2月22日(ネコの日):呪いでネコにされたら、ホラー耐性つよつよギャル猫とマッチングした
※動物虐待をほのめかす描写が含まれております。苦手な方はご注意ください。
☆
床が近い。
天井が高い。
家具やら何やら、全部大きい。
姿見にはキョトンとした顔の黒猫が映っている。
私……ネコになっちゃったみたい。
☆
町内に、有名なネコ屋敷があった。
時々見かけるネコ達は可愛かったけど、どの子も痩せていて可哀想だった。夜中でもニャーニャーとひっきりなしに鳴いて、近所の人を困らせていた。
そのネコ達の飼い主だったおばあさんが亡くなった。ネコ達は施設へ引き取られ、屋敷は売りに出された。
ところが、未だに屋敷からネコの鳴き声がするという。
「未月、ちょっと様子見に行ってきてよ。ネコ、好きでしょ?」
「まぁ、好きだけど……」
私はネコ屋敷の近所に住む友達に頼まれて、まだネコがいないか見に行くことになった。その友達は重度のネコアレルギーで、屋敷の前を通りかかるだけでくしゃみが止まらなくなるので、行くのは私一人だった。
屋敷はボロボロで、庭には雑草が伸び放題になっている。不動産屋さんが閉め忘れたのか、玄関の鍵は開いていた。なんて不用心な。
「お邪魔しまーす。ネコちゃーん? いますかー?」
屋敷の中は薄暗く、いないはずのネコの臭いが充満している。カーテンや壁紙はビリビリで、床のあちこちにネコの毛が散らばっていた。
私は懐中電灯でまわりを照らしながら、屋敷の中を見て回った。一部屋だけ鍵が閉まっていて見られなかったけど、どこにもネコはいなかった。
屋敷の中を歩くにつれ、だんだん視点が低くなった。
家具は見上げるほど巨大化し、高層ビルのよう。懐中電灯は重すぎて持てないし、服はブカブカで脱げてしまう。足だけで歩くのがつらくて、四つん這いになった。
「ニャ、ニャニャニャ?(訳:な、何が起こってるの?)」
……ニャ? 私、今「ニャ」だけで喋らなかった?
姿見に目をやると、見慣れない黒猫がキョトンとした顔で、私を見ている。私が近づくと、黒猫も近づく。私がウインクすると、黒猫もウインクした。
「ニャ、ニャ、ニャ……!(訳:な、な、な……!)」
私は叫んだ。ネコ語で。
「ウニャーッ!(訳:ネコになってるーッ!)」
☆
「ネコになった」なんて信じてくれるのは、なーたんしかいない! 床に落ちた上着のポケットから、猫パンチでスマホを取り出す。顔認証はできなかったけど、肉球でパスコードを入力した。
「ウニャニャ……(訳:くっ、肉球のフリック入力むず……)」
そこへ、
「ニャン? ニャニャン?(訳:新入り? なんか、テンパってる系?)」
「ウニャー?!(訳:キャー?!)」
びっくりしすぎて、ビョーンと後ろへ大きくジャンプした。
声をかけてきたのは、派手な毛のメス猫だった。なんというか……ギャルっぽい。可愛い首輪をはめ、耳や尻尾にもアクセサリーをつけている。爪にはネイルまでしていた。
ギャルっぽいネコは私のジャンプを見て、笑った。
「ニャハハッ!(訳:跳びすぎなんだけど! ウケるー!)」
「ニャウニャ……(訳:わ、わざとじゃ……体が勝手に動いちゃって)」
「ニャン?(訳:もしかしてキミ、人間?)」
「ニャッ?!(訳:えっ、何で分かるの?!)」
ギャルっぽいネコは「ニャルノニャン!(訳:ギャルの勘!)」とドヤった。
※ここからはネコ語と人語を区別するため、ネコ語のセリフは『』で表示します。
『あーし、にゃーたん! キミは?』
『未月……』
『じゃ、みーたんね! にゃーたん&みーたん、良くない? なんか、コンビみたいじゃん!』
にゃーたん、なーたん……まさかね? 本当になーたんだったら、私の名前で気づくはずだし。「つきピはつきピっしょ?」って、忘れてそうだけど。
『実はこの屋敷、呪われてんの。しばらくいたらネコになっちゃう、って呪い』
『そんな……だって、この前まで住んでた人いたんだよ? 呪われるなら、その人だってネコになるはずじゃない?』
『それ、ネコばっちゃっしょ? 屋敷が呪われたのって、ばっちゃのせいなんよね』
『えっ』
ネコ屋敷のおばあさんは、誰よりもネコを可愛がっていた。そのおばあさんのせいで呪われたって、どういうこと?
『ネコばっちゃって寂しがり屋でさー、気に入ったネコがいたら、後先考えずに飼ってたんよ。ペットショップで爆買いしたり、野良猫を拾ってきたり、よその飼いネコを盗んできたり。マックスで、二百匹近くいたかな? "たとーしーくほーかい"ってやつ。逃げたり死んだり共食いしたりして、五十匹くらいまで減ったけど』
『共食い……』
床に散らばっている毛を見て、ゾッとする。そんなネコ達を見て、おばあさんはなんとも思わなかったの?
『そうやって死んだネコ達の怨念が屋敷を乗っ取って、ここに来た人間を呪ってる。あの子達の無念が晴れない限り、ここは呪われたままなんだろうね……』
『ネコになった人間が元に戻る方法はないの?』
『あるよ! あーしの飼い主が、そっちジャンルの専門家だから!』
『ホント?!』
『うん、もうすぐ来るはず。でも、その前に……』
にゃーたんは周囲を睨みつける。黒目が大きくなり、毛が逆立った。
『ここから脱出しないとね』
『脱出?』
気がつくと、ものすごい数の黒い影に囲まれていた。全部、ネコだ。
『あれが、死んだネコ達の怨念?!』
『そゆこと! 走るよ、みーたん!』
「ニャワワッ?!」
にゃーたんは「ニャオラッ!」と果敢に影へ飛びかかり、道を開いてくれる。私ははぐれないよう、必死でにゃーたんの後をついて行った。
ネコの怨念も、私達を飲み込もうと迫ってくる。
同時に、彼らの声が聞こえた。最初は私を引き留めようとしているのかと思ったけど、違った。
『裏切り者め』
『マヌケめ』
『可哀想に』
『お前だって、ひどい目に遭わされたじゃないか』
『忌まわしい毛色め』
『なぜ、人間を助ける?』
『その人間を置いていけ』
『にゃーたん』
……ネコの怨念達は、にゃーたんに話しかけていた。
『にゃーたん、』
『あいつらのことは無視して! 何言われたって関係ないから!』
『にゃーたん、ここに住んでたの?』
『……昔はね』
にゃーたんは割れた窓の隙間から外へ出る。私も後に続こうとして、ネコの怨念に尻尾を噛みつかれた。
「フギャーッ!(訳:痛ぁー!)」
「みーにゃん?!(訳:みーたん?!)」
にゃーたんが慌てて戻ってくる。私の尻尾を噛んでいるネコの怨念へ飛びかかり、噛みつき返した。
だけど、ネコの怨念はびくともしない。それどころか、私とにゃーたんを連れ、窓から遠ざかった。
あぁ、あと少しだったのに……。
☆
そのとき、
「ガウッ!」
白くて大きな塊が、外から壁ごと窓を突き破り、目の前に飛び込んできた。あれは、黒いトラ縞の……ネコ?
『おい、また来たぞ!』
『ということは、あの女もいるのか!』
『嫌だ! 食われたくない!』
『逃げろー!』
白くて大きい黒いトラ縞のネコ(?)は大きく口を開き、ライオンのような大きな牙でネコの怨念に食らいつく。食らいつかれた怨念はシューッと体が解けて、消えた。
他のネコの怨念はネズミのような速さで、家のあちこちへ逃げた。私とにゃーたんは、その場に置いてけぼりにされた。
「ぐるるる……」
『えーっと……』
大きな白いネコは私達を威嚇している。今にも襲ってきそう。にゃーたんはネコの怨念に振り落とされた衝撃で気絶してる。
これは……ピンチなのでは?
「ガウーッ!」
「フニャーッ!(訳:いやーッ! 助けて、なーたぁぁぁーん!)」
「しらゆき、ステイ!」
見覚えのある派手髪が、私達と大きな白ネコの間に立ちふさがる。あれは……あれは……!
「ニャーニャン!(訳:なーたん!)」
「はにゃ?」
派手髪のギャルの子が振り向く。
やっぱり、なーたんだ! なぜか白トラ耳メイド姿だけど、なーたんだ!
なーたんは不思議そうに、私を抱え上げた。
「むー? この黒ネコたん、つきピと同じ気配がするなー? もっしー、つきピ?」
「ウニャ!(訳:そうだよ!)」
「おー、よしよし。怖かったねー。にゃーたんと一緒に、あったかいお部屋に行こうねー」
「ウニャラ? ウニャラニャラ? ニャッ?!(訳:ちょ、なーたん? 私って気づいてるよね? ね?!)」
「きゃはー! うにゃうにゃ言ってて、きゃわたーん!」
「ニャニャーン?!(訳:気づいてなーい?!)」
だ、大丈夫だよね? 本当は気づいてるよね? 私の服と持ち物回収してくれてるから、気づいてるはずだよね? ね?
「はいどー、しらゆきー!」
「がうッ!」
なーたんは床に落ちていた私の服と持ち物、それから私とにゃーたんをリュックに仕舞うと、大きな白ネコの背に乗って、屋敷から脱出した。このネコ、なーたんのペットだったんだ……。
☆
「つきピ、かわよ! このまま、あーしとバイトしな?」
「む、ムリムリ! 人前でネコ耳メイドはハードル高すぎ!」
「えー。似合ってるのにー」
なーたんが連れて来たのは、なんとメイドカフェだった。なーたんのバイト先のひとつなんだって。
そのメイドカフェのバックルームで、元の姿に戻してもらった。具体的にどうやったかは分からないけど、なーたんが急にバイオリンを弾き始めて、気づいたら人間の姿に戻っていた。
着ていた服はネコの毛やホコリで汚れてしまっていたので、仕方なくお店のメイド服とネコ耳を借りた。ネコ耳はつけなくてもいいような気がするけど、今日はネコの日だから、このお店にいる間はネコ耳をつけなくちゃいけない決まりらしい。
にゃーたんは目を覚ますなり、私を威嚇した。
しばらくすると、私だって気づいたみたいで、のどをゴロゴロ鳴らしながらモフらせてくれた。元に戻れたのは良かったけど、にゃーたんの言葉が分からなくなったのは、ちょっぴり残念。
「お店ににゃーたんも連れて来て良かったの?」
「へーき。にゃーたん、パンピーには見えないし」
「見えないって……」
……屋敷にいたときは気づかなかった。にゃーたんの体は、うっすら透けている。
「にゃーたんはさ、ねこばっちゃの推しだったの。にゃーたんだけ鍵つきの個室でー、毛も派手派手に染めてー、首輪とかアクセとか盛り盛りー、みたいな? だけど、ねこばっちゃが死んで、お世話してくれる人がいなくなっちゃって、にゃーたんも死んじゃった。部屋に鍵がかかってなかったら、外に逃げられたかもしんないけど」
……そういえば一部屋だけ、鍵がかかってて入れなかった部屋があったっけ。にゃーたんは、あの部屋にいたんだ。
「死んだ後、にゃーたんも他のネコ達の怨念に飲まれそうになったけど、その前にねこばっちゃに愛されていたことを思い出して、逃げた。で、あーしに保護されたってわけ。今はあーしのとこで修行しながら、怪異解決系ギャル猫として活動してるよん」
「あの屋敷、なんとかならないの?」
「かなり根深い呪いだからねー、気長にいくしかないっしょ。ま、あーしが目ぇつけた以上は、絶対なんとかするけど」
にゃーたんの背中をなでる。たしかに、体温を感じない。
こんなちっぽけな体で、どれほどの苦痛を味わってきたんだろう。私にできるのは、私を守ってくれたにゃーたんを労わることくらいだった。
「助けてありがとう、にゃーたん」
「ニャー」
『戻れて良かったじゃん、みーたん』
☆
「そういや、なーたんってトラ飼ってたんだね。背中に乗れるなんて、すごいじゃん」
なーたんはなぜか、あからさまに目をそらした。
「違うよ? ちょっと大きめのネコだよ?」
「いや、どう見てもトラ「ネコだよ」」
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