2月3日(節分):チンピラ集団(鬼)に絡まれたら、ギャル集団(装備:豆)に助けられた

 今日は「いつかやるぞ!」と決めていた、ギャルメイクにチャレンジしてみた。制服もギャルっぽく着崩す。


 部屋の姿見で最終確認。

 おぉ、ちょっぴりなーたんっぽい! うちの高校は校則がゆるいから、これくらいなら大丈夫。さすがに、なーたんみたいな派手髪やカラコンはダメだけど。なーたん、先生に注意されないのかな?


 朝食も、いつもは納豆ご飯にお味噌汁だけど、今日はギャルを意識してパンケーキと野菜のスムージーにした。

 本当は、買い溜めしていた納豆が全部なくなっていたせいだけど。「三人しかいないのに変だねぇ」って、両親は首を傾げていた。もちろん、こっそり食べたのは私じゃない。


「ごちそうさまでした」


 出かける準備を整え、いざ学校へ! 私は入学式の日くらい晴れやかな気持ちで、家を出た。


「君、ギャルの子?」

「ちょっと俺らと遊ばない?」

「スマホ、持ってんだろ? 出せ」


 ……家を出て数分で、ガラの悪そうなチンピラ集団にからまれた。逃げる間もなく、囲まれる。

 全員、私より身長が高くて大柄だ。誰か通りかかっても、私の姿は見えないと思う。


 な、なんで? うちの近所は治安が良いはずなのに!


 よく見ると、チンピラ達は頭やおでこにツノを付けていた。今日は節分だし、鬼のつもりなのかな? 逃げる隙を作るために、ちょっぴりおだててみた。


「そ、そのツノ、かっこいいですね。どうやって付けてるんですか? もしかして、本物の鬼だったりして?」


 チンピラ達からドッと笑いが起こる。だけど、その目は笑っていなかった。


「ほぉーら、やっぱアイツらの仲間だったじゃねぇか」

「そのとおり。俺らはお前達が始末しようとしている鬼だよ」

「骨までバリバリ喰ってやる!」


 鬼? 本物の? こんな朝早くの、住宅街に?


 私の目の前で、チンピラ達の体が倍以上に膨れ上がる。目は血走り、耳はとんがり、口は裂け、爪は鋭く伸び、肌の色が赤や青などのカラフルな色に変わる。あっという間に、絵本に出てくるような鬼の姿に変わった。


 違うのは、服装がチンピラのままってとこだけ。あ、でもカーゴパンツの柄、トラじまだ。


 鬼になったチンピラ達の筋骨隆々な腕が伸びる。捕まる直前、


「鬼は外!」

「福は内!」


 と、数人の女子の声がした。

 同時に、何か細かいものが飛んでくる。地面を見ると、可愛くデコられた豆が大量に転がっていた。


「いててッ、援軍を呼びやがったな!」

「一旦ズラかるぞ!」

「あとでおぼえておけよ!」


 チンピラ達は人間の姿に戻り、バラバラに逃げる。ものすごい身体能力で、ある鬼は人間離れした速さで走り去り、ある鬼は高いフェンスをひと息で飛び越え、ある鬼は重力に逆らって電柱をかけ上がり、電線の上を器用に滑っていった。

 中にはどんくさい鬼もいて、豆に足を取られて盛大に転んでいる鬼もいたけど。


 豆を投げた女の子達が着く頃には、鬼は一人もいなくなっていた。


「あーもー、逃げられた!」

「ざくちがのろかったせいじゃね?」

「あんたが一番遅かったっつーの!」


 ……チンピラがいなくなったと思ったら、今度はギャルの集団に囲まれた。助けてくれた女の子達は全員派手髪ギャルで、制服を可愛く個性的に改造していた。


 ギャルだからかな? みんな、どことなくなーたんと似た雰囲気がする。


「てか、絡まれてたのつきピじゃん。なして?」

「なんか今日のつきピ……写真よりギャルい?」

「それな」

「把握。ギャルいから、ウチらの同業だと思われたんじゃね?」

「あーね」

「術者か見極められなくて、片っ端からギャル襲ってるってこと? バカなの?」

「ほんそれ。まぢ迷惑すぎんご」


 しかも初対面のはずなのに、私のこと知ってるっぽい? なーたんとは顔見知りみたいだけど。


「あの、さっきは助けてもらってありがとうございました。皆さんはなーたんのお友達なんですか?」

「まー、そんなとこ」

「てか、なんで敬語? ウチらタメなんだからさ、タメ語で話そうぜい」

「あ、うん。それで……もしかして、私がどうしてチンピラに狙われたのか知ってたりする?」


 すると、ギャルの子達は急にコソコソし出した。


「……これ、どこまで話していいの?」

「アイツらが鬼ってことはバレてるんだよね?」

「とりま、鬼にタゲられてる理由と、対処方法教えとこ?」

「あと、豆」

「そう、豆」

「豆、ガチ大事」

「豆?」


 ギャルの子達は大量の、業務用の節分の豆をくれた。


「実は、アイツら……鬼の間でギャル狩りが流行ってるんよ。ほら、なーたんってつよつよギャルじゃん? こらしめられてる鬼も多くてさ、ギャルはみんななーたんみたいなやばい子ばっかだと思われてるわけ。つきピが狙われたのも、たぶんギャルかったせいだと思う」

「そうだったんだ……」


 ……あんな怖い目に遭うくらいなら、イメチェンなんてしなきゃ良かった。


「で、何で豆?」

「アイツら全員、豆嫌いなんよ。食べるのはもちろん、ぶつけられるのも嫌」

「また来たら、その豆ぶつけな? 足りなくなったら、そのへんのコンビニとかスーパーとかで買えばいいから。豆ならなんでもいいよ。黒豆でも、落花生でも」

「大事なのは、声! 投げるとき、絶対『鬼は外、福はうち』って言うんよ! これ、マストな!」

「なんか、節分の豆まきみたいだね」

「間違っても、ジェリービーンズなんて買わないでよね。あと、ナッツ系。あれ、豆じゃないから」

「え、ナッツって豆じゃないの?」


 みんな、私の質問に親切に教えてくれる。

 だけど、もっと手っ取り早くチンピラに襲われない方法があるって、私は気づいてしまった。


「……みんなありがとう。でも、私はもう大丈夫。家すぐそこだからさ、一旦帰ってメイク落としてくるよ。髪型と服装も直してくる」

「は? つきピが変わる必要なくない?」

「だって、私……みんなみたいな、本物のギャルじゃないから」


 どうして、ギャルになりたいだなんて考えてしまったんだろう? なーたんにあこがれてるから? 変わりたかったから?


 その気持ちに嘘はないけど、怖い目に遭ってまでギャルで居続けられるほど、強い願望じゃなかった。


 家に帰ろうとする私を、ギャルの子達は引き止めてくれた。


「言っとくけど、ギャルに本物とか本物じゃないとかないから」

「そうそう。ギャルになりたいって思った時点で、もうギャルになってるもんだからね?」

「てか、つきピ悪くないし。ウチらとノーマルギャルの違いが分かんないアイツらが無能なだけじゃん?」

「そのメイク、早起きして準備したっしょ? 学校のフレにも見せたほうがいいって」

「ほんそれ。つきピ、まぢきゃわたん」


 涙をぐっとこらえ、「ありがとう」とお礼を言う。なーたん、友達のギャルまでいい子とか、ホント最強すぎ。


 にしても、ギャル狩りなんてひどい! 私でもアイツらを追い払える方法、何かないかな?


 ……あ、そうだ。豆なら何でもいいなら、使ってみようかな。



  ☆



 2月3日、節分の日。私は近づいてくるチンピラ(鬼)に豆を投げまくった。


 ……豆は豆でも、よーくかき混ぜたを。


 私を散々脅していたチンピラ達が悲鳴を上げながら逃げ惑う様は、なかなか清々しい光景だった。さすがに、学校では節分用の豆を投げたけど。


 後日、なーたんにめちゃくちゃ感謝された。なーたんも節分の日、打倒ギャル狩りに燃え、全国を飛び回っていたらしい。あの日以来、ギャル狩りはおさまったそうだ。


「なーたんは何投げたの?」

「んーとね、カラつきの落花生とゴリラの鼻くそ!」

「鼻くそ?!」

「本物じゃないよ? 黒大豆の甘納豆! もー、ガチへとへと! 全然疲れとれなくてさー。つきピ、今日ヒマ? 今からカフェ行かん?」

「いいけど、そんなに疲れたの? 大丈夫?」

「へーき、へーき! ちょっち、豆降らしただけ!」


 そういや節分の日の夜、日本全国で豆が降ったってニュースでやっていたような……いや、まさかね?


「てか今日のつきピ、めっちゃギャルくない? きゃわすぎなんだけど! ちょ、いっしょに自撮ろ!」

「うん!」


 何枚も自撮りした後、私達は喫茶店で豆乳カフェラテを飲んで帰った。


 そういえば、コーヒー豆も豆だな。

 今度またアイツらと出くわしたら投げてみたいな。納豆と違って、良い香りしそう。高いからやらないけど。

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