場に。ミキちゃん先生の低く抑えたお説教は、それでもよく通り、階段と踊り場に反響してわたしの耳に入ると、なんだか改宗したくなる。


「だからさ、香水じゃなくて、お香。本物の香木をお焚き上げしたの。朝のさ、説法で。インドのなんとかってお坊さんがさ、くれたやつ」

「香水も香木も校則違反です。それにあなた、説法する立場じゃないでしょ。私に説教されてるのよ」


 ぐぬぬ、神の言葉をも恐れぬ背徳者め。

 それ以来わたしの後光は、大学を卒業したばかりのミキちゃん先生の熱血教師魂を刺激してしまったらしい。事あるごとに呼び付けられてはあれやこれやとお説教。やれ校内での布教は校則違反ですだとかやれ私的な説法のための講堂使用は校則違反ですだとか。

 わたしはその都度、お布施から捻出されるお小遣いの幾らかをミキちゃん先生に握らせようとしたり、わたしの性奉仕用のムキムキぺろぺろ犬信者を充てがおうとスマホで写真を見せるが、これがかえってミキちゃん先生を本気にさせてしまったようだ。お説教タイムは日増しに伸び、いよいよ信教の自由の権利が侵されそうになった辺りで、わたしは教団のそーゆーの専門部隊を使いミキちゃん先生を拉致った。道場のある教団敷地内にはこーゆーの用の監禁部屋が拵えてあるのだ。

 ミキちゃん先生を荒縄で縛り上げる。何重にも巻いた縄に圧縮されむちっと形を崩しはみ出たミキちゃん先生の大きなおっぱい。わたしはたわわなおっぱいを眺め、ごくり、唾を呑み込み新しい教義に目覚めそうになる。


「こんな事、校則違反ですよ」

「ぐふふっ、校則なんていつまで守っていられるかな?」


 その後ミキちゃん先生を散々いたぶり、辱め、1週間水だけ生活をさせ、24時間ヘッドフォンでわたしのありがたい説法を聞かせたりした。

 でも、ミキちゃん先生は本当に黄金の魂の持ち主だったようで、決して屈さず、あくまで清く、そうしてわたしを更生させるのだと自ら教団に入信し、あれよあれよと上り詰め、今や大幹部。わたしの右腕と左腕を兼任している。


 そして今、わたしはこーゆーの用の監禁部屋に閉じ込められ定期テストの勉強中だ。


「ミキちゃん先生、テストだるい。ハルマゲドンしたい」

「天使様、教団内で先生はおよし下さい。それに天使様のお役目は全人類を救うことと、勉学に励むことですよ」

「ふええーい」


 しかし、連日のテスト勉強も虚しくわたしは赤点をとり、職員室でまたもやお説教。


「ミキちゃん、もうだめだー。行ける大学ないわ、教団に就職して世界滅ぼすわ」

「学校では先生と呼びなさい。簡単に諦めてはダメ。簡単に世界滅ぼしちゃダメよ」


 「ミキ先生、精が出ますね」と近くの席のイケメン先生がミキちゃん先生に声をかけると、ミキちゃん先生は頬を染め俯いた。


「ミキちゃん先生、あーゆーのタイプなん?」

「そ、そんなんじゃありません」


 とかなんとか言いながら、ミキちゃん先生はイケメン先生に確実惚れているのであり、イケメン先生もその事を察しているので時々食事に誘ったりする。わたしは教団諜報部を回してイケメン先生の身辺を洗った。報告では実はイケメン先生には既に彼女がおり、これはミキちゃん先生に対する背徳行為だ。


「ミキちゃん、どうする? イケメンの彼女拉致る? お金掴ませてもいいけど。それか殺る? 道場の床下に埋めときゃ絶対見つかんないよ?」


 心配になって、ミキちゃん先生に伝えた時だ。ミキちゃん先生はわたしの手を取り、真実の愛についてあれやこれや教えてくれた。ははっ、どっちが教祖様かわかんない。最後にミキちゃん先生はわたしをぎゅっと抱きしめ「いつか天使様にも分かる時が来るわ」そう言った。ミキちゃん先生の言葉も、体もとても温かかった。


 それが最後に感じたミキちゃん先生の温もりであり、ミキちゃん先生はイケメンにいいように弄ばれ、貢がされ、仲間の先生共に輪姦され、そうして穢れ、とうとう教団のお金に手をつけてしまったところを拿捕した。ミキちゃん先生は泣いて土下座したけども、他の信者の手前罰せなければならない。たくさんの信者の前で数人のムキムキぺろぺろ犬信者に囲まれたミキちゃん先生は、しかし、もうとっくに壊れていて、犬みたいに自ら犬信者のおちんぽをぺろぺろしだし、きゃんきゃん喘いで尻尾を振った。ミキちゃん先生の黄金の魂は失われてしまったのだ。わたしはもう見ていられなくて、説法の時に太鼓を叩く、犬信者のおちんぽみたいな太い鉢を振り上げた。


 どーん。


「晴れるや、晴れるや、千年王国!!」


 どーん。


「「晴れるや、晴れるや、千年王国!!」」


 どーん、どーん。


「神の御声を今ここに、ハイ!!」


 どーん、どーん。


「「神の御声を今ここに!!」」


 どーん、どどーん。



 その夜のわたしの説法は伝説的に今も教団で語り継がれている。わたしも、信者も超トランス。夢中になりすぎて、3人程一緒に浄化してしまった。


「えーと、それ、床下に。うーんと、匂うとアレだから。なんだっけ、バイオなんとか買ってさ」


 わたしは、ミキちゃん先生が盗み出そうとした札束を教団幹部に投げつけた。札束をまとめた帯は切れ、バラバラになったお札はひらりひらり思い思いに舞って、ミキちゃん先生のたわわなおっぱいの上に落ち、リトマス紙の色が変わるみたいに端から赤く染まった。

 バイオマスなんとか。ほら、仮設トイレとかで、汚物を分解する。微生物とかの。


「なんだっけ、バイオマスなんとか。ほら、ねえ、ミキちゃん先生、なんだっけ」




──天使様、ますます御姿麗しく、凛と伸びましたる背の下程までの御髪は、漆黒の如く艶めきまして、道場の窓より射し込む日に照らされますと御滝のようにきらりきらりと輝きます。


 どーん。


「晴れるや、晴れるや、千年王国!!」


 どーん。


「「晴れるや、晴れるや、千年王国!!」」


 今も説法なんかしていると、時々神様の声に混じってミキちゃん先生の声が聞こえる事がある。

 

──天使様の御口が奏でます御言葉は、ますます天の神の御前に御近付きになり、どこまでも透き通るその御声は我々の心の奥底にあります不浄を炎で焼き尽くして下さいます。その御言葉は世界の摂理であり全人類の真理なのでございます。


 どーん、どーん。


「神の御声を今ここに、復唱おおぉ!!」


 どーん、どーん。


「「神の御声を今ここに!!」」


 どーん、どどーん。


「今日のおぉ、御告げっ!!」


 

 そうだね、ミキちゃん先生。


「そんなわけで、そろそろ全人類救おっか」


 そうよ、わたしが右と言ったら右。ハルマゲドンと言ったらハルマゲドン。春巻き丼じゃないのよ。


 どどん。

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