1月1日(正月):謎の(?)黒髪巫女ち

 友達と初詣に来た。

 白い虎を祀っている神社で、ものすごく御利益があるらしい。朝早く出たけど、着いたときにはすでに長い行列ができていた。


 参道に沿って、出店がたくさん並んでいる。私達は気になった食べ物を買い食いしながら、お詣りの順番を待った。


「ここの神社の出店、虹色の綿菓子とかチーズハットグとか、映えそうなスイーツいっぱい売ってるねぇ」

「写真スポットまである! ここは原宿か?!」


 お腹がいっぱいになった頃に、順番が来た。手と口を清め、賽銭箱の前に立つ。鈴を鳴らし、お金を賽銭箱へ入れ、二礼二拍手。欲張りかもしれないけど、三つお願いごとをした。


 なーたんともっと仲良くなれますように。

 苦手な球技を克服できますように。

 今年は祠を壊しませんように。


 最後に一礼し、離れる。三つ全部叶わなくてもいい。どれか一つでも叶ったら嬉しい。


「お詣りの次はおみくじだね」


 おみくじを探していると、他の参拝客が広場へ移動し始めた。友達が神社の人に理由を訊ねる。


「神主さんの娘さんが広場で奉納演舞やるって! 私達も見に行こう!」


 友達に手を引かれ、広場へ急ぐ。なんでも、神主さんの娘さんは有名な巫女さんで、踊りそのものも上手なんだけど、娘さんの演舞を見た人は運気が一年間爆上がりするらしい。


「神社の人、本当に爆上がりって言っていたの?」

「うん。爆上がりフィーバーPONPON! って言ってた」

「嘘だぁ。原宿じゃあるまいし」

「ほんとだって!」


 開けた広場に、木製のステージが用意されている。すでに、ステージのまわりには人だかりができていた。


「あちゃー。これじゃ、全然見えないねー」

「ね。もっと近くで見たかったな」


 半ばあきらめていると、後ろからドンッと誰かに押された。


「お嬢ちゃん達、もっと前詰めて!」

「詰めないと、後ろのほうのヒト達が見えないでしょ!」

「まったく。これだから人間は」

「え? え?」


 そのままドンドン押され、気がつくと友達とはぐれ、客席の最前列に立っていた。


 すごい! 願望が叶っちゃった! 本当にご利益がある神社なんだ……。


『それではただいまより、巫女による演舞を始めさせていただきます』


 真面目そうな神主さんがマイクで呼びかける。


 さっき、友達に広場で演舞をやることを教えてくれた人だ。あんな真面目そうな人がPONPON言うわけないじゃない。後で友達に文句を言っておこう。


 盛大な拍手の中、巫女さんが壇上へ現れる。私と同い年くらいの、長い黒髪の女の子だ。清楚ってかんじで、なーたんとは真逆のタイプだった。


 シャラン、と巫女さんが鈴を鳴らす。ざわついていた客席が、一瞬で静まる。巫女さんの凛とした目つきがカッコよかった。


 その後三十分間、巫女さんは舞った。鈴を鳴らしながら、笛や太鼓の音に合わせ、美しく優雅に舞う。私も、周りの人達も、たぶん友達も、みんな巫女さんに見入っていた。


「すっごくきれい。なーたんにも見てほしかったなぁ」


 ふと、巫女さんと目が合った。「気のせいかな?」と思ったけど、二回目に目が合ったときは少しはにかんで、ウィンクしてくれた。


 こ、これは……いわゆるファンサというやつでは?! 私はますます、巫女さんから目が離せなくなった。


 演舞が終わり、はぐれた友達を探した。友達は客席の後ろのほうにいた。


「みーつーきー! あんた、なにちゃっかり最前列にいんのよ!」

「でへへ。後ろから誰かに押されて、気づいたら。それより! 私、あの巫女の子にファンサされちゃったんだけど!」

「ファンサ? 巫女さんが?」


 私は演舞中のことを話した。友達は信じてくれず、「気のせいでしょ」と温かい目ではにかんだ。


  ☆


 改めておみくじを探していると、「つきピ!」と派手髪の巫女さんに呼び止められた。なーたんだ!


 他の巫女さんと同じように、着崩したりアレンジしたりせず、ちゃんと着ている。アクセサリーもしてないし、足袋は無地の白。なーたんにしては珍しい。


「なーたん! その格好、どうしたの?」

「あーし、ここの神社でバイトしてんの。ほら、巫女服ってきゃわたんじゃん? おこづかい……じゃなくてバイト代も高いし、いっせきにちょーみたいな?」

「じゃあ、もしかしてさっきの演舞見てた?」

「え? まー、なんとなく? 仕事いそがしくて、あんま見れてないけど」

「「もったいない!」」


 私と友達は熱く語った。いかに巫女さんが清楚で可愛かったか、どれほど巫女さんの演舞が美しく優雅だったか!


 私達が語り終える頃には、なーたんはなぜか耳まで顔を真っ赤にし、照れくさそうに笑っていた。


「へ、へぇー? 巫女ち、そんなにすごすごだったんだー? あーしも見れば良かったなー(棒)」

「ファンサもしてくれたんだよ! 私と目が合ってね、ウインクしてくれたの!」

「いやいや百パー見間違い! あんな大勢の中で、顔も知らない未月にだけウインクするなんてあり得ないじゃん!」

「えー? PONPON言う神主さんの方があり得ないでしょ」

「なーたん、巫女さんのバイトやってるんだよね? 踊ってた女の子と会った? ここの神社の神主の娘さんなんでしょ?」

「普段はどんな子なの? 踊りはいつからやってるの? どこの学校? てか、ラ◯ンやってる?」

「そ、それは個人情報だから教えられないなぁ(棒)」


 くッ、なーたんめ! どうして教えてくれないのよ!


「それより! 二人ともおみくじ引きに来たんでしょ? ここのおみくじ、神社オリジナルのおみくじだから、ガチオススメだよ! あーしが案内するから、今から引きに行こう?」

「引いたら、あの子に会える?」

「それはおみくじ引いてみないとなんともぉ……」

「よし、引こう。『待ち人:必ず来る』が出るまで引こう」

「賛成」

「……もう会ってるんよなぁ」


 なーたんが小声でつぶやく。私達は頭の中がおみくじでいっぱいで気づかなかった。


  ☆


 ところで、おみくじは全部ギャル語だった。友達は「大吉まぢ神ってる! フレ、支えてあげよ?」、私は「小吉ぴえん! 知らない間にトラブってるかも!」。


「なーたんが作ったの?」

「うん。パ……神主さんに頼まれちゃって」

「私のおみくじ、『学問:バイブス上げてけ、PONPON!』って書いてあるんだけど」

「それは神主さんが考えた文章だね」

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