第13話
「ここに、僕を入れてもいいですか?」
「え、そ、こ…っあ!」
にゅるり、と透の人差指が胎内に入ってきた。異物感もなく、すんなりと入って、ナカを撫でる。知らない感覚に、胎内で鳥肌が立つようにざわめきたつ。
「や、やっ、と、るっ、だ、めえっ」
再びベッドに倒れ込み、シーツを握りしめる。にゅく、にゅく、と彼の指が出入りする。腹側を撫でるそれに、声が止まらず、内腿がずっと痙攣しているように震える。
「や、ああっ!」
急に爪先から頭の先まで、びりびりと痺れる。何かと視線を彼に向けると、妖艶に舌なめずりをする透がいた。見たことのない透の表情に、身体のナカが切なく絞られてしまった。
目が合うと、長い前髪をかき上げた透が、ぎらついた瞳を細めて笑んだ。
「ここ、先輩にきもちいとこ、ですね」
「や、そこ、だ、めっ、ああっ!」
気づけば胎内に挿入されている指が三本に増えていて、それらが器用にばらばらと蠢き、順番にナカのおかしくなるしこりを弾いた。その度に、背中を仰け反って、震える屹立から少量ずつ透明な液体を散らす。
「依織先輩、かわい…可愛いです」
「や、やだぁっ、とお、る、やめ、てっ」
シーツに爪を立てて快感を逃がそうとする。しかし、その刺激はセリフと共に、ぴたりと止む。
どうして、と透に視線を移すと、前髪の隙間から欲に濡れた瞳が見える。それだけで、ナカがきゅきゅ、と反応してしまう。
「な、んでぇ…、やぁ、んん…」
勝手に腰がくねってしまい、止まったままの指先がナカをかすめる。後ろに入っている指先の手首に両手で触れる。
「な、で、止める、のお…」
「だって、依織先輩がやめてって言ったじゃないですか」
いつもの笑顔と違って、意地悪に口角をあげる透に、唇を噛んで上目で見つめる。
「やめますか?」
僕が望むように、優しく笑って応えてくれていた透が、違う男に見える。
赤い唇の隙間から、きらり、と白く発達した八重歯が見えた。
(アルファだ…)
意識してしまうと、透のおひさまの匂いが、より果実のような深く重い甘美な香りへと替わり、僕を浸食する。その間もずっとナカは刺激が欲しくて締め続けている。
視線を彷徨わせてから、意を決して、彼を見上げる。小さく首をひねって、子供にうながすような笑みを浮かべている彼に、少し悔しさを感じながら、少しだけ首を横に振った。
「依織先輩、どうしたいの? やめる?」
「…やっ」
指を引き抜こうと動かした手首を力強く握りしめる。それから、唇を噛んで、舐めて、彼を見つめる。
「して…」
「ん?」
意地悪をされて、悔しさと恥ずかしさと、それを上回る陶酔的な悦への願望に涙が浮かんでくる。
震える吐息が自分でも驚くほど、熱かった。
「透、いっぱい、して…きもちく、して…」
絞り出した言葉が音となると同時に、ベッドに突き飛ばされる。後ろから、ずるり、と指が抜けてしまい、急いで彼の瞳を探す。
いつの間にか、制服のシャツを脱ぎ、スラックスも下着も脱ぎ捨てた彼は、ずっしりと重く、ぬらぬらと光る、僕とは全く違う大きさの屹立を僕の股間に押し当てた。
(こ、これが…僕の、ナカに…)
目を見開いて見つめたそれが、僕のものに頬ずりをするように擦り付けられて、会陰を少し押す。それだけで内臓をえぐられるような悦楽が全身を駆け巡る。
「依織先輩…、大好き」
眉を下げて、うっとりと囁いた彼は、唇を舐めながら、僕の後孔にそれを押し当てた。
シャツで隠されていた身体はしっかりと筋肉に包まれていて、重しのように僕に覆いかぶさる。その重みが心地よくて、急いで首に腕を巻き付けて、キスをした。睫毛が触れ合う距離で見つめ合いながら、たまらず言葉が漏れる。
「僕も、透のこと…」
は、と意識が明瞭になる。
布団をかき抱き、短く浅い呼吸を繰り返す。耳の奥で、ど、ど、と低く早い心音が唸る。
(え…何…、夢…?)
身体が熱い。肌に身に着けたパジャマは汗で濡れている。
違和感を得て、かけ布団を持ち上げると、瞠目する。
(薬、飲んだのに…)
「あ、んぅ…」
シャツがこすれて、胸元の二つの飾りがすっかり主張しており、甘い痺れを身体に送る。パンツの中央では、自分の分身が張り出しているのが見て取れた。
昔から、家族がオメガであることを心配して、低用量ピルを服用させてくれていた。だから、発情期らしい発情期を経験したことがない。
(ちゃんと、飲んだのに…)
幼き頃からの癖で、投薬を忘れたことがない。
だから、発情期の兆しを感じたら、それ用の薬を服用すれば、何ら問題はなかった。
(痛い…)
股間がはち切れそうにひりひりと痛む。身体の中も何か、ぐるぐると渦巻いて、重怠い。どうすれば良いのかわからずに、涙が溢れてくる。でも、誰も助けてくれない。
(透…)
唯一の救いである彼の名前を心の中でつぶやくと、さらに熱が上がった気がする。呼吸をするだけで、身体の悦が溜まってしまう。
本能のままに、震える指先で、ズボンを降ろす。
にちゃ、と粘っこい液体が、いつも排泄をする場所から糸を引いて、下着に付着していた。
「んうっ!」
屹立に恐る恐る触れてみると、爪先がびくん、と跳ねる。脳天に落雷を受けたかのような痺れがあって、背筋が痙攣する。気づけば、勝手に手が動いて、性器から溢れる粘度のある液体を利用して、ぬちゃぬちゃと音をさせながら、上下に扱いていた。にゅる、と手のひらの中に先端が包まれて、それを重力に従って、根本に降ろす。
「ふ、あ、あ…なに、これ、あ、ん、ぁ…ああっ、んう!」
いくらかもしない内に、溜まった重りが簡単に暴発して、全身を痙攣させる。先端から勢いよく、びゅ、と溢れた液体は、嗅いだ事の無い生々しいにおいを放っていて、パジャマに降り注いだ。
解き放ってから、ふるふるとしばらく全身を愉悦が駆け巡る余韻に浸り、ようやっと深呼吸ができた。すると、一度、水を口にしたら、もっと水が欲しくなるように、身体は枯渇を見せる。
(うそ…、なんで…)
先ほどまで扱いた場所は、一度ゆるくなったのに、また元通りになってしまった。
自分の身体が自分の身体でないような、得体の知れないものに思えてきて、涙が溢れた。
「依織先輩」
ふと、脳内にあの優しく愛おしい声が聞こえる。
そんなはずない。
ここは、オメガ専用のシェルターで厳重に管理されている。アルファが入れるとしたら、僕が申請書に記載していないといけない。けれど、今回の発情期も、もちろんアルファの欄は無記入だった。だから、ここに僕は、今までと同じように、一人で一週間過ごすのだ。
それなのに、夢の中と同じように、目の前に彼がいるように思えてくる。
「と、おる…」
きゅう、と直前まで、夢の中でいじられていた後孔が強く反応をした。
夢の中の透が、舌なめずりをしながら、ここに挿入をしていた。熱の犯された僕は、理性などなかった。
「ナカ、あつい、よぉ…」
さっきの意識の中では、恥ずかしてたまらなかったのに、自ら足を広げて、その奥へと触れる。そこはなぜか、ぬたりと濡れていて、その滑りを使って入口を撫でるだけでも、声が漏れてしまう。
「ふ、あ、あ…ん、あ…」
こくり、と唾を飲んで、透がしてくれたように、指を割り入れる。自分の短くて細い指では、思った満足感は得られなくて、すぐに指を増やす。初めて触れるのに、そこは簡単に自分の指を飲み込んでいく。
「あ、と、る…透…っ」
瞼の裏にいる彼の行動を思い出す。腹側を撫でられて、それから…。
「んあっ!」
中指の腹が感触が違う場所をかすめた瞬間、足の指が宙へぴん、と蹴られる。
(ここ、だ…)
三本の指先で、先ほどのしこりを探す。見つけ出すと、中指で撫でてみたり、押してみたり、三本の指で叩いてみたりする。その度に、構えていないと足先が暴れてしまう。
「きも、ちい…あ、きもち、よぉ…っ、あ、あんぅ…っ」
視線を落とすと、先ほど射精したばかりの屹立からは、先走りが絶えず溢れている。その奥からは、ぐちょぐちょ、といやらしい音が静かな防音設備の効いている個室に響く。
「ん、やあ、と、る、透、透っ」
最後に現れた、夢の中の透の裸体は、美しかった。
筋肉が隆起し、そのたくましい身体にふさわしい、立派なペニスは、グロテスクだった。
(透、意地悪だった…)
けれど、その笑みが妖艶で、たまらなくいやらしかった。
(透…、両思いって、言ってた…)
だから、僕と…。
ぎゅう、と指先を強く締め付ける。身体がたりない、と疼いて仕方がない。
「と、る…とぉ、う…透…っ」
(好き…っ)
ぐり、と強くしこりと押しつぶすと、目の前がちかちかと白んで、全身が痙攣し、跳ねる。勢いよく飛び出た精液が、頬を伝った。
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